1972年秋、早稲田大キャンパスで起きた「内ゲバ」によるリンチ殺人を証言や再現ドラマで問い直すドキュメンタリー映画「ゲバルトの杜(もり) 彼は早稲田で死んだ」(代島治彦監督)が東京・渋谷のユーロスペースで公開中だ(今後、全国で順次公開)。事件発生と同じ72年に東京大に入学し、「内ゲバ」の時代に大学生活を送った映画史家で比較文学研究者の四方田犬彦さんに当時を振り返り、「ゲバルトの杜」について寄稿してもらった。 触れれば血が噴出するような傷 傷をつけた人間を信じることはできないが、つけられた傷は信じることができる。傷跡(きずあと)とは、事件の直後に体験した危機と苦痛を克服し、自分がより高い次元で生き延びたことの証左だからだ。もうだいぶ昔のことだが、この言葉を切実に信じたいと思った時期があった。 だがもしここに、触れるたびに血が吹き零(こぼ)れるような傷があるとしたら。いつまでも癒(いや)される