「ロシアもウクライナも両方悪い」は不適切。細谷雄一教授の連続ツイートが「WEBで読める決定版と言える論考」と反響
2014年07月02日 集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定 7月1日、昨日になりますが(私はパリにいるのでまだ7月1日です)、安倍晋三政権で集団的自衛権の行使容認をめぐる閣議決定がありました。2006年に第一次安倍政権が成立してから実に8年が経っています。私は、2013年9月から、安保法制懇のメンバーに入りまして、今年の5月15日に安倍総理に提出された報告書作成にも多少は安保法制懇有識者委員としては関係しておりますし、報告書提出の際にも首相官邸で安倍総理の近くに座ってその重要な場面に居合わせることができました。 この問題をめぐるマスコミの報道、反対デモ、批判キャンペーンを見ていて、少々落胆しております。あまりにも、誤解が多く、あまりにも表層的な議論が多いからです。昨年11月には、特定秘密保護法案が成立しました。その際にも同様の誤解に基づく反対キャンペーンがあって、うんざりしました。特定
20世紀の国際社会は、1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章、そして国際人道法など、国際社会で共有するべき価値や正義を強化する方向で動いてきました。例えば、「政策の延長としての戦争」を禁止する戦争違法化(個別的自衛権、集団的自衛権と、集団安全保障を除いて)などは、国際社会で広く共有される「正義」となりました。 ですので、国際社会で、共有すべき価値や正義が一切ないわけではないが、全てが共有されているわけではない。その意味で、solidarityとpluralismとの双方が存在する。時代によって、それが破壊される時代と、それが強化される時代がある。今はそれが破壊されている時代です。 とりわけ国際社会において守るべき最も重要な規範である、戦争の違法化が、根本から破壊される可能性がある。それは、国際法上の合法性を担保する努力をほとんどしていないロシアのウクライナ侵略によって引き起こされてい
(2020年11月15日に書きましたこの論考について、その後さまざまな新しい動きや情報を入手して、大幅に改訂しました〔2020年11月17日2時40分〕。基本的な主張は変わっていませんが、細部で新しい情報をもとにして一部修正しました。) これまでかなり懸念していたことが、実現してしまうかもしれません。おそらく日本外交にとっての一つの大きな転換になってしまう可能性があります。 首相官邸から、次のような報道がだされました。 「ASEANと日本で、平和で繁栄したインド太平洋を共に創り上げていくための協力を進めていくことで一致しました。拉致問題については、心強い支援を得ることもできました。 明日、RCEP協定に署名します。自由で公正な経済圏を広げるとの日本の立場をしっかりと発信していきます。」ここで二つの点に注目したいと思います。第1は、「平和で繁栄したインド太平洋」という、従来の「自由で開かれた
2020年08月16日 中国の影響力工作という深刻な問題 「影響力工作」あるいは「誘導工作」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? ここ数年、安全保障や外交に関連した国際会議に参加すると、必ずと言ってよいほど中国による「影響力工作」についてのディスカッションとなります。英語では、「インフルエンス・オペレーション」となり、まだ定訳もなく、日本のメディアで扱う機会もそれほど多くはありません。というのも、水面下での活動ですし、情報公開ももっともなされない領域ですので、これについて深く知る機会が限られています。 この「インフルエンス・オペーレーション」を体系的に扱ったおそらく最初の一般書が、読売新聞の飯塚恵子さんが書いた、『誘導工作 ー情報操作の巧妙な罠』(中公新書ラクレ、2019年)ではないでしょうか。実態がよく分からないので、なかなか研究対象として深く知ることは難しいと思いますが、この著作は
家族葬が行われた増上寺には一般献花台が設けられ、多くの人が訪れた=7月12日午前、東京都港区(松井英幸撮影) 凶弾に倒れた元首相の安倍晋三。来月27日に米元大統領オバマ、フランス大統領マクロン、ドイツ前首相メルケルら各国の要人数百人が来日して国葬が挙行される。外交安全保障で積極的平和主義を掲げ、国際協調路線の枠組み作りを主導して「民主主義世界の擁護者」と肯定的に評価されたためだ。月刊各誌も改めてそうした功績に焦点をあてた。 7月9日付英フィナンシャル・タイムズ紙は社説で「安倍晋三は日本を再び世界の舞台に押し上げ、経済と外交で並外れたレガシー(遺産)を残した。とりわけ、安保政策は先見の明があり、安倍の名前は世界に生き続ける」と評価した。 慶応大学教授の細谷雄一は『中央公論』で「戦後日本外交の基礎を作ったのが吉田茂だとすれば、冷戦後の日本の外交路線をアップデートしたのが安倍晋三元首相」と指摘し
