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  • 平家物語7 第1帖 妓王(ぎおう)①〜The Tale of the Heike 🪷 🙇平家物語6ではなく7です🙇‍♀️ - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

    当時、京都には、妓王、妓女《ぎじょ》と呼ばれる、 白拍子《しらびょうし》の、ひときわ衆に抜きん出た姉妹があった。 その母も刀自《とじ》と呼ばれ、昔、白拍子であった。 清盛が目をつけたのは、姉の妓王で、片時も傍を離さずに寵愛していた。 おかげで、母親も妹も、家を建てて貰ったり人にちやほやされて、 結構な暮しをしていた。 白拍子というのは、鳥羽天皇の時代に、男装の麗人が、水干《すいかん》、 立烏帽子《たてえぼし》で舞を舞ったのが始りとされているが、 それがいつか、 水干だけをつけて踊る舞姫たちを白拍子と呼ぶようになったのである。 京の白拍子たちは、玉の輿にのった同性の幸福を羨やんだり、ねたんだり、 中には、せめてその幸せにあやかりたいものと、妓王の妓をとって、 妓一、妓二などと名前を変える者まで出るほどの評判であった。 その間にも、月日はいつか過ぎて、三年ばかり経った頃、 加賀国《かがのくに》

      平家物語7 第1帖 妓王(ぎおう)①〜The Tale of the Heike 🪷 🙇平家物語6ではなく7です🙇‍♀️ - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
    • 平家物語63 第3巻 有王③〈ありおう〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

      「本当だろうか、 本当にお前が来てくれたのだろうか、 毎日毎夜、都のことばかり思いつめて、 今では恋しい者の面影が、夢かうつつか、 わからなくなってしまったのだよ。 お前の来たのは夢ではないのか? 本当にお前が来たのか? 夢であったら覚めた後がどんなに辛い事か」 「僧都様、これは本当でございますよ。 決して夢ではありませぬ。 それにしても、 よくこうやって生き長らえておいでになりました」 「まったくそうなんだ、お前のいうとおりだが、 恥ずかしい話、わしは少将が島を去る時、 よしなに取計うから待てといった言葉が 忘れられなかったのじゃよ。 おろかなものでのう、 その一言に、もしやと頼みの綱をかけ、 一日一日を生き伸びていたのじゃ、 何せ、ここは食い物のないところで、 わしも丈夫な折は、 山にのぼって硫黄《いおう》とやらを取り、 商人船の来る度に食物と代えて貰っていたが、 体が弱ってからは、

        平家物語63 第3巻 有王③〈ありおう〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
      • 【平家物語 第3巻】平家物語50 赦文①〈ゆるしぶみ〉〜 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

        治承二年の正月がやってきた。 宮中の行事はすべて例年の如く行われ、 四日には、高倉帝が院の御所にお出でになり、 新年のお喜びを申し上げた。 こうして表面は、 いつもながらの目出度い正月の祝賀風景が繰りひろげられていたが、 後白河法皇の心中は、内心穏やかならぬものがあった。 成親はじめ側近の誰彼が、殺されたり流されたりしたのは、 つい去年の夏のことである。 その生々しい光景はまだ、昨日のできごとの様に、 まざまざと心に甦《よみが》えってくる‥ 少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋🪷も ぜひご覧ください🌟https://syounagon.jimdosite.com 【ふるさと納税】【喜界島特産】宜家の胡麻フロランタン(5個入り)×8 価格: 10000 円楽天で詳細を見る 【ふるさと納税】クラフトビール WAN50(ワンフィフティ) 4.5% 350ml×12本 価格: 3

          【平家物語 第3巻】平家物語50 赦文①〈ゆるしぶみ〉〜 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
        • 平家物語25 第2巻 座主流し③〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

          驚いたのは、明雲大僧正である。 元々、道理一点ばりの人だからここに及んでも、 喜ぶより先に、この事件の行末を気にかけていた。 「私は、法皇の勅勘を受けて流される罪人なのですから、 少しも早く、都の内を追い出されて、 先を急がねばならぬ身です。 お志は有難いが、貴方方に迷惑はかけたくない、 早くお引き取り下さい」 と言う。 しかし、このくらいで引き下る衆徒ではない。 何が何でも山に戻って貰わねば、 山の名誉にもかかわるとばかり、座主の決意を促した。 「家を出て山門に入ってからというもの、 専ら、国家の平和を祈り、 衆徒の皆さんをも大切にしてきたつもりですし、 我が身にあやまちがあろうとは思われず、 この度の事でも、 私は、人をも神仏をも誰一人お恨み申してはおりません。 それにしても、 ここまで追いかけてきて下さった衆徒の皆さんの志を思うと、 何とお礼を申し上げてよいものやら」 後は唯涙をぬぐ

