街道を食う 司馬遼太郎の「街道をゆく」(朝日文庫)シリーズは、全四十三巻。日本国内では北は北海道宗谷岬から南は沖縄県石垣島まで、行かぬ所はなく、さらに海外では韓国・中国をはじめにモンゴル、ポルトガル、オランダまで足を運んでいる。まさに「歴史小説界の兼高かおる」と呼ばれるにふさわしい旅行家である。 そんな司馬遼太郎にも、唯一の弱点がある。それは「食」である。 時代小説や歴史小説の作家にはグルメが多いが、司馬遼太郎だけは例外である。その小説には旨いものなど登場しない。逆に不味いものならやたらに登場する。近藤勇の麦めし、村田蔵六の豆腐、いずれも、いかに不味いかをこと細かに描写している。 そういう小説を書く、作者本人の食生活はどうなのか。この膨大な二十五年にわたる旅行の中で、司馬遼太郎はなにを食べていたのか。「街道をゆく」全四十三巻から、食べたものに関する記述を探して、検証してみたい。 まず、食べ