2015年06月14日 平和安全法制関連法案が合憲である理由 ここしばらく、政府が提出した平和安全法制関連2法案について、国会で激しい論戦が繰り広げられています。とりわけ、6月4日に衆議院憲法審査会での参考人質疑で、三名の憲法学者の方々がいずれも集団的自衛権の行使を「憲法違反に当たる」と述べたことで、メディアの一部や国会議員の一部の方が勢いづいて、今回の平和安全法制関連2法案を、なんとしてでも阻止しようと動いています。 はたして、今回の平和安全法制関連法案は、「憲法違反」なのでしょうか。そうではないのでしょうか。まず最初に、それを確定するのは、憲法学者の方でも、国会議員でも、総理大臣でもなく、最終的には最高裁であるということです。ですので、後に何らかの形で今回の法案について裁判所が「違憲である」という判断を下す可能性がないわけではありません。また、三名の憲法学者の方々は、いずれも高い評価を
2015年04月09日 なぜイギリスはAIIBに参加するのか AIIB参加問題で、あまり論じられていない点が一つあります。 それは、そもそもなぜイギリス政府が、3月12日にAIIBへの参加を決定したのか、ということです。G7ではイギリスが初で、その後に雪崩のように、フランスなどのEU主要国も参加を決めています。 これを理解するためには、5月7日のイギリス総選挙に目を向ける必要があります。デイヴィッド・キャメロン首相は、2013年1月23日に、もしも2015年に行われる予定の総選挙で保守党が勝利した場合には、イギリスが求める改革をEUが行わなければ(行う可能性はありません)、2017年にEU離脱を問う国民投票を行うことを宣言しています。これは、ギリシャのEU離脱をGREXITというのにかけて、BREXITと呼ばれています。これは日本ではあまり真剣に意識されていませんが、次の総選挙ではどの政党
2018年05月06日 研究者にとって大切なこと いま話題になっている、山口二郎教授の科研について、その中枢でプロジェクトを担当していた遠藤乾北海道大学教授によるその経緯の説明です。この説明に、その意義は尽きているように感じます。政治学を少しでもご存じの方であれば、旧帝国大学の中でも過去20年ほどの間の北大の貢献の大きさや、研究成果の充実を、十分にご理解を頂いているのではないでしょうか。 そのことは、巨大科研プロジェクトで一切の不備や欠点がなかったことを意味しません。国会議員であれ、メディアであれ、人間であれば必ず何らかの不備や欠点がつきものです。重要なのは、政治家を批判する場合も、政権を批判する場合も、あるいは研究者や研究プロジェクトを批判する場合も、公平な精神で、その問題点がどの程度深刻なものであり、どの程度批判すべきものであるかを、判断することだろうと思います。私なんかは、不備だらけ
政治的立場を超えて、多くの政治家、政党が、今回の事件で安倍元総理逝去に哀悼の意を示したこと、そして病院搬送直後には、それまで安倍元総理を政治的厳しく批判していた多くの方が無事であることを祈っていたことに、日本国民が有する美徳を感じました。またそれは、暴力で政治を動かそうとする行為に強い反対の意見を示すという、ゆるやかな幅広い国民的コンセンサスが示されたことを意味していて、賞賛すべき姿勢だと思います。 おそらく安倍元総理ほど、世界中で広く名前が知られ、また世界中の指導者や政府からその逝去が惜しまれ、悲しまれる首相もこれまでいなかったと思います。また、憲政史上最長の政権であった記録も、客観的な事実として長く記憶されていくのだろうと思います。 少ない回数ながらも直接接する機会があった立場から回顧しますと、安倍総理ほど細やかな配慮をなさって、繊細な感情を持ち、他者への敬意を示してくれる政治家の方は
