実は父親にはあれでも野望があるんですよ。これは数年前、父が70歳になる前なんですが、俺にこう言ってきたことがあるんです。 「健太郎。本というのはどうすればいいんだ?」 いきなりこう言ってきたので、はじめ意図がよくわからなかったわけです。もしかすると本を書いて出版するという意味かな、と思ったので、「何。本を出したいの?」と聞いたら、「うむ」と頷くではないですか。それで俺、言いました。嫌な予感がしたので。 「どういう本を書きたいんだよ。まさか“私の歩み”とか“青春の思い出”とか、そういう…」 「まあ、そんなところだが……」 「誰が読むんだよそんな本!」 「定年退職したら、ぜひやりたかったんだが……」 「誰でも年とったら一度は考えるんだよ。でも素人の昔話を出版してくれる奇特な版元なんかないよ!」 「いや。それはそう思っていたんだが、熊本のコガ君なんか、今度映画まで作るんだぞ」 熊本のコガ君という