            平家物語25 第2巻 座主流し③〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
          • 平家物語61 第3巻 有王①〈ありおう〉〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

            たったひとり、鬼界ヶ島に取り残された俊寛が、 幼い頃から可愛がって使っていた有王という少年があった。 鬼界ヶ島の流人が 大赦になって都入りをするという話を伝え聞いた有王は、 喜び勇んで鳥羽まで出迎えにいった。 「どんなにおやつれになってお帰りだろう、 随分辛いことだったろうなあ」 あれこれ考えているうちに、 鬼界ヶ島の流人らしい一行が到着した。 見送り人のごった返す中で、 有王は、俊寛の姿を探し求めたが、 それらしい人の姿は見当らなかった。 有王は次第に不安と焦燥を覚えながらも、 「そんなはずはない、そんなバカなことはない」 と自分にいい聞かせながら、 一人一人の顔をのぞきこむようにして探した。 何度探しても結局は、無駄であった。 俊寛らしい人の影はみえないのである。 「もし、一寸お尋ねいたします」 思い切って有王は、人に尋ねてみようと決心した。 「今日ご大赦のあった鬼界ヶ島流人のうちの一

              平家物語61 第3巻 有王①〈ありおう〉〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
            • 【平家物語28 第2巻 西光被斬③〈さいこうがきられ〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

              翌くる六月一日の未明、清盛は、 検非違使安倍資成《けびいしあべのすけなり》を召し、 院の御所への使いを命じた。 資成は御所に着くと、 大膳大夫信業《だいぜんのだいふのぶなり》を呼んで清盛の伝言を、 法皇に伝えてくれるように頼んだ。 「わが君の仰有《おっしゃ》るには、 法皇側近の方々が、 平家一門を滅して天下を乱そうという計画をお持ちとききました。 こちらとしても捨てては置かれませんから、 一人一人召し捕え、いい様に処分するつもりでいますが、 その点あらかじめご了承下さって、 何卒ご妨害などしないで頂きたいのです」 信業もこの知らせにひどく、どぎまぎしながら、 「暫くお待ちを、唯今、法皇にお取次ぎいたしますから」 と言い置いてあたふたと、院の前にかけつけてきた。 「どうやら、鹿ヶ谷の一件を、清盛が嗅ぎつけたらしく」 信業の知らせに、 日頃、沈着な院も、返す言葉がない。 唯、唇をわなわな震わせ

                【平家物語28 第2巻 西光被斬③〈さいこうがきられ〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
              • 【平家物語51 第3巻 赦文②〈ゆるしぶみ〉】〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                ところで悪いことには、悪いことが重なるもので、 唯でさえ衰弱している中宮に、 またしても物《もの》の怪《け》がとりついたのである。 童子に物の怪を乗り移らせて占ってみると、 多くの生霊、死霊が、取りついていたことがわかった。 とりわけその内でも執念深いのは、 去る保元の乱に讃岐に流された崇徳院《すとくいん》の霊、 同じく首謀者、左大臣頼長、 新しい所では、新大納言成親、西光、 それに鬼界ヶ島の流人の生霊などであった。 清盛は即座に沙汰を下すと、 崇徳院には、追号を捧げ、崇徳天皇とし、 頼長には、贈官贈位で太政大臣の贈位をし、 勅使として少内記惟基《しょうないきこれもと》が派遣された。 その他さまざまの怨霊慰撫が行われたが、 このことを聞いて、門脇《かどわき》の宰相は早速重盛を訪ねた。 「中宮の御産のため様々のお祈りをなされていると聞きますが、 何と申しましても、 特赦にまさるものはないと思

