「そのとき炎の音楽家は私の上に崩れ落ちてきた」 指揮台で本番中に逝った指揮者は3人いる。 1911年、フェーリクス・モットル、 1968年、ヨーゼフ・カイルベルト、 そして、ジュゼッペ・シノーポリ。 2001年4月20日、ベルリン・ドイツ・オペラ(DOB)座にて『アイーダ』演奏中の出来事だった。彼の死を目の当たりにしたヴァイオリン奏者、イリス・メンツェル氏が、あの日を初めて振り返る―― 譜面に記された小さな十字架。 指揮者が演奏中に亡くなると、共に演奏したものがその死を悼み、倒れた個所に記すという。これは音楽家の間での習慣である。 オペラ『アイーダ』の本番中にシノーポリが壮絶な死を遂げたのは、2001年4月20日のことだった。 あの日、第2ヴァイオリン首席を務めたイリス・メンツェル(36歳)は、その一部始終を目前で見たひとりである。半年経って初めて、そのときの全貌を語ってくれた。 その日の