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中東情勢
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アヌパム・ジェナ(Anupam B. Jena)&クリストファー・ウォーシャム(Christopher Worsham)の『Random Acts of Medicine』の書評をウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿したばかりだ。一部を引用しておこう。 「左桁バイアス」のことは、どこかしらで耳にしたことがあるかもしれない。8ドルの品と8.01ドル(8ドル1セント)の品だと違いなんて感じられないのに、7.99ドル(7ドル99セント)の品と8ドルの品だと違って見えて7.99ドルの品の方が(本来の価格差以上に)いくらか安く感じられる。あるいは、走行距離が39,990マイルの中古車の方が走行距離が40,005マイルの中古車よりもだいぶ高値で売れたりする [1]訳注;この件については、本サイトで訳出されている次の記事を参照されたい。 ●レスター・ピッカー 「左桁バイアス … Continue r
認知面における近道(ショートカット)――ヒューリスティック――に頼って情報が処理される結果として、意思決定に系統的なバイアス(偏り)が生まれることが時としてある。そのバイアスがなかなか正(ただ)されずに、競争が激しい市場であってもその影響を受けるなんてこともあり得る。取引されるのが高価な品であり、売り手も買い手も強(したた)かで、売買のプロセスが洗練されている市場であっても、バイアスの影響を受けることがあり得るのだ。中古車市場を対象にして、最終的な買い手(中古車の購入者)が「左桁バイアス」として知られているヒューリスティック――一番左の桁の数字が何であるかに注視する一方で、その他の桁の数字が何であるかには大して注意を払わない傾向――に頼るせいで市場の動向にどんな影響が及ぶかを探っているのが、 「中古車市場におけるヒューリスティック思考と注意不足」――“Heuristic Thinking
ジョセフ・ヒース「なぜカナダの大学教授は学生を恐れないのか:アメリカの大学がポリティカル・コレクトネスに席巻された理由」(2015年6月8日) カナダのジャーナリストが陥りがちな怠惰な習慣の一つが、カナダとアメリカが同じ国であるかのように語ってしまうことだ。アメリカで何が悪いことが起こっていると、カナダでも同じことが起こっていると彼らは思い込んでしまうことからも明らかで、この思い込み故に彼らは実際の取材に赴かない。 大学が最近「ポリティカル・コレクトネス」に席巻されているのを懸念する件でもこれを観察することができる。アメリカで、大学教授達がトラウマを負っている話が多く報じられ、なぜ学生を怖がるようになってしまったのかが解説されている。また、アドミニストレーター〔アメリカの大学の学生課の職員〕は、デリケートさを募らせている学生を不快にするのを恐れるあまり、学生に隷属してしまっていたり、傍観を
イスラエルは、ハマスへの大規模な報復行為を準備するにあたって、ガザ地区北部の住民に避難指示を出した。これはつまるところ、イスラエル国防軍による、100万人に向けての差し迫る破壊の通告である。イスラエル国防軍がこうした指示を出したのは、民間人の犠牲を最小限に抑えたいと考えているからだ。この〔ガザ地区北部から脱出する〕多量の人はどこに行けばいいのか? どうやって自活すればいいのか? といった現実的で人道的な問題とは別に、以下のような問題を直視せねばならないだろう。こうした指示を出される、ガザ地区とはどうのような場所なのか? 200万人以上の住人を抱えるこの領土は、なぜこのように処分されるのか? 都市の破壊だけを目的にするような冷酷な軍事作戦の論理に反発する強力な土地所有者がいないのはなぜなのか? ガザとそこに住まう住民は、なぜここまで孤立し、完全に物のように扱われているのか? ** ガザは昔か