                  【平家物語51 第3巻 赦文②〈ゆるしぶみ〉】〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                • 平家物語24 第2巻 座主流し②〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                  この明雲大僧正は、 久我大納言顕通《こがのだいなごんあきみち》の子で、 仁安《にんあん》元年座主となり、 当時天下第一と言われる程の智識と高徳を備えた人で、 上からも下からも、尊敬されていた人だったが、 ある時、陰陽師《おんようし》の安倍泰親《あべのやすちか》が、 「これ程、智識のある人にしては不思議だが、 明雲の名は、上に日月、下に雲と、 行末の思いやられるお名前だ」 といったことがあったが、今になってみると、 その言葉もある程度うなずけるものがある。 二十一日は、座主の京都追放の日であった。 執行役人に追い立てられながら、 座主は泣くなく京をあとにして、 一先ず、一切経谷にある草庵に入った。 二十三日がいよいよ、東国伊豆に向って出発する日である。 さすがに日頃住みなれた都を離れ、 恐らくは二度と、 帰れぬであろう関東への旅に立つ大僧正の心の内には、 様々の想念が渦巻いていた。 一行は、

                    平家物語24 第2巻 座主流し②〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                  • 平家物語53 第3巻 足摺②〈あしずり〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                    「俊寛がいまこんな有様になったのも、 あなたの父の謀叛からじゃ。 あなたも知らぬ顔はできぬはずじゃ。 頼む、許されぬとあらば都とまでは言わぬ、 せめてこの船で日向か薩摩の地まで連れて行ってくれい。 あなた方が島にいればこそ、 時には故郷のことも伝えきくことができた。 今わし一人になったら、それもできなくなるのじゃ」 俊寛は少将の袂をつかんで離さぬ。 袂が島と本土とむすぶただ一つの橋のように、 彼は両手でつかんでいた。 俊寛に口説かれた少将は、 もともと気性の優しい人だけに涙ぐみながら、 何んとかこの男に希望を与えようとして懸命に慰めた。 「まことにご尤もの話しと思います。 われら二人が召し帰されるのは嬉しいが、 あなたを見ては行くに行かれぬ気持です。 お言葉通り、船に乗せてお連れしたいが、 上使の方が、それはだめじゃと、 それ、さきほどからくり返して申しておらるる。 許されもしないのに三人

                      平家物語53 第3巻 足摺②〈あしずり〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                    • 【平家物語12 第1巻 額打論〈がくうちろん〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                      永万《えいまん》元年の春頃から、 病みつき勝ちだった天皇の容態が急変し、 六月には、 大蔵大輔伊岐兼盛《おおくらのたいふいきのかねもり》の娘に生ませた 第一皇子に位を譲られた。 間もなく七月、二十三歳という若さで世を去った。 時に新天皇は二歳という幼な児であった。 天皇の葬儀の夜、一寸《ちょっと》した争い事が起った。 元々、天皇崩御の儀式として、奈良、京都の僧侶がお供をして、 墓所の廻りに額《がく》を打つ習慣があった。 それも順序が決っていて、 第一が、奈良東大寺《ならとうだいじ》、次が興福寺《こうふくじ》、 延暦寺《えんりゃくじ》という順で、代々守られてきたのである。 ところがこの日、何を思ったか、 延暦寺の坊主が東大寺の次に延暦寺の額を打ちつけたのである。 すると、 おさまらないのは興福寺である。あれこれと文句をいっているところへ、 興福寺では、 荒くれ者で聞える坊主が二人、鎧《よろい

                        【平家物語12 第1巻 額打論〈がくうちろん〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                      • 【平家物語19 第1巻 願立①〈がんだて〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                        藤原氏の専横を抑え、院政の始りを開いた程の、 豪気な帝であった故白河院が、 「賀茂川の水、双六《すごろく》の骰《さい》、 比叡の山法師、これだけは、いかな私でも手に負えない」 といって嘆いたという話がある。 山門の横暴振りは他にも伝わっている。 鳥羽院の時、白山平泉寺《はくさんへいせんじ》を比叡山が、 しきりに欲しがったことがあった。 余り無理な願いであったから、あわや、却下と思われたが、 大江匡房《おおえのまさふさ》が、 法皇を諫《いさ》めて、 「お断りになってもようございますが、 もしも、山門の僧兵共が、神輿《みこし》を先頭に攻めてきたら、 いかがなさいますか、面倒な事になるかも知れません、 それならいっそ、聞き入れてやった方が」 と、山門に刃向う、ばからしさを説いたので、 法皇も気が変り、 「全く、山門が相手では、どうしようもない」 といって許したのである。 山門の威力に就ては、こん

