ある本を思い起こそうとするとき、ぼくの場合、その本の内容よりも「人」が想起されることが多い。たとえば、その本を熱心に勧めてくれたサークルの先輩。どこの誰かもわからないけれど、ウェブに熱い感想を寄せていたアカウント。あるいは、子供のころに大好きだった本だったからと、わざわざ買ってプレゼントしてくれた人。ぼくと本とのつながりは、とりもなおさず、人とのつながりでもあると感じている。 もっとも、なんらかの思い出と紐づけられるわけだから、そこにはやはり補正がかかる。フェアに、その作品のみと向かいあうのとは違うわけだ。実際、身近な人が書いた文章は三割増しくらいに見えたりもする。(なので、いま携わっているとある選考では、作者名を伏せて送ってほしいと編集さんに頼んだ。) そういうわけだから、たぶんぼくは公平なよい読書家とは呼べないのだろうと思う。でも、心のどこかではこうも思うのだ。人とのつながりによって、