ティモシー・テイラー(Timothy Taylor)のブログエントリーより。 “One Million Page Views and Round Number Bias” by Conversable Economist: 今週のはじめに、本ブログ(Conversable Economist blog)の閲覧数(アクセス数)が1,000,000回(100万回)に到達した。・・・(略)・・・言うまでもなかろうが、本ブログの性質を踏まえると、閲覧数が100万回に達したのを何の疑問も抱かずに諸手を挙げてただただ祝うわけにはいかない。100万回という数字に着目するというのは、「キリ番バイアス」の例の一つなのではなかろうか? 閲覧数を云々(うんぬん)するというのは、容易には測れない(数値化し難い)側面こそが肝心なのにもかかわらず、容易に測れる(数値化し易い)側面についつい目を向けてしまう例の典型と言
以下の「バットとボール」問題については、よくよくご存知だろうと思う。 野球のバット1本とボール1個の総額(合計金額)は、1ドル10セントです。 バットの値段は、ボールの値段よりも1ドル高いです。 さて、ボールの値段はいくらでしょうか? A. _____セント [1] 訳注;正解(ボールの値段)は、10セント・・・ではなく、5セント。ちなみに、バットの値段は1ドル5セント。 アンドリュー・マイヤー(Andrew Meyer)&シェーン・フレデリック(Shane Frederick)の二人の共著論文――Cognition誌に掲載――で、「バットとボール」問題に捻(ひね)りを加えたいくつかの変種(および、似たようなクイズ)を取り揃えた上で、人間の直感がどんな具合にしくじりを犯すのかが探られている。マイヤー&フレデリックの二人が用意している(「バットとボール」問題の)変種の中でも特に目を引くバージ
クラウディア・ゴールディンはいかにしていろんな糸をひとつに紡ぎ合わせたか By Editing1088 – Own work, CC BY-SA 4.0 2023年のノーベル経済学賞は,クラウディア・ゴールディンにおくられた.労働市場で女性に生じた変化に関する研究が受賞理由だ.彼女が受賞してすごくびっくり,ということはない.経済学者たちのあいだでは,ゴールディンは実証経済学で進んだ「信頼性革命」(“credibility revolution”) の主要な先駆者の一人と広く認められているからだ. ノーベル経済学賞(お好みなら「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」と呼んでもいい)についてぜひ理解しておいた方がいいのは,これが典型的に研究手法の賞だってことだ.化学や医学みたいに特定の発見を称えるのではなく,ノーベル経済学賞では,いろんな発見をするための新しい方法を開発した研
Photo by Stuart Meissner 無辜の市民の虐殺をうれしげに支持するのは,残忍としか言えない じきに経済ネタのブログ活動に戻るよ.約束する.そのときは,まずクラウディア・ゴールディンのノーベル経済学賞から取り上げよう〔追記:こちら〕.ただ,まずは,イスラエル-ハマス戦争についてもうひとつ,書いておかないといけないことがある. 冒頭の画像は,アメリカ民主社会主義党のニューヨーク市支部がパレスチナの大義を支持して行った集会の様子だ.この集会が行われたのは10月8日,1,000人以上のハマスの武装集団がイスラエルを攻撃した翌日のことだ.これだけじゃなく,全米各地のアメリカ民主社会主義党の支部も同様の集会を開いたし,あちこちの大学のキャンパスでも集会は開かれた.報道によると,写真に写ってる女性は,イスラエル支持の反・抗議派の人たちに鉤十字を見せつけたそうだ. まだこの件をあまり読
ジャングルへようこそ 「私は正しいかもしれないし,間違っているかもしれない / ただ,私がいなくなったらきっとあなたはさみしがるね」――タジ・マハール みんなが聞き及んでいるとおり,昨日,ハマスがイスラエルに大規模な奇襲を仕掛けた.ハマスはガザ国境を越え.大規模なロケット爆撃につづけて近隣の街々を占拠または襲撃して,何百人も殺した.ハマスの兵士たちがイスラエル人捕虜をガザに連れて行ってる光景は,インターネットのあちらこちらで拡散されてる.これに対して,イスラエルは交戦状態を宣言した.両者による戦闘は,このところの記憶にないほど凄惨で獰猛なものになるにちがいない. すでに多くの人たちが指摘しているように,アメリカが助力していたイスラエルとサウジアラビアの和平合意が実現する可能性をつぶすのが,今回の攻撃のねらいと目される.こういう和平合意は,トランプのもとで開始された「アブラハム協定」プロセス