ちくま新書7月刊『安保論争』の「はじめに」を公開いたします。2015年に成立した「安全保障関連法」をめぐる論争を整理し、本当の「平和」を問う一冊です。 メディアからの批判 「国民的論議を抜きにして法案を押し通すのは許せない」 朝日新聞はその紙面の中で、法案に反対する人々の運動について、「草の根の異議広がる」と題して、その怒りの様子を伝えている。「女性を中心とした草の根レベルの反対運動がここにきて広がりを見せている」という。新しい法案の導入をめぐり、国会の中と外の両方で、激しい論戦が見られた。世論は賛成派と反対派に分かれ、メディアもまたそれぞれの立場を支えるようになっていた。朝日新聞は、明確に、その法案には批判的な立場であった。 他方で、会員数が五〇〇〇人にのぼる「日本婦人有権者同盟」は、「法案は憲法に違反し、国民の合意も得られていない」と、「議員会館を訪ねたり、電話で慎重審議を求める説得活
首相動静(5月22日) 午前8時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。 午前9時5分、私邸発。同24分、官邸着。 午前9時25分から同43分まで、 石原伸晃 経済再生担当相、片上慶一環太平洋連携協定(TPP)政府対策本部首席交渉官、渋谷和久内閣審議官。同53分から同10時まで、兼原信克官房副長官補、北村滋内閣情報官、金杉憲治外務省アジア大洋州局長。同6分から同26分まで、伊勢志摩サミット記念館向けのビデオメッセージ収録。 午前10時54分から同11時15分まで、大阪万博誘致に向けたビデオメッセージ収録。同17分から同19分まで、 山本幸三 地方創生担当相。同20分から同41分まで、国家戦略特区諮問会議。同42分から同55分まで、ロータリー国際大会向けのビデオメッセージ収録。同56分から午後0時2分まで、「水郷潮来あやめ娘」の宮本路子さんらの表敬。 額賀福志郎 元財務相、原浩道茨城県
1937年に英国の財務相から首相となったチェンバレンは、イーデン外相の反対を押し切って、ナチス・ドイツに対する宥和(ゆうわ)政策を進めた。軍備増強にともなう財政負担を恐れたからだ。結果的に大戦とホロコーストを招いた、と後継首相のチャーチルは、戦後厳しく批判する。 ▼英国はなぜ、中国の呼びかけに応じて、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を決めたのか。国際政治学者の細谷雄一慶応大教授は、先日の読売新聞紙上で説明するなか、チェンバレンに触れていた。 ▼今回の決定も、オズボーン財務相が、外務省の反対を抑えて主導したものだ。確かに、外交の論理より経済の論理を優先させる、よく似た図式である。英国では今、スコットランド独立やEUからの離脱を求める声が高まるなど、政治的な混乱が続いている。もはや「健全な外交を行うことは難しい」と、細谷さんは指摘していた。 ▼米国と英国の影響力がかげるのを見透かしたよ
昨年から今年にかけて単著3冊(『歴史認識とは何か』『安保論争』『迷走するイギリス』)を刊行した細谷雄一・慶應義塾大学教授。その旺盛な執筆活動を支える書斎とは? 自宅マンションを訪ねた編集者とカメラマンに対して、細谷さんは「では、こちらからご案内しましょう」と、なぜか玄関を出て行く。もと来たマンションの廊下を30秒ほど歩いたところで、「アネックス(離れ)です」と案内されたのは「第2の書斎」として使われている別室だった。 引っ越し業者に「このままだと床が抜けますよ」と言われるほど大量の本に悩まされていた細谷さん。7畳ほどの広さの別室付きという条件に惹かれて、この部屋を契約したという。メインの部屋にある第1の書斎は執筆などの仕事用に、歩いて30秒の第2の書斎は息抜きの読書用に使われている。 「第1の書斎には、いま取り組んでいる研究や授業、講演で必要な本や、レファレンスになる本を置いています。第2
日頃より、インフォペッパーインターネットサービスをご愛顧いただきまして誠にありがとうございます。 「個人ホームページ」「商用ホームページ」のサービス提供は2015年11月30日をもちまして終了させていただきました。 これまで長らくご利用いただき、誠にありがとうございました。 今後も、皆様によりよいサービスをご提供させていただけるよう、サービス品質向上に努めて参りますので、何卒、ご理解いただけますようお願 い申し上げます。 <インフォペッパーインターネットサービスをご契約のお客様へ> 後継サービスとして「userwebサービス」を提供させていただいております。 詳しくは、以下のリンクをご参照ください。 ▼「userwebサービス」のご案内 http://www.ejworks.info/userhp/pep/index.html 今後ともインフォペッパーインターネットサービスをご愛顧いただけ
