若君の乳母の宰相の君が出て来て、 「若様とごいっしょの御主人様だと ただ今まで思っておりましたのに行っておしまいになるなどとは 残念なことでございます。 殿様がほかの方と御結婚をおさせになろうとあそばしましても、 お従いにならぬようにあそばせ」 などと小声で言うと、 いよいよ恥ずかしく思って、 雲井《くもい》の雁《かり》はものも言えないのである。 「そんな面倒《めんどう》な話はしないほうがよい。 縁だけはだれも前生から決められているのだからわからない」 と宮がお言いになる。 「でも殿様は貧弱だと思召《おぼしめ》して 若様を軽蔑あそばすのでございましょうから。 まあお姫様見ておいであそばせ、 私のほうの若様が人におくれをおとりになる方かどうか」 口惜《くちお》しがっている乳母は こんなことも言うのである。 若君は几帳《きちょう》の後ろへはいって来て 恋人をながめていたが、 人目を恥じることな