以前は外国の小説ばかりを読んでましたが、昨年は日本の本もけっこう読んだように思います。そんなわけで面白かった本中編です。 木下古栗『ポジティヴシンキングの末裔』『いい女vs.いい女』 昨年はじめて木下古栗体験をし、度肝を抜かれました。「古栗は激アツ」という話は聞いてましたが、本当に激アツでした。通勤電車で読みながら悶絶。なんとなくソローキンや中原昌也を思わせる作風だけど、ソローキン作品にはコンセプトが、中原昌也作品には怒りが潜んでいるのに対して、木下古栗作品には偏執的な中学生がいるような気がします(マッチョ、全裸、下ネタ、毛といったモチーフへの執拗なこだわり等)。「デーモン日暮」、「清潔感のある猥談」、「この冬…ひとりじゃない」、「自分 ―抱いてやりたい―」「本屋大将」といった短編のタイトル群がすでに芸術。いつか芥川賞を獲ってほしいです。 エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』 不穏
1.パウルの誕生と青年時代 小生の父となるタコは老獪で恐れを知らず、母となるタコは優美で美しかった。 諸兄は、タコの交尾というものをご存知であろうか。なんでも脊椎世界には「くんずほぐれつ」という言葉があると聞くが、たった4本ぽっちの手足しか持たない脊椎動物からそのような言葉が生まれるということ、そこに小生はいささか哀しみのようなものを覚えずにはいられない。 小生の父にあたるタコと、母にあたるタコは海底で出逢うとすぐさま、8本、8本、計16本の足を絡め、ちょうちょう結び、いかり結び、あやとりの東京タワーなどを即興で作り上げながら、性の営みに情熱の限りをつくした。まさに「くんずほぐれつ」である。その記憶はいまも海に漂っており、ふとした海水の流れから当時の彼らの熱狂をうかがい知ることができる。 母にあたるタコが産卵し、小生の人生の出発点となったのは、原発の排水によってあたためられた海であった。
岩波新書から『ぼんやりの時間』という本が出ていると聞きました。親近感のわくタイトルなので、読んでみたいと思っています。 でも「ぼんやりの時間」って、そもそもどんな時間なのでしょうね。おそらく以下のような時間なのではないかと私は考えました。 『私家版・ぼんやりの時間』 ぼんやりの朝は早い。意外と早い。 ぼんやり(以下BY)は朝の五時半にはぱちりと目が覚めて、ひとりでに自分の部屋から起き出してくる。起き出して何をしているのかというと、リビングのテレビでぼんやりと、早朝から再放送している『一休さん』を見るのだった。ぼんやりするためなら早起きも辞さない、それがBYだ。『一休さん』を観るBYは(桔梗屋の弥生さんと新右衛門さんが出てくる回はたのしいな)と思った。 早起きしているにもかかわらず、BYはいつも遅刻ぎりぎりに登校する。自分でも不思議だった。 歴史の授業は遣唐使のところだった。けれどもBYは授
第一夜 こんな勝間和代を見た。 散髪に行った帰り道、自分の前を勝間和代によく似た女が歩いている。 こんな夕時の田舎町に勝間和代とは珍しい。自分は勝間和代には関心があるほうだったので、思い切って声をかけた。 「ちょいとお尋ねしますが、あなた、勝間さんじゃありませんか」 振り向いた女は、ほほほ、と笑うだけで、質問に答えようとしない。けれどもその笑い顔がいかにも勝間和代にそっくりだったので、やっぱりそうだ、これは勝間和代だ、黙っていたって自分にはわかるぞ、と思った。方向も同じだったので、自然と女と一緒に歩くような形になった。 しばらくは得意な気分で女の横を歩いていたが、そのうち、だんだんとじれったい気持ちになってきた。 「あなた、あれやってくださいよ、あれ。本当の勝間さんならご存知でしょう」 それを聞くと女は立ち止まり、にっこりと笑って言った。ようござんす、ただし決まりがあります。わたしがそれを
いよいよ後編。ここまでくると、読んだ時の印象とかあらすじをまあまあ覚えてる本が多いので、だんだん文章が長くなってきました! 『奇蹟』 中上健次 前に書いた感想 http://d.hatena.ne.jp/ayakomiyamoto/20080712#p2 『岬』『枯木灘』といった「秋幸サーガ」と同じく、舞台は紀州・新宮の路地。「高貴で穢れた」中本の血を引く青年タイチの短く激しい生が、極楽のような地獄のような路地の終焉と重ねあわせて語られます。 私は子どもの頃は郊外の住宅地育ちだったし、途中で引越しもしたし、町内会の行事はなるたけサボりたいしで、生まれ育った土地に強烈な磁力でひきつけられるようなそういう土着的な感覚は根っこのところで持ってないように思うんだけど、逆に自分に持ち合わせないものだからこそ中上健次が書くような世界にひきつけられる所があるのかもしれません。中上健次は一冊読むと何冊も続
