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私たちは日々、「仕事ができる」、「リーダーシップがある」など、能力をもとにした評価を受けながら生きています。そうした評価は一見フェアなように見えて、実は問題を個人の能力に押し付けている場合も少なくありません。今回は個人の特性を生かした組織開発に取り組んできた勅使川原真衣先生に、主に産業社会における能力主義をテーマにインタビューいたしました。 『「能力」の生きづらさをほぐす』はどのようにして生まれたか――まずは『「能力」の生きづらさをほぐす』をご執筆された経緯についてお聞かせください。 ありがとうございます。皆さんもそうだと思いますが、小さいときから私という人間の「評価」をいろいろと受けてきますよね。「人となり」や「能力」などと一見するともっともらしく語られるものの、それって能力の「評価」なんていう大そうなものではなく、案外、「受け」の良さみたいなものじゃないか?と思うような経験がしばしばあ
転機との二つの結びつき 同性が好きなこと、同性パートナーがいること、異性も同性も好きであること、あるいは、生まれたときに割り当てられた性別と異なる性自認をもっていること、そうしたマイノリティ性のあるSOGI(性的指向、性自認)に関連することを誰かに伝える動機、きっかけは実に様々だ。 しかし、LGBTQ*にとって、そうしたカミングアウトが重要な意味を持つことは間違いない。自分のSOGIをオープンにしたり、身近な人に話したりするLGBTQはずいぶん増えた。私が、1990年頃、当時ゲイリブ(ゲイ・リベレーション=ゲイ解放運動)と呼ばれていた活動に参加し始めた頃とは比べようもないほどだ。 それでもなお、大部分のLGBTQにとってカミングアウトは容易ではなく、それゆえ「転機」と強く結びついている。それは二つの意味においてである。一つは、「転機をもたらすカミングアウト」。カミングアウトすることが転機と
今日の心理学は、過去の研究知見が再現されないという問題(再現性の危機)に直面しています。人間の行動を説明・予測する普遍的な命題を定立することを目的とする心理学が積み上げてきた研究成果は、砂上の楼閣に過ぎないのでしょうか。こうした問題に応えようと、心理学者たちは、過去の知見の再現可能性を確認する研究に取り組んでいます。 第4回では、メディアと暴力の関連についての知見をご解説いただきます。 メディアと暴力 筆者はアニメや漫画が大好きである。最近は、いわゆる「異世界転生」モノが好きである。主人公は転生して勇者になったり魔法使いになったり、冒険者になったり商人になったり、ゾンビになったりスライムになったり。主人公やその仲間たちは剣や刀や魔法やらで敵をバッタバッタと倒していく。非常に痛快である。私もそんな世界に行けたらな〜と夢想する$${^{1}}$$。 漫画や小説といった読みものから、テレビや映画
今日の心理学は、過去の研究知見が再現されないという問題(再現性の危機)に直面しています。人間の行動を説明・予測する普遍的な命題を定立することを目的とする心理学が積み上げてきた研究成果は、砂上の楼閣に過ぎないのでしょうか。こうした問題に応えようと、心理学者たちは、過去の知見の再現可能性を確認する研究に取り組んでいます。 第5回では、ミルグラム服従実験についてご解説いただきます。 第二次世界大戦と社会心理学 戦争。人々が仲間と手を組み、敵対する集団の人たちに対して攻撃する。国家、宗教、人種、民族、集落、部族など、様々な集団の間で、また、人類の歴史上のかなり古くから、戦争という現象が観察されてきた。 なぜ戦争は生じるのか。これはとてつもなく大きな問いであり、その答えは様々であり、もちろん、まだ解き明かされていない部分もたくさんある。人々が他者と関わりあう中で働く心の仕組みを解き明かそうとする社会
心理尺度はしばしば,「あなたは外向性が高い」といったように,個人の内部にある「心」を理解するために使用されます。しかし現状,ほとんどの心理尺度は個人と個人の間での項目得点の変動に基づいて作られており,そうした使い方は支持されません。心理尺度を適切に使用するためには,尺度がどういったデータに基づいて作られたかを把握することが必要です。今回は,心理尺度による「心」の測定を考えるうえで避けては通れない,個人間と個人内での因子構造の違い,そしてそれをふまえた心理尺度の使い方について,下司忠大先生にご解説いただきました。 ※今回の記事は,相関関係の分析,因子分析,心理測定などについて基礎的な知識があることを前提としています。あらかじめご承知おきのうえお読みください。 一般に心理尺度を用いて「心」を測定する実践の背景には,心理尺度への項目回答が因子によって生じたものであるという考え方があるように思いま