前編: 誤情報・まちがい・無意味データを見つける方法 「どんな宣伝屋でも煽動者でも,その仕事をこなすには,これという聴衆に影響を及ぼす最良の手段を見つけ出さねばならない.このうえなく頭に入りやすく,見てわかりやすく,きわめて強烈な印象を残し,このうえない説得力をもって,確たる真実を提示する最良の手段を見つけなければ宣伝も扇動もできない.」 ――レーニン 2020年の終わり頃にこのブログを書き始めたとき,「こんな記事を書こう」というアイディアをあれこれと用意していた.そのひとつは,「バズりグラフにだまされない方法」という記事だ.有名なグラフをいろいろと準備万端にリストにまとめてあった.でも,ちょっとワケあって,その記事は後回しにした.それからの年月で,ネタになるグラフのリストは増える一方で,記事にとりかかるのをぼくはずっと後回しにしてた. でも,後回しはもう終わりだ.バズりグラフにいよいよ我
テクノロジーと格差についての楽観論 かつて Twitter と呼ばれてたアプリでは,ノア・スミスといえば,「ふつう・平均・中流」のよさについて前のめりにたびたび語る人間でとおってる.なんでそんなにふつうのよさを語るかっていうと,ひとつには,とびきりすごい人間じゃなくてもよい生活・快適な生活・充実した生活をみんながおくれる平等主義的な社会の他にうまくいってる社会なんてないと思ってるからだ.ただ,理由はそれだけじゃなくって,大人になっていくときにさんざん浴びせかけられたメッセージへの反発って側面もある.どの映画を見ても,どの本を読んでも,どのテレビ番組を見ても,ぼくみたいなガリ勉オタク(ナード)は特別だって語りかけてるように思えた――物理学ができたりコンピュータでプログラムを組めたり,なんならテレビゲームをやれるだけでも,例外的な人間になる定めにあるとでも言わんばかりだった.80年代後半や90
“Meet the Potters” by Spielbrick Films is licensed under CC BY 2.0. 反 NATO じゃないし,ドルにとってかわりそうにもないし,世界の経済成長を左右することもなさそう 中国で景気低迷がはじまっていて,これは長引きそうだ.それでも,西洋の報道では,中国が自分の支配下にある新しい国際機関をつうじて世界への影響力を強化しようと試みているという警告が伝えられてる――影響力どころか,「世界支配だってなきにしもあらず」みたいな調子だ.『フィナンシャル・タイムズ』の James Kynge はこう書いてる: 中国が描く青写真でかなめとなっているのは,発展途上国に対するみずからの指導力をゆるぎなく制度化することだ.その手段は,中国主導のさまざまな諸国家グループを形成し,拡張し,そこに資金提供することだ.(…)この戦略の目的は,大きく分けて
Multinational culture isometric composition with people of different races and nationalities in folk costumes vector illustration しばらくアメリカに在住していたが、人種的正義を求める闘いで公理となっているものは、現実的な解決策となっておらず、逆に人種間の対立を世代をまたいで再生産してしまっていると思った。これをアメリカのリベラルは理解できておらず、多くの逆効果(マイノリティ・グループの一部を共和党の掌中に追いやっている等)を生んでいる。このエントリは、そう確信するに至った分析を極めて簡潔にまとめるのを目的にしている。他の場所や、今後のエントリで、この立場を裏付ける様々な論拠を示す予定だが、今回はひとまず、この私の見解がどのようなものか知ってもらうために、分かりや
アメリカでは人種的正義を求める闘いに馳せ参じれば並外れた文化的名声を獲得できるため、世界中で模倣者を惹きつける傾向を生んでいる リーアム・コフィ・ブライトが『Journal of Political Philosophy(政治経済学ジャーナル)』に最近投稿した論文「白人のマウント合戦」での、アメリカの人種政治についての見解を大いに楽しませてもらった。まず最初に、この論文は査読の通過がほぼ不可能な形で執筆されているため、無事掲載されたこと自体に驚かされた。アカデミアにおける哲学論文は、査読者全ての怒りを鎮めることで、あたかも委員会によって書かれたように見えてしまう問題に悩まされている。さらに重要なのが、私見だが、アメリカの文化戦争に、ブライトのようなイデオロギー的に客観的なスタンスを示すことの極めての有用性である。 ハッキリ言っておくが、私はブライトの見解のほとんどに同意できない。しかし、彼
