私たちは小さいころから、お金について口に出すのは「はしたないこと」だと教えられてきました。買ったものの値段がいくらか、自分がどのくらいの月給があって、どのくらいの預貯金や投資があるのか、よほど親しい間柄でも、そのことをオープンに話すのはタブーとされてきました。また、年功序列賃金の中で私たちの間の賃金のばらつきもさほど大きくなかったのです。 しかも、成長期には年収も順調に伸びていきましたから、お金儲(もう)けについても大きく心配する必要がありませんでした。だいたい、同期と横並びの定額の給料の中で、無理なお金儲けをするよりは、いかにお金を効率的に節約するかが各人の主要なスキルとなっていきました。肝心の使い道についても、日本全体が厚みのある中産階級に支えられ、さまざまなサービスが標準的に提供される中、安心した生活を送ることができるような仕組みになっていたため、特に多額のお金を必要としなかった面も