今日の心理学を考えるうえで、心を測るという実践はもはや不可欠となっています。しかし、そもそも心を測るとはどういうことなのでしょうか。今回は、関西学院大学の清水裕士先生に、公理的測定論というアプローチからこの問題をご解説いただきました。 心を数量化する 心理学では、「心を測る」ということを行います。とはいえ、心はそもそも直接観測することはできませんが、それを測ることはいかにして可能なのでしょうか。数理心理学ではその問題を公理的測定論という研究成果によって答えようとしました。本記事では、心理学で心を測るという問題について、公理的測定論という観点から解説します。また、心理学者が知っているようであまり知らない、尺度水準の数学的な意味についても解説します。 心の測定は可能なのか 心理測定の歴史は、心理学の歴史と重なるほど長いですが、現代でも使われている心理測定の理論の基礎を形作ったのは、Thurst
概念を捨てよ,システムを見よう:心理ネットワークアプローチへのいざない(東洋大学社会学部社会心理学科助教:樫原潤) #心理統計を探検する ここ十数年の臨床心理学では,ネットワークモデルという新たな発想の統計モデルを駆使した心理ネットワークアプローチが目覚ましい発展を遂げています。心理学における様々な現象を一種の「システム」「ネットワーク」と捉え,数量データ解析によってその特徴を解明していくこのアプローチは,いまでは臨床以外の心理学の諸分野どころか,精神医学をはじめとした関連諸学にも大きな影響を及ぼすようになりました。 本記事では,この心理ネットワークアプローチの概要や画期性について簡単な解説を示すとともに,さらなる学習に向けたリソースを共有していきます。 心理ネットワークの一例この記事を読んでくださっている方のなかには,心理ネットワークアプローチというのが初耳という方も多くいらっしゃると思
『学習指導要領』が改訂され「主体的・対話的で深い学び」という語が掲載されたように,主体性という言葉への注目が高まっています。この言葉はどういった経緯で現れ,どのように使われてきたのでしょうか。翻って,主体性を高める教育実践をどのように考えればよいのでしょうか。鈴木聡志先生にご解説いただきました。 文部科学省の平成29・30年告示小・中・高等学校『学習指導要領』に「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」の語が載った。このため現在わが国の初等・中等教育では児童生徒が「主体的・対話的で深い学び」ができるよう教員達は努めている。少なくともそうすることが望ましいとされている。しかし主体的な学びは最近になって突然提唱されたのでない。70年前から試みられている。過去にあった「主体的学習」については後述するが,ここで考えたいことは主体的であるとはどのようなことかということである。 主体性とは主体
2つのデータの平均値の差を示す代表的な指標の一つがCohen のdです。データの単位や散布度に依存しない指標であるため、心理学を含め様々な領域で使用されています。そして、dの基準として最もよく参照されるのが、開発者のCohen による「0.2を小さい効果、0.5を中程度の効果、0.8を大きい効果」とみなす基準です。 しかし、この基準はいかなる根拠で提案されたものなのでしょうか。また、あらゆる場面で杓子定規に使用できるものなのでしょうか。今回は認知心理学がご専門で、『伝えるための心理統計』を共著された大久保街亜先生にご解説いただきました。 ※今回の記事は、2群の平均値の差の分析に関する入門的な知識があることを前提としています。あらかじめご承知おきのうえお読みください。 Cohen のdを知っていますか? 心理統計の授業を取ったり、本を読んだりしたことがないと知らないかもしれません。心理統計を
今日の心理学は、過去の研究知見が再現されないという問題(再現性の危機)に直面しています。人間の行動を説明・予測する普遍的な命題を定立することを目的とする心理学が積み上げてきた研究成果は、砂上の楼閣に過ぎないのでしょうか。こうした問題に応えようと、心理学者たちは、過去の知見の再現可能性を確認する研究に取り組んでいます。 第3回では、アイディアを出す手法であるブレインストーミングの知見についてご解説いただきます。 ブレインストーミングとは 筆者が好きな漫画のひとつ、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」にこんなひとコマがある。主人公の比企谷八幡(ひきがや・はちまん)が通う高校が、他校と合同でイベントをすることになり、比企谷はそれを手伝うことになる。他校との話し合いの場、合同イベントの内容を決めるためのアイディア出しをするところで、他校の代表が「じゃあ前回と同じくブレインストーミングからや