再投稿のまえおき――日本に(また)向かう空の便で,今日はトランジットにいる.そこで,このサブスタック初期に書いた日本関連の記事をひとつ再投稿しよう.移民流入ブームから観光ブームのあいだに,近年,日本はずっと国際的になっている.とくに東京と京都がそうだ.ただ,世の中の人たちが思っているほど日本が同質だったことは一度もない.「日本はなんらかの意味で人種的に純粋で,外国人嫌いで,閉鎖的な国だ」という考えに立脚して日本は同質だと捉える見解は,どれもずいぶんな戯言だ.今回も,そういう考えを抱いている人を見かけても訂正してあげない方がいいかもしれない.ホントのことを知っちゃったら,日本に行きたがる人がさらに増えちゃうかもしれないからね! それは「同質」の定義しだいだね もうね,あともう一度でも「日本は同質な社会だ」とか聞かされたら,憤慨するままに一本記事を書いちゃうよ.というか,これがその記事か. ア
「しあわせに暮らせる場所は,この世に2つだけ.我が家と,パリだ.」――アーネスト・ヘミングウェイ 地上で最高の都市はどこだろう? 「ニューヨーク市」って答える人がいても,笑い飛ばしたりはしない.いまなお名目上は世界最大の経済大国で金融ハブの役回りをしているニューヨーク市は,他のどこの都市でもかなわないほどの経済力を有しているし,地球上の名もなき数百万もの人々にとって,いまでもあそこは夢の都市だ.「上海」って答えが返ってきたら,ぼくとしては懐疑的になってちょっと口を「へ」の字に曲げてしまうかもしれない.とはいえ,富と権力の中心としていずれ中国が先進諸国を圧倒する定めにあると思ってる人にとっては,上海はなるほど論理的な選択だろうね. でも,実のところ,最高の都市といったら東京だ. かくいうぼくは,またまた東京にいくべく支度を調えてるところだ.今年は,これで三度目になる.今度はじめて東京を訪れる
トーマス・エジソンといえば,「本当は自分の手柄でもない発明で有名なヤツね」とあしざまに言われることも多い.だが,エジソンは,それよりもさらにむずかしいことをやってのけた.それは,そういう発明を市場に送り出すのに必要なシステムを構築することだ. トーマス・エジソンの評判は,ややこしく入り組んでる.まちがいなく,当時あまたいた発明家たちの誰よりも有名な人物ではある――もしかすると,今後もずっといちばん有名な発明家のままかもしれない.だが,会話のなかでなにかの拍子にエジソンの名が出ると,「ああ,インチキのエジソンね」などと誰かが言い出すことも多い.エジソンの名前が出てきたとたんに,「あいつは電球の発明すらやってないじゃないか」と言われることもよくある.それは事実だ.エジソンは電球の発明者ではない.そのかわり,彼は普及の下地をつくる人だった.既存のアイディアを選び取ってきて,それを市場に送り出す人
2020年からのインフレを正しく理解したのは誰だろう? パンデミック後に高まったインフレを鎮める戦いは着々と進んでいる.FRB が実際に目標に見据えているものにとても近い数値であるコアインフレ率は,前月との比較で 2% にまで下がっている: コアインフレ率は少しばかり上げもどすだろうけれど,それでも,他のどのインフレ指標を見ても,正しい方向に向かっている.というか,モノは先月よりも安くなってるし,サービス価格のインフレ率も下降傾向にある.最新の賃料を示す各種の数値を見ても,サービス価格は先月より下がってきてる.インフレをはかる各種の数値のなかでも外れ値に比較的に影響されにくい数値を見ても,そのすべてが同じ傾向を示している.基本的にすべてのインフレ数値が下に向かっているのを示す表を載せておこう.どの数値も,FRB の 2% インフレ目標に近づいてきている: 2020年以前のような低インフレで