                          【平家物語19 第1巻 願立①〈がんだて〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                        • 平家物語86 第4巻 信達〈のぶつら〉合戦①〜The Tale of the Heike🌺 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                          この日五月十五日、満月である。 三条の御所で高倉宮は、 雲間にかくれ移る皓々《こうこう》たる月を眺めていた。 遥か東国に下した密使の行方、 そして源氏勢の反応、 あるいは俄かに可能性をおびて 身に迫ってきた皇位のことに思いを廻らせていたのであろうか。 雲間をよぎる月の光を浴びた宮の姿は、 無心に月夜を楽しむとも見えた。 この時、 息せき切って宮の御所に現れたのは入道頼政の急使である。 宮の御乳母の子、 六条亮大夫宗信 《ろくじょうのすけのだいふむねのぶ》は 使いの手紙をあわただしく宮の御前にひらいた。 「宮のご謀叛のことすでに露顕、 宮を土佐の畑《はた》へお流し申さんと、 官人ども検非違使別当の命を受けてお迎えに向う。 急ぎ御所を出でさせ給い、三井寺へ入らせ給え。 この入道頼政も即刻御許に参じ奉らん」 意表を衝《つ》く知らせである。 宮は狼狽《ろうばい》した。 才覚すぐれたとはいえ、 月を

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                          • 【平家物語26 第2巻 西光被斬②〈さいこうがきられ〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                            額に汗をみなぎらせ、真蒼《まっさお》な顔に息使いも荒く、 西八条の邸に入ってきた行綱に、 家来達も驚いて、早速、清盛の所に知らせた。 「何、行綱だと? めったに来もしない奴が、 又何でこんな夜中にやって来たんだ? とにかくおそいから、わしは逢わん、 盛国《もりくに》、お前が、言伝てを聞いてこい」 清盛は傍らの主馬判官《しゅめのはんがん》盛国にいった。 暫くして盛国が戻ってきて、 「何か、直《じ》きじき、お話したいとか」 「直きじきだと? 一体何だろう?」 さすがに清盛も、行綱の唯ならぬ様子に、 何事か起ったのかと、不安になってきて、 自分で渡殿《わたどの》の中門まで出てきた。 「この夜更けに、一体、何の用で、わしに逢いたいのじゃ?」 「実は、昼のうちは人目につきやすく、 中々その折もございませんで、 夜中お騒せしてまことに心苦しいのですが、 このところ、後白河院の御所で、兵具《ひょうぐ》を

                              【平家物語26 第2巻 西光被斬②〈さいこうがきられ〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                            • 【平家物語 第1巻 4 鱸〈すずき〉】〜The Tale of the Heike 🪻 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                              仁平《にんぺい》三年正月、忠盛は、五十八歳で死に、 息子の清盛《きよもり》が、跡を継いだ。 清盛は、父親にもまして、才覚並々ならぬ抜目のない男だったらしい。 保元《ほげん》、平治《へいじ》の乱と、 権力者の内紛に、おちょっかいを出しながら、 自分の地歩は、着々と固めていって、 さて皆が、気がついた時分には、 従一位《じゅういちい》、太政大臣 平清盛という男が、でき上っていた。 異例のスピード出世というところである。 この時代は、成功も失敗も、一様に、神仏に結びつけたがる傾向があった。 平氏の繁昌《はんじょう》振りをみて、 これは、熊野権現《くまのごんげん》のご加護だと誰からとなくいい出した。 ところが、この噂の出どころは、実は清盛なのである。 伊勢から熊野へ渡る航海の途中、鱸が、清盛の船の中にとびこんできた。 乗り合せていた案内人は、この時とばかり、 「こりゃめでたい、熊野権現のおしるしで

                                【平家物語 第1巻 4 鱸〈すずき〉】〜The Tale of the Heike 🪻 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                              • 【平家物語26 第2巻 西光被斬①〈さいこうがきられ〉】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                山門の衆徒が、前座主《ざす》の流罪を妨害して、 山へ連れ戻した知らせは、後白河法皇をひどく怒らせた。 「山門の大衆どもは、勅命を何と心得えて、 このように言語道断のことをするのだろうか?」 側に侍《はべ》っていた西光法師も、 前座主帰山の知らせに何か手をうたなくてはと、 考えていた矢先だから、ここぞとばかり、一ひざ進めると、 「山門の奴らの横暴な振舞は今に始った事ではございませぬが、 此度は又以ての他の狼藉《ろうぜき》振り、 これは余程、厳重な処分をいたさねば、 後々までも禍恨は絶たれぬものと思います」 したり顔に申し上げた。 とにかく讒臣《ざんしん》は国を乱すということわざがあるが、 西光らもその良い例で、何かと、 自分の都合のよいように法皇の心を引き廻していたともいえる。 こんなうわさが山門にまで伝わってきて、 中には、 新大納言成親に命じて既に山攻めの仕度が始ったなどという者もあり、

