9 『走れメロス』は友人の命を救うために走る物語ではなく、自分が処刑されるために走る物語だ。もちろん、自分が死ななければ友人が死ぬことになるのだけれど、メロスが躊躇するのは、走る本当の目的が、「友を救うため」ではなく、「自分が死ぬため」だからだろう。ただ間に合って友が助かるだけなら彼はもっと苦しむことなく走り抜けた。彼は死にたくないのだし、その死を恐れる感覚が、体を重くし、友への裏切りへと意識を誘導した。 死をそれでも受け入れたのは、友情が美しいものだったから、ではない。死ぬことを仕方ないと思ったわけでもない。「友がいる自分」は美しくあるべきだという誇りが、自分の命よりもメロスにとって意味があるものだったから。ここに、本当は友人のセリヌンティウスはあまり関係していない。 『走れメロス』はメロスが王の暴挙を非難した結果、処刑されることが決まり、妹の結婚式の準備のために時間の猶予を求めることか