貧困と衰退を称えてみたって環境や貧しい人たちの助けになんてならない 1年半まえ,「脱成長論はろくでもないってみんなも気づきつつある」ってタイトルの記事を書いた〔日本語版〕.あの頃,脱成長運動はアメリカでちょっとだけ注目を集めつつあった.気候変動に対抗する主要な行動をすすめようとする人々の後押しの一環としてだ.でも,エズラ・クライン,ブランコ・ミラノヴィッチ,ケルシー・パイパーといった著作家たちが意見を言葉にして,この考えを批判した.要点をかいつまんでいうと: クラインの指摘――〔脱成長で求められる〕生活水準の大幅な低下は,豊かな国々では政治的に受け入れられそうにない. ミラノヴィッチは次の点を論じた――世界規模で意味のある脱成長が実現されるには,豊かな国々をこえて運動が広まらないといけない.他方で,脱成長のためには,貧しい国々が貧困から抜け出すのを止めなくてはならない.これは,政治的に実現
歴史・科学・AIについて思い巡らせてみると 今回の記事は,8年前に書いた記事を書き直したものだ.大きなテーマで,当時はまだ考えがまとまってなかった.書き上がった文章に,我ながらひどく不満だったけれど,ほんのいくつかながらも面白い考えの萌芽なら含まれていると思っていた.そこで,いまあらためて再挑戦することにした.今回も,きっとうまくいかないと思う.それでも,挑戦してみてなにか面白い考えがまたひとつでてきてくれたらいいなと思ってる. 人類の生活水準は,他の動物たちにくらべてはるかに上等だ.その差はどこから来たんだろう.多くの人は,こんな風に答える―― 「知能がずっと高いことに理由があるんだよ」 「人間の方が言語によるコミュニケーション能力が高いおかげだ」 そういう長所が根底にあることの重要さを過小評価することなく,ぼくとしてはこんな考えを提案したい.「ぼくらの物質的な成功は,その大半が2つの大
現状維持では、繁栄した社会も公正な社会ものぞめないよ 自分たちが参加してる運動の看板どおりに暮らすことを本心から気にかけてる人なんて,多くはないとぼくは思ってる.保守派の人に,「どうして自然環境を保守しようとしないの?」と聞いてみても,あるいは,生命尊重派〔中絶反対派〕の人に「どうして死刑に賛成してるの?」と聞いてみても,当人の価値体系を深く考え直す必要を覚えないだろう.同じく,進歩派の人に,「キミが大事にしてる信念や政策アプローチのなかには『進歩』の邪魔になってるものがあるよ」と伝えてみたところで,当人が夜も眠れないほど頭を悩ませる結果になるなんて,期待はしない.そんなことを言ってみたところで,「この人とは『進歩』の定義がちがうんだな」と決めつけられておしまいだろう. とはいえ,問題は言葉の意味で終わりではなく,もっと深い.いま進歩派の人たちがとっているアプローチの多くは,進歩にとって有
サイモン・レン=ルイス「財政再建に励んでも債務対GDP比が下がらない理由,そして,政治家たちが見当違いなタイミングで財政を引き締めがちな理由」(2023年4月18日) 「財政再建に取り組むべし」(公共支出削減や増税をすべし)という主張の理由として,しばしばこういうことが言われる.「債務対GDPの比を下げるのに必要だからだ」 ――だが,なるほど財政再建のためのさまざまな方策を打てば公共部門の債務は減少する見込みが大きいものの,同時に,GDP も減少させることになる見込みも大きい.だから,債務対GDPの比への影響は定かでない.IMF が公開したばかりの研究によれば,過去の証拠に照らして見ると,財政再建が債務対 GDP 比にもたらす影響は,平均で見て無視できる程度(i.e.実質ゼロ)なのがうかがえる. さらにその研究を詳しく見てみると,緊縮支持派にとっていっそう悪い研究結果が出ていることが見てと
武器に転用された相互依存を減らす トランプが試みて失敗したことを,いまバイデンと議会が試みている:中国企業が所有している動画アプリ TikTok の強制的な禁止だ.親会社の ByteDance が同アプリをアメリカ企業に売却しないかぎり,アメリカ国内での運営を強制的に停止しようと,バイデンたちは試みている.これには理由が2つある.そして,そのどちらも,「アメリカの子供たちの注意力が下がるのを防ぎましょう」とか「アメリカ企業を競争から救いましょう」といった話と関係がない. TikTok禁止に動いている理由は次の点にある: TikTok はアメリカ人ユーザーたちに関するデータを中国共産党に送信していて, しかもTikTok はおそらく中国寄りの検閲を受けており,アメリカ人ユーザーたちが中国共産党のさまざまな目標を支持するように誘導しようと試みている. ごく簡潔に,それぞれの理由について話そう.