多くの大学には「学生相談室」といった名称の相談窓口があります。私も相談室のカウンセラーとして学生からの相談を長く受けてまいりました。今日はある2校の事例をご紹介しようと思います。この両校の学生像は、多くの面で対照的なのですが、コロナ禍を経た社会情勢を反映して、共通の特徴がみられます。意識の面では多様な生き方を志向する傾向が、はっきりと見え始めているという点です。しかし現実の卒業後の選択という実情を比べると、両極端な方向に分かれつつあるように見えるのです。両者を比較しながら、社会に出た後の将来に対する不安と、その背景について論じていきます。 A大学は創造性に富んだ学生を集め、社会に送り出すことを標榜している学校です。企業から大学に寄せられる採用情報も、デザイン性を発揮できる職種の募集が多い特徴があります。入学してくる学生も高校時に教科ごとにバランスよく学習した実績ではなく、AO入試で長所とな
心理学において、これまでに得られた著名な研究結果が再現されないという再現性の危機が話題となっています。その原因の一端は、統計的仮説検定の使用にあると考えられています。そして、仮説検定のオルタナティブとして、ベイズ統計学に対する注目も高まっています。しかし、仮説検定がもつ問題の一部がどのようにしてベイズ統計学によって解決されうるのか、両者の立場の相違、ベイズ統計学の限界などについて、心理学においてまだ十分な議論がなされていないように見受けられます。そこで今回は、こうした再現性の危機と仮説検定の関係、ベイズ統計学の可能性と限界について、テンプル大学統計科学部助教授のマクリン謙一郎先生にご解説いただきました。 ※今回の記事は、統計的意思決定、仮説検定、ベイズ統計学について基礎的な知識があることを前提としています。あらかじめご承知おきのうえお読みください。 はじめに 再現性の危機が心理学を含む諸分
第2回 説得の技法:フット・イン・ザ・ドアとドア・イン・ザ・フェイス(高知工科大学 経済・マネジメント学群 教授:三船恒裕)連載:#再現性危機の社会心理学 今日の心理学は、過去の研究知見が再現されないという問題(再現性の危機)に直面しています。人間の行動を説明・予測する普遍的な命題を定立することを目的とする心理学が積み上げてきた研究成果は、砂上の楼閣に過ぎないのでしょうか。こうした問題に応えようと、心理学者たちは、過去の知見の再現可能性を確認する研究に取り組んでいます。 第2回では、説得の技法であるフット・イン・ザ・ドアとドア・イン・ザ・フェイスの知見について三船恒裕先生にご解説いただきます。 大学生時代のある日の出来事 筆者が大学1年生か、2年生の頃だっただろうか、英会話学校への勧誘の電話がかかってきた。いつもならばすぐに断るのだが、「一度、教室までいらっしゃって説明を受けてみませんか?
非規範的な性のあり方をめぐる社会の姿勢は、時代とともに変化してきました。20世紀には性的マイノリティを「望ましい」あり方に変えようとする転向療法(コンバージョンセラピー)が台頭し、一部地域では今日でも行われ続けています。今回は、この転向療法としてどのような「治療」が行われてきたのか、転向をめぐる精神医学・心理学の立場の変遷について、鳴門教育大学の葛西真記子先生にご執筆いただきました。 1. はじめに現在、LGBTQ+やSOGIという言葉が広く知られるようになり、人間のセクシュアリティやジェンダーは多様であるという認識が広がってきたと感じている。2020年の電通の調査では、LGBTという言葉の国民への浸透率は80.1%に上っている。しかし歴史的には性的指向のマイノリティである同性愛・両性愛や性自認のマイノリティであるトランスジェンダーは個人や社会に受け入れられず、マジョリティである異性愛やシ