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                                • 🪷平家物語 第1巻 1〈祇園精舎〉The Tale of the Heike - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                  祇園精舎《ぎおんしょうじゃ》の鐘の声、 諸行無常の響《ひびき》あり。 娑羅双樹《しゃらそうじゅ》の花の色、 盛者《しょうじゃ》必衰の理《ことわり》をあらわす。 おごれる人も久しからず、唯、春の夜の夢のごとし。 猛《たけ》きものもついにはほろびぬ、 偏《ひとえ》に風の前の塵《ちり》に同じ。 二十余年の長きにわたって、その権勢をほしいままにし、 「平家に非《あら》ざるは人に非ず」 とまで豪語した平氏も元はといえば、微力な一地方の豪族に過ぎなかった。 その系譜をたずねると、 先ず遠くさかのぼって桓武天皇の第五皇子、 一品式部卿葛原親王《いっぽんしきぶきょうかずらはらのしんのう》 という人物が、その先祖にあたるらしい。 葛原親王の孫にあたる、高望王《たかもちのおう》は、 藤原氏の専制に厭気《いやけ》がさし、 無位無官のまま空しく世を去った父の真似はしたくないといって、 臣籍に降下し、中央の乱脈な政

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                                  • 【平家物語35 第2巻 教訓②】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                    重盛は、烏帽子に直衣《なおし》という平服姿で、 さらさらと衣ずれの音をさせながら、 終始、落着き払って、清盛の座所にやってきた。 重盛の到着を聞いた時から、 「あいつのことだから、又じゃらじゃらした平服姿で、 わざとやってくるぞ、少しは意見してやらねば」 と思っていた清盛だったが、わが子とはいえ、 一目《いちもく》おいている上に、 その礼儀正しさと、慈悲深さは定評のある男であり、 会ったとたんに清盛は、 自分の格好が恥ずかしくなってきた。 急いで障子を立てると、 彼は、慌てて腹巻の上から法衣をひっかけたが、 胸板の金物が、ともすると着物の合せ目から見えるのを、 無理にひっぱって、しきりに衿《えり》をかき合せていた。 重盛は、弟宗盛の上座に着くと、黙って父の顔を見た。 しばらく沈黙が続いていたが、 清盛の方から先に口を切った。 「いろいろ調べてみると、成親の謀叛《むほん》は、 ほんの出来心で

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                                    • 【平家物語36 第2巻 烽火〈ほうか〉】〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                      宿所に帰った重盛は、主馬判官盛国を呼びだすと、 「唯今、重盛が、天下の大事を聞き出して参った。 常日頃、重盛のために命を惜しまぬ者があれば、 急ぎ集めるように」 といった。この知らせがたちまち広がったから、 日頃、物事に動じぬ人のお召しというので、 まさに天下の一大事とばかりに、 誰も彼も、おっとり刀で小松殿へ集ってきた。 小松殿で何事かが起るという知らせは、 西八条にも届いていた。 西八条につめていた数千騎は、誰いうとなく、 一人残らず、小松殿にとんでいってしまい、 清盛邸はひっそり閑としてしまった。 驚いたのは、清盛である。貞能を呼ぶと、 「一体、重盛は、 何のつもりでこれらの兵を狩り集めたのだろう。 まさか、さっきわしに申した事を実行して、 このわしに弓矢を引こうというつもりではないだろうな」 といささか心細げにいった。 「とんでもございません、 あの方に限って そんな馬鹿な真似をな

                                        【平家物語36 第2巻 烽火〈ほうか〉】〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                      • 平家物語3〈殿上の闇討(やみうち)②〉〜The Tale of the Heike 🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                        戦場で鍛え上げた忠盛の目は、宮中のうす暗いところで、 かすかに人の気配のするのを敏感に感じ取った。 彼はやおら、刀を抜き放つと、 びゅん、びゅんと振り廻《まわ》したからたまらない。 大体が、臆病者揃いの公卿たちは、 闇夜《やみよ》にひらめく一閃《いっせん》のすさまじさに、 かえって生きた心地もなく、呆然と見ていただけだった。 主人が大胆な男だから、家来の方もまた粒よりだ。 左兵衛尉平家貞《さひょうえのじょうたいらのいえさだ》という男は、 狩衣《かりぎぬ》の下にご丁寧にも鎧《よろい》までつけて、 宮中の奥庭に、でんと御輿《みこし》を据えて動かない。 蔵人頭《くらんどのとう》の者が、 目ざわりだから、どいてくれと言うと、 こっちは、待ってましたとばかり、 「どうも今夜あたり、闇討があるって話ですね。 やっぱり主人の死に際は、見ておきたいからね」 と洒々《しゃあしゃあ》と答えたまま平気な顔をして

