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小さな社に向かって祈る神主を、2人の子がじっと見つめる。一見ほほ笑ましい光景だが、子どもたちのまなざしは真剣だ。ナショナル ジオグラフィックの写真アーカイブに残された説明によれば、大阪の稲荷神社だという。赤い提灯(ちょうちん)をよく見ると、「稲荷」の文字が確認できる。 このカラー写真は、日本人写真家の坂本潔が「オートクローム」という技法で撮影したものだ。坂本は日本で英語教師として働きながら、1920年代を中心に本誌英語版で活躍し、当初は白黒写真を寄稿していた。その写真を気に入った編集部は1926年、オートクロームの技術を習得させようと、坂本を米国の首都ワシントンに招待する。坂本は6カ月の滞在中に、当時最先端だったこのカラー写真技術を身につけた。 しかし、満足できる作品はなかなか撮れなかったようだ。高価な資材の調達にも苦労しながら日本でオートクロームの撮影を続けた坂本だが、1933年を最後に
二人の女性が眺めているのは花菖蒲(はなしょうぶ)。1921(大正10)年7月号に掲載された1枚で、東京の堀切(現在の葛飾区内)にあった菖蒲園の一つで撮影された。この地の菖蒲園は「日本で最も有名」だと紹介されている。 堀切は江戸時代後期から花菖蒲の名所として知られ、大正後期には小高園、武蔵園、吉野園、堀切園、四ツ木園という5カ所の菖蒲園が堀切にあった(写真がどれかは不明)。しかし、昭和に入ると、周囲の環境悪化や戦争の影響を受け、1942年までに堀切の菖蒲園は姿を消した。 だが、戦後に再開された菖蒲園が1カ所だけある。堀切園だ。戦時下の食糧難を解消するために水田化されていたものの、花菖蒲の貴重な品種は近隣の足立区に疎開されていた。終戦から8年たった1953年には、それらが植え戻され、菖蒲園は復活を遂げた。59年には都に買収され、75年には葛飾区に移管されて、現在の区立堀切菖蒲園となった。 京成
「ボクサー」と呼ばれる像。完璧な同心円をした目とT字形の眉と鼻は、サルデーニャ島の巨像の特徴だ。カリアリ国立考古学博物館にて。(PAUL WILIAMS/ALAMY/ACI) 1974年の春、地中海に浮かぶイタリアのサルデーニャ島で畑を耕していた農夫たちが、作業の手を止めた。どうやら大きな岩に突き当たったらしい。でもそれは岩ではなく石像の頭部だった。この遭遇は、地中海の鉄器時代に関する重要な発見となった。(参考記事:「食べてみたい世界のパン8選、文化と歴史も」) 石灰岩でできた頭部は、サルデーニャ島の西岸にある肥沃な土地モンテプラマで発掘された。その後、考古学者らが数十年かけて数千点の破片を収集し、数十体の巨大な石像を復元した。 石灰岩から彫り出されたモンテプラマの巨像には、高さ2メートルほどのものもある。顔は三角形で、眉と鼻はT字になっているなど、定型化された顔立ちが特徴だ。まず目につく
フレッド・スミス・コンクリート公園の木々が茂る緑地に装飾が施されたセメント像が並ぶ。米ウィスコンシン州の充実したビジョナリー・アートを代表する作品だ。 (PHOTOGRAPH BY FRANCK FOTOS, ALAMY STOCK PHOTO) 壁や天井、家具まで、ラインストーン(模造宝石)やラメで覆われたコテージ。中にいると、まるで魔法の国に迷いこんだようだ。 このコテージ「Beautiful Holy Jewel Home」(美しく聖なる宝石の家)は、「元祖ラインストーン・カウボーイ」を自称するロイ・ボウリン氏の空想芸術作品だ。ミシシッピー州マコームで制作されたこの作品は、米ウィスコンシン州シボイガンにオープンしたばかりの美術館「アート・プレザーブ」に展示されている。 同館は、近くにあるビジョナリー・アート専門の美術館「ジョン・マイケル・コーラー・アーツセンター」の別館として、202
カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州のクワキウトル族の踊り手。「クンフラール」と呼ばれるサンダーバードの衣装を身に着けている。太平洋岸北西部の先住民が口承する主要な神話では、サンダーバードは力強い精霊で、翼を羽ばたかせると雷が起きると言われている。(PHOTOGRAPH BY EDWARD S. CURTIS, NATIONAL GEOGRAPHIC) 1895年、写真家のエドワード・シェリフ・カーティスは、その後の自分の人生と、ひいてはアメリカインディアンに対する人々の見方を永久に変えてしまう被写体と出会った。 彼が出会った人物の名は、王女アンジェライン。強大な権力を持っていたアメリカインディアンの首長シアールの娘である。シアトルの町の名は、このシアールが由来となっている。カーティスが出会った当時、王女アンジェラインはすでに老境にさしかかり、市場で貝を売って生計を立てていた。1枚につき1
オーストラリアで発見された新種のピーコックスパイダー。オレンジと白の模様を持つことから、ディズニー映画のクマノミにちなんで「マラトゥス・ニモ」と命名された。(PHOTOGRAPH BY JOSEPH SCHUBERT) 2020年11月の晴れた日、オーストラリア南オーストラリア州マウントガンビア近郊の湿地で、シェリル・ホリデー氏は足首まで水につかってしゃがみ込み、30センチほど先に咲く紫のランにカメラを向けた。ホリデー氏がシャッターを切ろうとした瞬間、フレームから小さな何かが飛び出すのが見えた。 その時はわからなかったが、ホリデー氏が見たのは新種のピーコックスパイダーだった。ピーコックスパイダーは、オーストラリアに生息するハエトリグモの仲間で、色鮮やかな体と複雑な求愛のダンスで知られる。 (参考記事:「【動画】求愛ダンス踊るクモの新種が7種見つかる」) 環境保護団体ネイチャー・グレネルグ・
このクマムシは、クリプトビオシス(無代謝の休眠状態)と呼ばれるプロセスによって、きわめて厳しい環境に順応できる。レーウェンフックは、休眠状態にあったと思われるワムシを観察し、生物のクリプトビオシスを世界で初めて記録に残した。(PHOTOGRAPH BY THE SCIENCE PICTURE COMPANY/ALAMY) 1670年代の初め頃、私たちの身の周りにあふれる微生物のディープな世界にある人物がはじめて飛び込んだ。彼は学者でもなければ、哲学者でも科学者でもなく、オランダで小さな布地店を営んでいた。空いた時間にレンズを磨いているうちに、レンズ磨きの腕を上げ、自分用に倍率270倍の顕微鏡を作ってみた。これは当時としては世界最高で、ほかの顕微鏡と比較して10倍の倍率を誇っていた。誰よりも好奇心旺盛で、何でも見てみたいという思いが強く、それがアントニ・ファン・レーウェンフックに成功をもたら
2012年、結氷した諏訪湖湖面に現れた御神渡りの付近で「御渡(みわた)り拝観の神事」が行われた。近年、御神渡りの出現は減りつつある。(PHOTOGRAPH BY KYODO, AP) 長野県の諏訪湖は、冬に全面結氷すると、昼夜の温度変化によって氷が収縮・膨張し、湖面に収まらなくなった氷が表面を割って、山脈のようにせり上がる。「御神渡り(おみわたり)」と呼ばれるこの現象は、神道の神が湖を渡った足跡だという言い伝えがある。少なくとも西暦1443年以降は毎年、諏訪湖のほとりにある神社の神官が、御神渡りの出現日を丹念に記録してきた。 一方、遠く離れたフィンランドでは1693年、商人オロフ・アールボムが、スウェーデンとの国境を流れるトルネ川の氷が春の訪れで解けた日時の記録を付け始めた。1715年にはロシアの侵略から避難せざるを得ず、記録は途切れてしまったが、1721年に帰郷すると記録を再開。以来、彼