自分を追い詰めて悩んでいた彼女に、わたしはなんて言えばよかったのだろう――『常識のない喫茶店』『いかれた慕情』などのエッセイで知られる文筆家・僕のマリさんに、高校時代の友人との思い出を綴っていただきました。 31歳のいま、なんとなく不調が続いている。そのことに気づくまで、いや、認めるまでにかなりの時間を要した。28歳頃から予兆はあった。風邪を引いたときのダメージが、いくらなんでも大きすぎるのである。いままで風邪を引いても、咳や鼻水、熱くらいの症状で、薬を飲んで休めば三日くらいで快復していた。しかしいまでは、猛烈な吐き気(実際に戻してしまう)と頭痛、凄まじい寒気が風邪の始まりを告げ、そのたびにわたしは「きっとコロナや胃腸炎など、強力なウイルスに感染したのだ」と思うが、病院に行ってもただの風邪と診断されて終わる。 風邪だけではない。気圧でも具合が悪くなるし、生理前も地獄で、徹夜なんて夢のまた夢
今日の心理学は、過去の研究知見が再現されないという問題(再現性の危機)に直面しています。人間の行動を説明・予測する普遍的な命題を定立することを目的とする心理学が積み上げてきた研究成果は、砂上の楼閣に過ぎないのでしょうか。こうした問題に応えようと、心理学者たちは、過去の知見の再現可能性を確認する研究に取り組んでいます。本連載では、再現可能性をめぐる社会心理学の最新の知見を、三船恒裕先生にご解説いただきます。 心理学における再現性問題 2011年、「光より速い物質が発見された」というニュースが全世界を駆け巡った$${^{1}}$$。同じく2011年、「人間は予知能力を持つ」とも思えるような実験結果も発表された (Bem, 2011)。どちらも科学の「常識」を覆し、既存の理論を根底から見直す必要に迫られるような大きな「発見」である。しかしこれらのニュースは、少なくとも発表直後に関しては、おおよそ
進化心理学とはどういう学問か「進化」の話は誰でも聞いたことがあるはずです.キリンの首が長い理由を説明するという,あの理論です.簡単に見ていきましょう.私たちが動物園で見るキリンはすべて長い首を持っていますが,彼らの祖先たちのなかには首の短いものもいたようです.ただし,彼らが生活していたサバンナでは,高いところにある木の葉を食べたり,遠くの敵を早く発見したりできる,長い首を持っているほうが有利でした(自然選択).ここで重要なのは,首の長いキリンは,首の短いキリンの親よりも首の長いキリンの親から生まれやすいことです(遺伝).ときには首の短いキリンから首の長いキリンが生まれたり,首の長いキリンから首の短いキリンが生まれたりすることもありましたが(突然変異),当然,前者のほうが生き残りやすかったはずです.結局,遺伝・突然変異・自然選択の働きのもとで世代交代が繰り返されれば,最終的には首が長い動物,
深層学習と新しい心理学(明治学院大学 研究員:池田功毅、九州大学准教授:山田祐樹、慶応義塾大学教授:平石界) 近年の深層学習(ディープラーニング)の発展には目を見張るものがあります。この発展の前で心理学は、何ができるのでしょうか? 深層学習技術が発展した世界における新しい心理学の可能性について、お三方の先生にご執筆いただきました。 科学的な心理学の目標は、心を科学的に理解・予測し、その成果を社会に役立てていくことだと言われます (e.g. 鹿取 et al., 2020)[1]。しかしこの記事の著者である私たちは、当の心理学者であるにもかかわらず、ここのところ再現可能性危機やらエビデンスレベルやらと、心理学の科学性やその社会的役割について疑問を呈し、不安を感じさせるような議論ばかり行ってきました (池田 & 平石, 2016; 平石, 2022; 平石 & 中村, 2022; 山田, 20
オレオレ詐欺などの組織的な犯罪で受け子などとして利用されたり、銀座の宝石店襲撃のようにあまりに直接的な犯罪に手を染めたりする若者の心理と、社会としてそれをどのように予防できるかについて、須藤明先生に短期連載でお書きいただきます。 外国人による犯罪の動向 令和4年版犯罪白書によると、平成元年から令和3年にかけての刑法犯検挙件数・検挙人員は、図1のような推移となっています。 図1 外国人による刑法犯検挙件数・検挙人員の推移(令和4年犯罪白書から) 平成3年以降増加傾向にあったものの、平成17年をピークに減少に転じていることが分かります。また、令和3年における刑法犯検挙人員総数(17万5,041件)に占める外国人の比率は5.4%でした。罪名別の構成比では、窃盗が59.6%と6割近くを占め、傷害・暴行11.6%、詐欺7.7%と続きます。検挙件数全体が減少傾向になる中で傷害・暴行は平成16年以降増加