                                          平家物語3〈殿上の闇討(やみうち)②〉〜The Tale of the Heike 🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                        • 日本にあふれている「あわい」とは ──【『別冊NHK100分de名著 集中講義 平家物語 こうして時代は転換した』より】 | NHK出版デジタルマガジン

                                          人間論や組織論としても読める『平家物語』。そのキーワード「あわい」とは? 能楽師の安田登さんが解説します。

                                            日本にあふれている「あわい」とは ──【『別冊NHK100分de名著 集中講義 平家物語 こうして時代は転換した』より】 | NHK出版デジタルマガジン
                                          • 【平家物語45 第2巻 康頼祝詞①〈やすよりのりと〉】〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                            鬼界ヶ島に流された、俊寛、康頼、成経の三人は、 少将の舅、宰相教盛の領地である肥前、鹿瀬庄《かせのしょう》から、 何かにつけて衣類や食物を送らせるように手配して呉れたおかげで、 どうやらこうやら生きることだけは出来たらしい。 康頼は、かねてから出家の志を持っていたが、 流罪の途中、周防《すおう》の室積《むろづみ》で出家し、 性照《しょうしょう》と名乗った。 ついにかくそむきはてける世の中を とく捨てざりしことぞくやしき これはその時の歌である。 少将と康頼は、前から熊野権現の信者であったから、 何とかこの土地にも熊野権現を祭って、 一日も早く帰京のかなうように 日夜祈参しようという相談が持ちあがった。 「どうじゃ、俊寛殿、貴方も、この計画に一枚お加わりなさい。 都へ帰参の望みもかなうかも知れぬ」 二人が熱心にすすめても、しかし俊寛は、 ばかばかしそうに首を振るばかりであった。 康頼と少将は

                                              【平家物語45 第2巻 康頼祝詞①〈やすよりのりと〉】〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                            • NHK人形劇『人形歴史スペクタクル 平家物語』リマスター版 Eテレで4月から放送 - amass

                                              1990年代に放送されたNHK人形劇『人形歴史スペクタクル 平家物語』のリマスター版がNHK Eテレで放送決定。4月から毎週月曜放送予定。 吉川英治の『新・平家物語』を人形作家・川本喜八郎の手で映像化。登場した人形は400体超。平家一門の栄華から没落まで、様々な人間模様と息もつかせぬ戦乱・政争の数々が繰り広げられる一大歴史絵巻。 ■『おとなの人形劇 人形歴史スペクタクル 平家物語』 NHK Eテレ 月曜・午後10:50~11:30 吉川英治の「新・平家物語」を人形作家・川本喜八郎の手で映像化。登場した人形は400体 超・舞台は本物の竹や草花などで再現、平家一門の栄華から没落まで、源平動乱渦中の人間 ドラマが繰り広げられます。1993~94 年度総合テレビで初回放送したリマスター版です 番組ページ https://www.nhk.jp/p/ts/EX4WZMVLPW/

                                                NHK人形劇『人形歴史スペクタクル 平家物語』リマスター版 Eテレで4月から放送 - amass
                                              • 平家物語56 第3巻 公卿揃〈くぎょうぞろえ〉〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                乳母には、平大納言時忠の奥方が選ばれた。 これは後に帥典侍《そつのすけ》と呼ばれた人である。 法皇はやがて、御所へ還御になったが、 清盛は余りの嬉しさに、お土産にと、砂金一千両、 富士綿二千両を進呈したのは、 今までに類のないことだけに、 人々に異様な感じを与えたようである。 今度の御産《ごさん》にあたっては、 変ったことがいろいろあった。 その第一は、何といっても、法皇が、自ら祈祷者として、 祈られたことだったろう。 その二には、后《きさき》御産の行事として、 御殿の棟から甑《こしき》を落す習慣があり、 皇子の時は南、皇女の時は北と決まっていたが、 この時には間違って北に落してしまい、 慌てて落し直すという珍事《ちんじ》があった。 悪い前兆でなければよいが、と思った人もいたらしい。 一番面白かったのは、 清盛の日頃に似合わぬあわて方であった。 重盛は、例によって、 少しも騒がないところは

