『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』(みすず書房)は、アディクション(嗜癖障害)治療を専門とされる松本俊彦医師による本だ。少なくとも私にとってはかなり衝撃的な内容だった。薬物依存に抱いていたイメージが大きく覆された。ほとんどの人も、読めばきっとそうなるだろう。 自伝的な語りを軸に、経験に基づいた考えが綴られていく。自ら進んだ道ではない、「左遷」かとも思えるような命令により依存症専門病院に赴任させられたことがきっかけだった。そこで出会った強面の覚せい剤依存症患者に「クスリのやめ方を教えて欲しい」と言われたことが出発点になった。 松本医師の基本的な考えは「覚せい剤というのはそんなに悪い薬物なのか」ということにつきる。「覚せい剤は幻覚や妄想を引き起こし、暴力事件を起こす。だから危険なのだ」という一般的な考えは、「薬物使用者を危険な精神病者としてゾンビやモンスターのように描く薬物乱用防止