自閉スペクトラムのある人は、社会の中で多くの困難に直面します。今回はその中でも特に自閉スペクトラムのある女性が直面する社会における不都合、そして社会の変化の必要性についてお茶の水女子大学の砂川芽吹先生にご執筆いただきました。 「自閉スペクトラム」(Autism Spectrum,以下AS)あるいは「自閉スペクトラム症」(Autism Spectrum Disorder,以下ASD)は神経発達症のひとつで,主に社会コミュニケーションおよび想像性の領域において,特有の認知や行動の特徴があるグループを指します。最初に強調しておきたいのは,ASを含め,神経発達症の特性があること自体が「障害」になるわけではありません。社会生活を送るうえで何らかの不都合が生じる時に初めて,「障害」として診断されうるのです。 ASのある人は,社会において様々な困難を経験するという現実があります。さらに,「女性」というジ
知能検査は個人を理解し、必要な支援を提供するのに役立ってきました。しかし、知能検査は、そもそもの開発者の意図から離れて使われたという過去もあります。社会にとって、知能検査とはどのようなものだったのでしょうか。学問と社会のあり方を考える一つの視点がそこにあります。今回は、優生思想とともにあった知能検査の歴史、および社会と学問のあり方をテーマに、サトウタツヤ先生にご執筆いただきました。 学問が社会のためになる、ということに反対する人はいないだろう。 役にたつことだけが学問ではないとか、いつか役に立つことを考えれば良いのであって今役立つかどうかだけを考えてはいけない、などという考えもありうるだろう。社会のため、というとき、私たちは社会がまっとうなものだという前提を置いている。しかし、社会がまっとうでないとすればどうだろうか? 社会に役立つということ自体、それほどお気楽に宣言できるものではない。そ
国際女性デーに拡散されたエスカレーター動画3月のある日、SNS上である動画が広く拡散されていた。 「今日は #国際女性デー 。映像はヤングカンヌで金賞を受賞したCM。」という文言を添え、クリエーターの富永省吾さんがTwitterにあげていた動画だ。 スーツをまとったサラリーマンらしき男性が、スマートフォンを持っているらしい手元に目をやったままエスカレーターに乗っている。別の二人のスーツ姿の男性が続く。上りエスカレーターだから、何をしなくても自動的に上に運ばれてゆく。対照的に、隣の下りエスカレーターでは、ひとりの女性が進行方向に逆行し自力で上がろうと奮闘している。ヒールのあるパンプスとタイトスカートではいかにも動きづらそうだ。少しでも歩を緩めれば、容赦無く低い位置に連れ戻される。動画の最後に「女性はこのような状況に置かれている」という意味の、「Women are in situation l
インターネットを活用した自殺予防実践は良きパターナリズムと言えるのか?(和光大学現代人間学部教授:末木新) #誘惑する心理学 現在のインターネット環境では、自殺に関連する用語を調べると、相談先が示されるようになっています。 このような自殺予防対策は、有効なのか、パターナリズムではないのかという批判について和光大学の末木新先生にご解説いただきました。 本稿で論じること/目的 本ページへのアクセス増を目的に、やや煽情的なタイトルをつけさせていただきましたが、本稿の執筆目的は、以下の問題について論じることです。 ●(主にウェブ上の)行動履歴データをもとにした自殺リスクの推定結果を活用した自殺予防実践は、良きパターナリズムと言えるのか? ● 悪い点があるとすれば、それはどのような点か? 改善は可能なのか? また、これらの問題について論じる際に、予め執筆者のこれまでの経歴を説明しておく方がフェアです
【第2回】心理検査の信頼性と妥当性について(高瀬由嗣:明治大学 文学部心理社会学科 教授)#心理検査って何?#金子書房心理検査室 今回は、心理検査の信頼性と妥当性という話題に焦点を絞ってお話ししたいと思います。信頼性と妥当性は、言うなれば心理検査における科学的基盤であり、非常に重要な考え方です。それゆえ心理検査を語るうえで避けて通ることはできません。少し込み入った話になるかもしれませんが、お付き合いください。 心理検査の成立要件 心理検査を成立させる要件のなかでも特に重要なのが、信頼性と妥当性が保証されていることです。信頼性とは、検査によって測定される結果が一貫しているかどうかを問うものであり、妥当性とは、検査が測定しようとしている目標を確実に測定しているかどうかを問うものです。 少しわかりやすくするために、心理検査を身近な道具にたとえて、この2つの概念について考えていくことにします。たと