                                                  平家物語56 第3巻 公卿揃〈くぎょうぞろえ〉〜The Tale of the Heike💐 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                • 【平家物語39 阿古屋の松②〈あこやのまつ〉)〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                  福原に着いたのは、六月二十二日である。 一応 備中国《びっちゅうのくに》に流罪と決まり、 瀬尾太郎兼康が警備の任をおびてゆくことになった。 兼康は、とかく、 あとあと宰相から恨まれるのがこわいから、 かゆいところに手の届くような労《いたわ》り方で、 少将の心を何とか慰めようとするのであるが、 少将の方は一日として楽しまぬのである。 彼の心には、 父成親の行方だけが気にかかっていたのである。 その成親は、備前《びぜん》の児島が港に近いという理由で、 備前、備中の境、 有木《ありき》の別所《べっしょ》という山寺に移された。 この有木の別所と、少将のいる備中の瀬尾《せのお》とは、 僅か五十町足らずという目と鼻のあいだであった。 人づてにそのことを聞いた少将は、 どうにもなつかしくなって、ある日兼康に、 「父上のいられる有木の別所まで、何里程のところなのじゃ」 とたずねた。 本当の事をいってはかえ

                                                    【平家物語39 阿古屋の松②〈あこやのまつ〉)〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                  • 【平家物語 第1巻6 一門の栄華】〜The Tale of the Heike 🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                    平家一族は、高位、高官の顕職を、ほしいままにし始めた。 一寸見廻しただけでも、長男 重盛《しげもり》は、 内大臣《ないだいじん》兼 左大将《さだいしょう》、 次男 宗盛《むねもり》は、中納言《ちゅうなごん》右大将、 三男|知盛《とももり》が三位《さんみの》中将、 孫の維盛《これもり》が四位《しいの》少将といった具合である。 このほかに数えあげれば、きりがないくらいで、 参議《さんぎ》、大、中納言、三位以上の公卿十六人、殿上人三十余人、 各地の地方官がざっと六十何人という盛況だった。 清盛は、息子のほかに、八人の娘を持っていたが、 これ又、揃いも揃って、権門、貴顕に縁づいている。 即ち、花山院《かざんのいん》左大臣の奥方、 建礼門院《けんれいもんいん》といわれた安徳《あんとく》天皇の生母、 六条摂政《ろくじょうのせっしょう》、 藤原基実《ふじわらもとざね》の奥方で白河殿と呼ばれた人、 普賢寺

                                                      【平家物語 第1巻6 一門の栄華】〜The Tale of the Heike 🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                    • 【平家物語33-1 第2巻 少将乞請①〈しょうしょうこいうけ〉】〜The Tale of the Heike🥀 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                      丹波少将|成経《なりつね》は、 その夜、院の御所の宿直で、まだ家には帰っていなかった。 そこへ、大納言の家来が、急を知らせにかけつけてきた。 始めて、事の子細を知った少将の驚きも深かった。 それにしても、宰相《さいしょう》殿から、 何ともいってこないのは変だ、と思っていた矢先、 宰相からも使いの者がとんできた。 宰相とは、清盛の弟 教盛《のりもり》のことであるが、 教盛の娘が成経の妻になっていたから、 成経には舅《しゅうと》であった。 「何事か存じませぬが、清盛公から、 西八条へ出頭するようにというお達しが参っておりますが」 宰相の使いの言葉を聞くより早く、 少将は、その意味を察して、 法皇の側仕えの女房を呼び出すと、事の次第を物語った。 「昨晩は、何となく往来のあたりが騒然としておりまして、 私なども、又、山法師が、陳情にでも参ったものかとばかり、 うかつに考えておりましたが、 何と、こ