今年中盤くらいに読んで面白かった本です。前半に読んだ本より、多少は読んだ時の記憶が残っている…かな? 『火星夜想曲』 イアン・マクドナルド 「SF版百年の孤独」という触れ込みでよく紹介されてる『火星夜想曲』。 火星の砂漠に生まれ、霧のように消えていくデソレイション・ロード(荒涼街道)という小さな町の歴史を描きます。強烈な一瞬の美のフラッシュで男たちをとりこにする少女とか、悪魔と戦う宇宙史上最高のスヌーカー・プレーヤーとか、奇怪な人物が次々と登場して短いエピソードを織り成し、がだんだんと大きなスケールへと繋がっていきます。 正直、「百年の孤独」に例えるのはちょっと言いすぎかな…と思うけど、町が風塵に帰すラストがじんわりとした余韻を残して、突拍子もないホラ話が好きな人におすすめの文系SFだと思います。 『通訳』 ディエゴ・マラーニ 前に書いた感想 http://d.hatena.ne.jp/a
今年読んで面白かった本のまとめです(今年出た本じゃないのも混じってます)。 「翻訳ものは年を取ったら名前や固有名詞を覚えるのが大変になって読めなくなる。読むなら若いうちやで!」という話を人から聞いて「そ、そうなんですか…たしかに老後に翻訳ものはきつそうだなあ」と思って、以来、なんとなく、ちょっとあせったような気持ちで翻訳ものばかり読んでいる昨今です。おれ、この翻訳小説を読み終わったら、池波正太郎を読むんだ……(死亡フラグ)。 あとジャンルでいうなら、マジックリアリズム小説、メタフィクション、SFが多い年だったかな。 それではまず前編から。 『赤い高粱』 莫言 前に書いた感想 http://d.hatena.ne.jp/ayakomiyamoto/20080202#p1 架空の土地、中国は山東省高密県東北郷のある酒造小屋一族のサーガです。 莫言は去年からものすごく好きになった作家で、中上健次
id:Sekiharaさん(オナイドシ〜!)からいただいた「涙がちょちょ切れるぜバトン」に回答します! 回答するのがずいぶん遅くなってしまってスミマセン…! 最近はid:tada-woさんという人に『ドリーム・キャンパス スーパーフリーの「帝国」』という本をニコニコ笑顔で手渡されて、というかもらってしまって…うっかり読みふけっていたらば…自分が和田サンたち幹部に餌食となる女性をあてがう女性メンバー「スーフリギャルズ」となって暗躍するという夢にうなされ…起きたらなぜか熱が出ていたので会社を休んだ、という経緯がありまして……まあ結局スーフリは全然関係ないんですが、何を言いたいのかというと、ここ1〜2週間ほど割かしネットをお留守にしていたのです! で、バトン。大人になってからは映画や本以外ではあんまり泣く機会がない自分なので、なんだか申し訳ない気がしますが、はりきって答えていきます!!! 最近流
音もなくビルが現れたときには驚いた。 二度目のテレビ討論会が終わったその日、部屋には誰も通さないようにと言いつけて、バラクはひとりプライベートルームに篭っていた。 椅子に腰掛け、眉間を指で揉む。さすがに疲労が溜まっているのがわかった。初回と同じように、今回の討論会もまあまあの成功を収めたといえる。声を張るごとに陶酔を深める聴衆の熱気。張り付いたような笑顔に押し殺された、マケインの苦々しげな表情。 けれども課題は山積みだった。底の見えない株価の下落。恐慌の予感。早くから予想はしていたが、まさかこんなにすぐに現政権のツケがまわってくるとは。一見、状況はバラクにプラスをもたらしているように思えたが、これだって明日にはどんな風向きになるかわからず、予断を許さなかった。 くそ、せめて本選挙の後だったら―― 「大成功の討論会の後にしちゃ、しけた顔だな」 顔を上げるとドアの前にビルがいた。極太のコイーバ
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