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ブックマーク / book.asahi.com (229)

  • 沈黙が声を発し、空席が姿を見せる~本当の民主主義の息吹『黙々』|じんぶん堂

    記事:明石書店 『黙々――聞かれなかった声とともに歩く哲学』(高秉權著、影剛訳、明石書店) 書籍情報はこちら 現代の民主主義社会は、ある種の人々から声を奪うことで成立している。入所施設や精神科病院で長期収容されている障害者の存在は忘れられている。生活保護の受給者が声を上げるだけで、世間からバッシングを受ける。性被害者、難民、失業者たちの声は抑圧され、黙らされる。抑圧され、排除された者たちのほとんどは、無念の思いを抱き、沈黙するしかない。 世間からは見向きされないその無念、沈黙。 押しつけられ積もっているが吐き出されない思い。 書はまさにその無念や沈黙に耳を傾け、その声を聞くことで当の意味での民主主義の息吹を見出すだ。 「研究空間スユ+ノモ」と「ノドゥル障害者夜学」 著者高秉權(コ・ビョングォン)氏は、韓国では著名な在野の哲学者であり言論人だ。2000年代には「研究空間スユ+ノモ」と

    沈黙が声を発し、空席が姿を見せる~本当の民主主義の息吹『黙々』|じんぶん堂
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    facebooook 2024/06/08
    “現代の民主主義社会は、ある種の人々から声を奪うことで成立している。入所施設や精神科病院で長期収容されている障害者の存在は忘れられている。生活保護の受給者が声を上げるだけで、世間からバッシング”
  • 「核燃料サイクルという迷宮」書評 「能天気な技術観」丹念に検証|好書好日

    「核燃料サイクルという迷宮」 [著]山義隆 東京電力福島第一原発からは大量の処理水が海洋放出されているが、この件で「安全性に問題はないから流せばよいのだ」と居丈高に言い放つ論者が目立ったことには、愕然(がくぜん)とした。廃炉のめどは立たず、近隣国の支持も得られず、漁業者との約束も破って放出するのだから、まさに痛恨である。だが、この恥ずかしい「敗戦国」で、被災地への負い目も忘れ、むしろ勝ち誇る者さえいるのはなぜか。 このような倒錯は、書が明快に示すように、もともと戦前から存在していたものである。「資源小国」というコンプレックスを抱いた日は、資源を求めてアジアでの侵略戦争に到(いた)り、戦後は原子力政策を推進した。「もたざる国」日にとって、原子力のエネルギーは劣位を逆転する魔法と信じられたのである。 だが、原発稼働には核廃棄物という難題がある。そこで使用済み燃料を再利用する「核燃料サイ

    「核燃料サイクルという迷宮」書評 「能天気な技術観」丹念に検証|好書好日
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    facebooook 2024/06/08
    “先端性をうたいながら、根本的に時代錯誤な万博やリニア中央新幹線をやめられないこと。それは、破綻した核燃料サイクルをやめられないことと同型”
  • 「結婚の社会学」書評 事実を示し「ふつう」を解体する|好書好日

    結婚の社会学」 [著]阪井裕一郎 では、問題。次は〇か×か。⑴結婚しない人が増えると少子化が進む。⑵女性の就労率が上がると出生率が下がる。 答(こたえ)はどちらも×。意外に思った人も多いのではないだろうか。諸外国の例を調べると、未婚率が高くとも出生率は必ずしも低くない。それは結婚という形態をとらずに子を産み、家庭を営むケースが少なくないからで、⑴は×。また、OECDのデータなどでは、女性の就労率が高い方が出生率が高いという。女性の就労を支える社会全体の意識と体制が整っているほど、子育てはしやすいということだ。というわけで、⑵も×。 日では、高度経済成長期に「夫が働きに出ては家事と育児に専念する」という考え方が標準的となったが、現在では日においてもこの結婚観・家庭像は崩れてきている。それを嘆かわしいと思うにせよ、望ましいと思うにせよ、なによりもまず結婚に関わる事実を見なければならない

    「結婚の社会学」書評 事実を示し「ふつう」を解体する|好書好日
  • 「実存主義者のカフェにて」書評 「人生と哲学はひとつ」の群像劇|好書好日

    実存主義者のカフェにて――自由と存在とアプリコットカクテルを 著者:サラ・ベイクウェル 出版社:紀伊國屋書店 ジャンル:ジャンル別 「実存主義者のカフェにて」 [著]サラ・ベイクウェル 実存主義という言葉に近寄りがたく感じる人も多いかもしれない。サルトルには興味ないな、という人も。それだけの理由でこのを手に取らないのはもったいない。 このは、たんなる哲学の解説でも哲学者の伝記でもない。「わが人生とわが哲学はひとつであり、同じものだ」。サルトルは日記にそう書いた。そしてまた、書の魅力はむしろ群像劇たるところにある。フランスではボーヴォワール、メルロ=ポンティ、カミュ、ドイツではフッサール、ハイデガー、ヤスパース、こう列挙してもまだ足りない豪華キャスト。 彼らの人生の真ん中に第二次世界大戦があり、それはまさに激動の時代だった。ドイツではナチスが台頭し、ハイデガーはナチスに加担した。一方