カナダのバフィン島北岸の沖で、6月の太陽に照らされて、海氷とその上に積もった雪が緑がかった青色の池へと変わっていく。北極海では年間を通して氷に覆われる海域が急激に縮小している。PHOTOGRAPH BY BRIAN SKERRY 雪と氷に包まれた極北の光景は、数十年もしないうちに見られなくなるかもしれない。少なくとも、夏のカナダ北部では難しくなるだろう。地球温暖化が進むにつれ、夏の海氷と、その環境に適応して暮らしているホッキョクグマやアザラシ、セイウチ、クジラ、ホッキョクダラ、甲殻類、海氷藻類などの生物が姿を消すかもしれないからだ。 1980年代の衛星写真を見ると、北極の海氷は、夏の終わりになっても平均750万平方キロにわたって広がっていた。しかし現在までに、そのうち250万平方キロ以上が失われてしまった。気候モデルを使ったシミュレーションによると、2050年代までに、夏でも解けない海氷の
米国シアトルに住む少女、ガブリエラ・マンは、餌をカラスにあげていたら、贈り物をもらうようになった。なかでもハート形の飾り(写真の左端中ほど)がお気に入りだ。PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES 金色のビーズ、パールのイヤリング、ねじ、赤いレゴブロック、ニワトリの骨……。米国シアトルに住む8歳の少女ガブリエラが、カラスからもらった贈り物だ。 ガブリエラはこれらの品々をプラスチックの宝石箱に入れて大事にしている。彼女はその箱を開けると「一番のお気に入り」を二つ選び、私の手に載せてくれた。一つはパールピンクのハート形の飾り、もう一つは「BEST」という単語が彫られた四角い銀色の飾りだ。 「私のことが大好きなのよ」とガブリエラは言う。確かに意味ありげにも見える。「私がおもちゃや光るものが好きだと、カラスはちゃんと知ってるの。スパイみたいに、いつも私を見ているんだ
怠け者の子どもたちを探しに地上に降りてくる神々。村人たちが豊穣を願って水をかける、わらに覆われた若者。鬼の面をつけて家々を回る神々。これらの住んでいるところが「妖怪の島、ニッポン」。写真家のシャルル・フレジェ氏が築いた想像上の世界だ。 異界から来たとされる彼らは、日本の民間伝承に古くからあり、日本各地でそれぞれ決まった時期に現れる。だが、フレジェ氏はそうした祭事の様子を撮るという民俗学誌のような描写には興味がない。「私は人類学者ではありませんから」と彼は言う。むしろ祭りの面や装束といった視覚的な側面に着想を得て、全く新しい見せ方を打ち出した。フレジェ氏が選んだ背景の中で、それぞれの仕草や姿勢を取ってもらったのだ。
新たに発見された系外惑星ロス128bの想像図。弱々しい赤い光に照らされた、温和な気候の惑星だ。(ILLUSTRATION BY M. KORNMESSER, ESO) 地球の近くに地球サイズの系外惑星が見つかった。この惑星は、生命にやさしい「静かな」恒星の周りを回っており、生命が存在できる可能性のある系外惑星としては、地球から最も近いところにある。 地球からわずか11光年のところにある惑星ロス128bは、赤色矮星と呼ばれる小さく薄暗い恒星ロス128の周りを回っている。赤色矮星はどこにでもある平凡な恒星で、銀河系の恒星の約70%を占めている。私たちのすぐ近くにある恒星のほとんどが赤色矮星だ。 この数年間の系外惑星の発見状況から、赤色矮星の3分の1が、少なくとも1つの惑星をもつと推定されている。 太陽系から最も近い地球サイズの惑星は、4.25光年先の赤色矮星プロキシマ・ケンタウリの周りを回るプ
