人の思考のうち、最も抽象的で厳密なものは数学にある。だから、過去から現在に至るまでの人類の思考のマップがあるとするなら、その全体像の輪郭は、数学によって形作られている。つまり、数学を調べることで人の思考の構造と限界が分かる。 一方、数学は具体的なところから始まる。「数を数える」なんてまさにそうで、10進数が一般的な理由は、10本の指で数えたから。xy座標でy軸が量、x軸が時空的な変化に結び付けられるのは、重力により増えるモノは積み上がり、移動するものは横方向だから。指は10進数の、デカルト座標は時空間のメタファーであり、数学を調べることで思考の身体的な拠り所が明らかになる。 数学そのものは抽象的で厳密だが、これを理解する人は具体的で経験的な存在だ。『数学の認知科学』は、「人は数学をどのように理解しているか?」をテーマに掲げ、この具体と抽象のあいだを認知科学のアプローチで説明する。著者はジョ