ブランコ・ミラノヴィッチ「国家間格差、中国の台頭、ウクライナ戦争について:アトレティコ誌インタビュー」(2023年7月17日) ――現在フランスで起こっている暴動についてどう思われますか? 正直なところ、状況を完全に理解できていません。しかし、入手可能なフランスのデータを表面的に見ると、フランスでは所得格差は拡大していません。データを見てみると、この5年間だけでなく、過去30年間でもそうです。なので、ジニ係数の上昇や、所得上位1%の割合増加のような、暴動の発生を説明できるだけの十分な直接的説明はないように思えます。この件で、フランス国内での見解では、地方の問題を重視しているようです。注目すべきは、今回の一連の暴動は個別の事件ではなく、数年前から相当の期間にかけて繰り返し続いてきた現象なのです。少し前にも、年金改革をきっかけにした反対運動も起こっていますよね。よって、〔一連の暴動には〕単純な
近年の政治経済学と開発経済学における研究は揃って、経済成長を実現させた国とさせられなかった国を分かつ要因を説明する上で、「国家行使能力」(state capacity)の重要性を強調している。 アブストラクト 「国家行使能力」(State capacity)は、開発経済学や政治経済学で最も議論される概念の1つとなってきている。このサーヴェイでは、近代国家が行使能力を獲得するプロセスについて、経済史研究が重要な洞察を提供していると論じる。ヨーロッパとアジアの様々な国における国家建設のプロセスを検討することで、国家行使能力と経済成長の関係を「解きほぐす」(decompress)ことができる。本稿での分析は、国家建設プロセスが多様な性質を持っていることを強調する。また本稿では、国家行使能力と経済成長を関係づけるメカニズムの解明にとって手助けとなる近年の研究に焦点を当てる。 [1] … Conti
20世紀後半に最も影響力があったマクロ経済学者として知られるロバート・E・ルーカス・ジュニアが、今日85歳で逝去した。ジョン・メイナード・ケインズやミルトン・フリードマンに比肩する偉大な学者だったが、アカデミア以外でその名はあまり知られていない。 私にとってルーカスは、マクロ経済学の授業を初めて受けたときから、魅力的な人物であり、ある意味で謎めいた人物だった。ルーカスは、現在では「DSGE」と呼ばれる高度に形式化された数学的モデルに専門家を誘ったが、彼の最も影響力をもった論文では、シンプルな数学と論理的な考察しか行われていない。彼の自前の理論は、現在ではほとんど使われておらず、マクロ経済学者もあまり信用していないが、経済理論の行い方(そして行ってはならない方法)についての彼の考察は、マクロ経済学分野での基礎となった。 ルーカスによる間違いなく最も有名な研究は、1995年にノーベル賞を受賞し
この記事では、ケインズ主義とマネタリズムの区別は、(共にワルラス経済学に依拠していることから)現代のマクロ経済論争を理解する上で、時代遅れであると論じる。今、有用な区別は、(ケインズ主義とマネタリズムの統合からなる)新古典派連合(Neoclassicals)と、新オーストリア学派の区別である。この区別は、経済における公的債務の役割についてのそれぞれ異なる見解に立っている。 先週、ロバート・ルーカスが亡くなった。彼の研究は、マクロ経済学に永遠の変化をもたらした。「合理的期待」という考え方は、マネタリズムとニューケインジアンの発祥の地であるシカゴ大学やMITで使われているマクロ経済学モデルに浸透している。この記事では、ケインズ主義とマネタリズムの区別は、(共にワルラス経済学に依拠していることから)現代のマクロ経済論争を理解する上で、時代遅れであると論じる。今、有用な区別は、(ケインズ主義とマネ
一般読者向けに経済学の教えを面白おかしくわかりやすく説いている「ポップ経済学」本を紹介したエントリー〔拙訳はこちら〕を書き上げた直後に、経済学(主流派経済学)のダメなところを槍玉にあげている新刊がガーディアン紙の書評欄で取り上げられているのを見かけた。その新刊というのは、デイヴィッド・オレル(David Orrell)の『Economyths』(邦訳『なぜ経済予測は間違えるのか?』)。「ポップ経済学」本の出版ブームが到来するのと歩調を合わせるようにして、経済学(主流派経済学)の過ち(ダメなところ)を云々(うんぬん)する本の出版も相次いでいる。イヴ・スミス(Yves Smith)の『Econned』もそのうちの一冊だし、ジョン・クイギン(John Quiggin)の 『Zombie Economics』(邦訳『ゾンビ経済学』)もそうだ。「ポップ経済学」に対抗する勢力――「アンポップ経済学」―
先日、とあるグラフがSNS上で物議を醸した。 キャスリーン・ボイル「どれでもいいので信じてみてください。あなたに何が足りていないのかがわかります。」 https://twitter.com/KTmBoyle/status/1640525828621516801 アンドリーセン・ホロウィッツ [1]アメリカのベンチャーキャピタル のパートナーであるボイルは、これら各種指標を、一連の報告書や研究へのリンクとを組み合わせ、現代に蔓延る衰退論――特に若者の間での顕著な不安や鬱、絶望感の高まりといったさまざまな問題との関連を示した。 ベビーブーマー世代がかつて言っていたように、風向きを知るのに、気象予報士はいらない [2]ボブ・ディランの歌詞より、世の中の動向を知るのに、専門家の知識は必要ないということ 。今の欧米諸国は抑うつ気味なのだ。 政治体制はありえないほどに分極化し、経済は次から次へと危機を
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