タールを使用した火の球を群衆から投げつけられたアジアゾウの親子。インドの西ベンガル州で。(PHOTOGRAPH BY BIPLAB HAZRA, SANCTUARY NATURE FOUNDATION) 火をつけられて逃げまどうアジアゾウの親子。このショッキングな写真が、野生動物の写真コンテストで受賞し、インドで繰り広げられるゾウと人間との対立に、世界の注目が集まっている。(参考記事:「動物大図鑑 アジアゾウ」) 写真のタイトルは「地獄がここに」。胸がつぶれる光景だ。インドの西ベンガル州で、ゾウの親子が群衆に追われ、タールを使った火の球を投げつけられたために、子ゾウの体に火がついてしまった。 この写真は、アマチュアの野生動物写真家、ビプラブ・ハズラ氏が撮影したもの。野生動物を扱うインドの雑誌「Sanctuary Asia」誌が年に一度開催する野生動物の写真コンテストで受賞した。このコンテス
大きな地震が発生したメキシコの路上で、奇妙な現象が目撃された。 まるで巨大動物が地中で大きく息をしているかのように、アスファルト道路の一部が浮き沈みを繰り返している。首都メキシコシティでこの現象に遭遇したのは、リゴベルト・レチューガ・シルヴァ氏。9月19日、同国プエブラ州で起きたM7.1の地震の揺れが続く中でのことだった。 シルヴァ氏は揺れる建物から避難し、通りに飛び出した。ゆさゆさと揺れている街灯を撮影しようと携帯電話を取りだしたとき、舗道が上下していることに気がついた。 何がコンクリートを歪ませたのか。この場面を見た科学者らは、考えられる仮説についてツイッターで意見交換を始めた。地球物理学者のミカ・マッキノン氏は、液状化が原因との考えを示した。メキシコシティは堆積盆地の上にあるため、激しい地震が起きると奇妙な地質学的事象が見られることがあると言う。(参考記事:「【動画】陥没穴が住宅をの
溶岩のようなドロドロの土がだだっ広い草原を一筋の川となってゆっくりと流れ落ちて行く様子が動画に撮影され、ネットを騒がせている。なぜこのような現象が起きたのか。はっきりしたことは専門家にもわからない。(参考記事:「【動画】道路をゆっくり飲み込む恐ろしい地滑り」) 話題の動画は、中国のソーシャルメディア微博(Weibo)と微信(WeChat)に投稿された。ソーシャルメディアのユーザーたちによると、地滑りは青海チベット高原の村で、9月7日に発生した。(参考記事:「【動画】シベリアにできた巨大な穴、止まらぬ拡大」) 突然発生してあっという間に押し寄せる土砂災害もあるが、この動画の地滑りはゆっくりと移動している。 「食い止めようがない力で流れていますが、動きは緩慢で、すぐに命に危険が及ぶわけではありません」と、地滑りの専門家ミカ・マッキノン氏はいう。 地元メディアによると、死傷者は出ていないが、動画
核実験で放出された炭素14が、ゾウの保護に役立つかもしれない。核実験の映像には、最近になって機密解除されたものも含まれる。 放射線を出しながら、別の種類に変化する原子を放射性同位体という。大気中には放射性同位体が微量に含まれており、植物に取り込まれ、食物連鎖で動物にも広まっていく。 これを利用すれば、動植物の遺骸の年代を特定できる。迷宮入りの事件をいくつも解決に導き、ニシオンデンザメが何世紀も生きられることを突き止め、ネアンデルタール人がそれまでの定説より1万年早く絶滅した証拠を提示し、中国最古の王朝「夏」建国のきっかけとされる洪水伝説に信ぴょう性を与えてきたのはこの技術だ。(参考記事:「約400歳のサメが見つかる、脊椎動物で最も長寿」、「ネアンデルタール人の絶滅は4万年前?」、「黄河に古代の大洪水跡、伝説の王朝が実在?」) なかでも、冷戦中の核実験で大気中に放出された炭素の放射性同位体「
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