「人の恨みは買うものではない」と昔の人は言っていましたが、確かに恨みは買ってしまっても、自らが抱いても、対処に苦労する気持ちだと思われます。恨むこころの整理について、春日武彦先生にお書きいただきました。 恨みは単純な感情ではない 恨むとか恨みといった言葉には、どこか穏やかでないトーンが感じられます。それこそ「呪ってやる!」「このままで済むと思うなよ」「いずれ思い知らせてやる……」といった調子の、たんなる怒りを超えた根深いものを感じずにはいられません。陰(いん)にこもったというか、じめじめしたというか、恨まれる側にとっては(おそらく)推し量り難い複雑な憎しみが想像されます。 どんなときに、人は相手を恨むのでしょうか。たとえばあなたの家族が通り魔に刺殺された、なんてケースがあったとしたらその犯人に怒りを覚えるのは当然でしょう。しかもこの場合には、誰が見ても悪いのは犯人です。家族にもあなたにも非
脳と心の科学の「ミッドライフクライシス」(京都大学情報学研究科 教授、ATR脳情報研究所 客員室長:神谷之康) #その心理学ホント? 私が学生だった1990年代前半、脳と心の科学の未来は輝いて見えた。80年代末から続いていた(第2次)ニューラルネットワークブームや、当時NatureやScienceに頻繁に掲載されていたサルの電気生理学研究の印象は強烈だった。「認知科学」や「認知心理学」の「認知」という言葉に、旧来の「心理学」や「生理学」にはない軽やかな響きを感じた。当時は、行動主義から認知科学への移行(「認知革命」)によって、観察可能な行動だけでなく、行動の背後にある認知プロセスについて研究できるようになったと言われていた(が、これが単純化された「建国神話」であることが後に分かってきた)(1)。90年代半ば以降、ニューラルネットワークブームは一時下火になる一方、脳イメージング技術の進展を背
これで安心! 怪しい心理学記事に騙されないための5つのポイント(慶應義塾大学ほか非常勤講師:鳥山理恵) #その心理学ホント? インターネットを見ていると、何らかの研究を根拠に「○○をすると○○になることが発見された」などと述べる記事を目にすることがあります。一見するとわかりやすく研究成果がまとめられていますが、はたしてそれで研究を正確に理解することはできるのでしょうか。今回は、慶応義塾大学で「騙されないための英語論文講読特訓」という講義を担当されている鳥山理恵先生に、研究紹介記事を読むうえで注意すべきポイントをご解説いただきました。 慶応義塾大学で「騙されないための英語論文講読特訓」を担当するようになって3年目になります。2019年までは普通の英文講読の授業を行っていました。よくある、毎回の発表担当者を決め、論文の内容をレジュメにまとめてきてもらうような演習です。しかし毎回の授業では発表者
巷にあふれる恋愛心理学を検討する:マッチングアプリ篇(東京未来大学モチベーション行動科学部特任講師:仲嶺真) #その心理学ホント? 近年利用が広がっているマッチングアプリは、恋愛を求める利用者を結びつける様々なシステムを提供しています。その一つが、心理尺度による「心」の測定を用いた相性分析です。今回は、マッチングアプリで実施される相性分析をテーマに、「恋愛心理学」と称される知見を読み解く際に注意すべきポイントを、心理学のアプローチで恋愛について研究されている仲嶺真先生にご解説いただきました。 現在、マッチングアプリの利用が広がっています(三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 2021)。マッチングアプリとは恋愛や結婚等を目的とした会員同士をマッチングするサービスで、さまざまなものがあります(一例として、IBJマッチングアプリ研究室)。中には、心理尺度(心理テスト)を用いた相性分析を行なっ
世間では必ずしも科学的な知見に基づいていない知識が、心理学と称されて流行しています。これらは、アカデミックな心理学の対比として、ポップサイコロジー(大衆的な心理学)と呼ばれています。このポップサイコロジーの流行に対して、心理学者はどの様に考えているのでしょうか? 九州大学の山田祐樹先生にお書きいただきました。 認知心理学者を自称している私ですが,大学には犯罪心理学者になりたくて入学しました。当時の私はプロファイラーになりたくて仕方がなかったのです。そう思うようになったのは,高校生の頃までに映画,ドラマ,小説,漫画などから多大な影響を受けていたからでしょう。私は昔からそういった作品をたくさん観たり,読んだりするのが好きでした。しかし心理学についての「ちゃんとした」学術書や論文に触れる機会は皆無だったので,私が心理学に対して持っていた印象や知識はおそろしく歪んでいました。また大学で開講されてい
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