1.読売書評とその前後 1-1.兼原信克『戦略外交原論』に対する主な批判 古典の引用や解説に関して、以下に列挙するような問題がある。 a.古典の引用が間違っている b.引用は正しくても、著者の「解釈」が原文と乖離している c.部分引用で文意を歪めて、主張に援用している d.「文献Aに~とある」と書くが実際には存在しない また、時として歴史的事実に関して、100年単位で史実の順番が狂っている。例えば「マグナ・カルタは(中略)名誉革命の産物である」と述べるが、マグナ・カルタ(大憲章)は1215年制定、名誉革命は17世紀の出来事だ。 間違った根拠に基づいて行われた主張に、論述としての妥当性は無い。 詳しくは、トゥギャッターまとめ 「兼原信克『戦略外交原論』査読」[http://togetter.com/li/144564] を参照のこと。 1-2.細谷雄一による書評(要旨) 著者である兼原信克駐
2020年08月20日 Political WarfareとInfluence Operation 少し前に「影響力工作」についてのブログの記事を書いたのですが、それについて一部の方からかなり激しい反発と批判を頂いており、少しばかり驚いています。「そのようなものはない」あるいは「デマを流している」というような批判が多いのですが、これは裏返せば、日本国内ではpolitical warfareやinfluence operationについて、おそらく安全保障専門家外ではほとんど知られていないということなのだろうと感じております。 私はこの分野の専門家ではなく、あくまでも下記のような文献や報告書から学んだり、あるいは国際会議に参加してアジアの安全保障などをディスカッションする中で、食事の席や休憩時間などに、外交官、軍関係者、そして一部インテリジェンス関係者の方、そして安全保障専門家の方などと意見
終戦から70年以上が経過した。慶應義塾大学法学部教授の細谷雄一氏は、先の戦争を「主体的に総括し、それを世界史の中に埋め込むことが重要だ」と語る。自国の戦争を、世界史として捉えなおす重要性について論考する。 ※本稿は『Voice』2022年9⽉号より一部抜粋・編集したものです。 「先の大戦」とは何か 戦争が終わって70年以上が経過した現在においても、日本においてこの戦争をどのように論じ、どのような性質であったかを位置づけるのは容易ではない。 そもそもこの戦争の呼称さえも定まっていない。「大東亜戦争」から、「太平洋戦争」へ、そして「日米戦争」や「アジア太平洋戦争」と、さまざまな呼称が存在する。 いずれの呼称を用いても、日本国民の間でコンセンサスを得られるようなものはない。したがって日本の首相や明仁天皇(現在の上皇)は、「先の戦争」や「先の大戦」という呼称を用いて、歴史を語っている。 だが、日本
◇五百旗頭(いおきべ)真・評 『倫理的な戦争--トニー・ブレアの栄光と挫折』 (慶應義塾大学出版会・2940円) ◇信念ゆえに引き裂かれた指導者の軌跡 久しぶりに感銘をもって読んだ国際関係の書である。感銘を覚えるのは、われわれが国際関係と日本外交について直面している主要問題について、本書がトニー・ブレア英国首相の思考と軌跡を通して深い良質の考察を行っているからである。 たとえば、日本外交の主要問題はアメリカとどう交わるかである。米国は圧倒的重要性を持ちながら、必ずしもこちらに向き合って行動してくれず、一方的思い込みからベトナム戦争やイラク戦争に走ったりする。そんな時、同盟国は距離をとって批判的にたしなめるべきか、あえて懐に飛び込み同行しつつ影響力を保つべきか。後者を純度高く実践したのがブレア首相であり、ついで小泉純一郎首相であった。 本書の著者はかつて『外交による平和』(有斐閣)を著して、
2020年08月18日 中国の対日影響力工作という深刻な問題(補足) 前の投稿で、中国の対日影響力工作についてここ数年で、欧米のシンクタンクや政府機関がかなりの程度関心を深めて、調査を進めているということについて書かせて頂きました。 沖縄の中では、必ずしも「インフルエンス・オペレーション」についてのそのような海外のメディアや、シンクタンクでの調査について広く知られているわけではないかもしれませんので、なかなかその実態がどのようなものか、ご理解を頂くのが難しいところがあるかもしれません。 他方で、そのような動向については、海外のリベラル系のメディアもフォローしてきました。 たとえば、すでに四年ほど前になりますが、アメリカのBloomberg Newsが、デヴィン・スチュワート氏のCSISレポートでも私がコメントしましたような、沖縄独立民族運動の運動家と、中国の組織との繋がりについて調査をして
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