                                                        【平家物語33-1 第2巻 少将乞請①〈しょうしょうこいうけ〉】〜The Tale of the Heike🥀 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                      • 平家物語84 第4巻 源氏そろえ④〜The Tale of the Heike🍂 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                        このころ、熊野別当|湛増《たんぞう》は、 平家の重恩を受けていたが、 どこからこの令旨のことをもれ聞いたのか、 「新宮の十郎義盛は高倉宮の令旨を抱いて、 すでに謀叛を起さんとしている。 那智、新宮の者どもは、 定めし源氏の味方をするであろうが、 この湛増は平家のご恩を山より高く受けている身、 いかで謀叛にくみしえよう。 まず那智、新宮の者どもに矢一つ射かけて、 その後、都へことの詳細を報告することにしよう」 と、甲冑に身を固めた兵、 一千余人を引きつれて新宮の港へ向った。 新宮では、鳥居の法眼、高坊《たかぼう》の法眼、 武士には宇井、鈴木、水屋、亀甲《かめのこう》、 那智では執行法眼以下、 その勢合せて二千人余が陣を構えた。 来るべき嵐の前ぶれともいうべきこの戦は激しかった。 双方|鬨《とき》の声をあげ、矢を射合わせて、 合戦の幕は切られた。 源氏の陣にはかく射よ、平家の者にはこう射よと、

                                                          平家物語84 第4巻 源氏そろえ④〜The Tale of the Heike🍂 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                        • 平家物語52 第3巻 足摺①〈あしずり〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                          大赦の御使、 丹左衛門尉基康《たんざえもんのじょうもとやす》と その供のものをのせた船は、 目指す鬼界ヶ島についたが、荒漠とした孤島のさまは、 都より訪れた人々に、おそろしく激しい印象を与えた。 船が島につくや、波にぬれた浜に一気に飛び下りた基康は、 大声をあげた。 「都から流された平判官康頼入道、丹波少将殿はおらるるか」 供の者もこれに和して、口々に尋ねたが、 しばしは波の音がこれに応えるばかりであった。 というのも、 康頼と少将の二人は例の熊野詣に行っていたからであったが、 ただ一人俊寛は小屋のほとりに寝そべったまま、 一人京の街をおもい、故郷の寺の山々に思いをはせていた。 人の声もまれで、耳にするのは、風の音、波の音、 時折り島を渡る海鳥の叫びぐらいで、 近頃物音に無関心になっている俊寛の耳に、 海辺から人の叫び声が伝わって来たのである。 愕然《がくぜん》として身を起した俊寛はわが耳

                                                            平家物語52 第3巻 足摺①〈あしずり〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                          • 平家物語54 第3巻 御産①〈ごさん〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                            鬼界ヶ島を立った丹波少将らの一行は、 肥前国 鹿瀬《かせ》の庄《しょう》に着いた。 宰相教盛は使いをやって、 「年内は波が荒く航海も困難であろうから、 年が明けてから、京に帰るがよい」 といわせたので一行はここで新年を迎えることにした。 十一月十二日未明、中宮が産気づかれた。 このうわさで京中はわき立ったが、 御産所の六波羅の池殿《いけどの》には、 法皇が行幸されたのをはじめとして、 関白殿以下、 太政大臣など官職をおびた文武百官一人ももれなく伺候した。 これまでに、女御《にょうご》、 后《きさき》の御産の時に大赦が行なわれたことがあったが、 今度の御産の時も大赦が先例に従って行なわれ、 多くの重罪の者も許された。こうしたなかで、 鬼界ヶ島の俊寛が、 ただ一人許されなかったのは気の毒なことであった。 中宮は、安産の願立《がんだて》を行なわれ、 皇子がお生れになったら、 八幡、平野、大原野な

                                                              平家物語54 第3巻 御産①〈ごさん〉〜The Tale of the Heike🌊 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
                                                            • 【平家物語17 第1巻 鹿ケ谷〈ししがたに〉②】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

                                                              ところで、成親と、動機こそ違え、志を同じくする者は、 まだ幾人かあった。 彼らがいつも好んで寄り集りの場所にしたのは、鹿ヶ谷にある、 これも同志の一人 俊寛《しゅんかん》の山荘である。 ここは、東山のふもとにあり、 後は三井寺に続いた、要害堅固なところで、 こういった陰謀を企むには、まさにもってこいの場所だったのである。 ある晩、後白河院が、お忍びでここにお出でになり、 話がいつか、平家に対する不満から次第に、 平家を葬る具体的な話になりそうになってきた。 後白河院のお供で席に連っていた浄憲法印《じょうけんほういん》は 思慮深い男であったから、 「まだこの種の話し合いはすべきではない。 それに、こう人数が多くては、どんな事でもれるかわからない。 とにかく、事は慎重にはかるべきだ」 と一座を眺め廻していった。 おたがいが、まだ腹のさぐり合いをしている最中だから、 浄憲の言葉は、尤《もっと》も

                                                                【平家物語17 第1巻 鹿ケ谷〈ししがたに〉②】〜The Tale of the Heike🪷 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸
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