    「実存主義者のカフェにて」書評 「人生と哲学はひとつ」の群像劇|好書好日
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    facebooook 2024/05/04
    “現在、ふたたび大きなものにだれもが従いたがる時代になりつつあるように見える。だからこそ今、実存主義が新鮮に感じられるのかもしれない。” 翻訳:向井和美
  • 人生がときめくベンヤミンの歴史哲学 紀伊國屋書店員さんおすすめの本|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 書籍情報はこちら ついに登場した、ベンヤミンの手頃な入門書 柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』(岩波新書)は、ようやく登場した手に取りやすいベンヤミン入門として、人文書売場で大きな力を発揮するだと思います。書店員の皆様は新書棚だけでなく、ぜひハードカバーの棚前にも積んでください。 さて、書店員の役目はできるだけ多くの方にを届けることですが、ベンヤミンという思想家の魅力をどのように伝えればいいのか、これは難問です。 「片づけ」から読んでみるベンヤミン そうですね、では例えば、皆様は「片づけ」は得意でしょうか。かくいう私は苦手で、モノをなかなか捨てることができず、困っております。 そんな時、ベンヤミンをひもといてみましょう。 上記の新書の冒頭で紹介されているのですが、ベンヤミンによる「歴史の概念について」という文章の中に、“歴史の天使”について書かれた

    人生がときめくベンヤミンの歴史哲学 紀伊國屋書店員さんおすすめの本|じんぶん堂
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    facebooook 2024/04/25
    「歴史を語りえなかった、それゆえに支配的な物語によって抹殺された者たちの記憶の一つひとつから、歴史的な経過の総体を見返し、危機的な現在を見通すこと。」柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン』岩波新書
  • 「エドワード・サイード」書評 絶望的な状況に言葉で抵抗する|好書好日

    「エドワード・サイード」 [著]中井亜佐子 パレスチナに生まれアメリカに亡命し、『オリエンタリズム』やパレスチナ関連の著作を残したサイード。批評家であることに拘(こだわ)った。書はサイードがなぜ批評を重視したのかを掘り下げていく。 批評なき学問は形骸化する。サイードは論稿「旅する理論」で、哲学者ルカーチの革命思想が欧米で学知に取り込まれる過程で脱政治化され、現実への批判意識を失っていく過程を分析した。サイードが見るところ、アメリカで批評理論は同様の状態にあった。1980年代、レーガン政権のアメリカでは、軍拡や新自由主義経済が進められ、市民を翻弄(ほんろう)したが、学界は難解な専門用語を駆使し、仲間内で独創性を競い合うばかりで、市民の日常との接点を失った。こうした学問の内向き傾向は、国家権力が望むところでもあった。 最晩年のサイードは「文献学への回帰」や「言葉への愛」を唱えた。テクストの精

    「エドワード・サイード」書評 絶望的な状況に言葉で抵抗する|好書好日
  • アメリカの被ばく者:実験と分断の核の時代|じんぶん堂

    記事:明石書店 ケネディ大統領によるハンフォード訪問 1963年 書籍情報はこちら アメリカにおける被ばく 原爆の後遺症に長くさいなまれ早逝した自身の家族・親族のことを思う時、彼らが健康や人生における様々な機会を失ったことに対して怒りと悲しみを感じていた。2011年の福島の原発災害後、そして2020年に友人でもありハンフォード被ばく者裁判の原告でもあったトリシャ・プリティキンの『黙殺された被曝者の声:アメリカ ハンフォード 正義を求めて闘った原告たち』を読んだ際にも、同じような怒りと悲しみを再体験した。 『黙殺された被曝者の声』は24人の原告の証言と、彼らが政府の下請け企業に対して起こした裁判に至る経緯と、その結果からなるである。ハンフォードは、マンハッタン計画の三大拠点地――ニュー・メキシコ州のロス・アラモス、テネシー州のオークリッジ――の1つで、長崎原爆のプルトニウムが製造され、そ

    アメリカの被ばく者:実験と分断の核の時代|じんぶん堂
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    facebooook 2024/04/03
    “1940年代から慢性的に放射性物質を排出し続けていましたが、アメリカ政府はこの事実を隠蔽、40年以上もその事実は公表されませんでした。それが原因で風下の一般市民の多数ががんや放射線由来の疾病”
  • 「アフガンの息子たち」書評 難民児童の処遇巡る冷酷な判断|好書好日

    「アフガンの息子たち」 [著]エーリン・ペーション 東京を走る京王線で書を読んでいると、隣の女の子が、足をぶらぶらさせながらこちらを覗(のぞ)き込んでいた。ピンクのダウンに茶色のショートブーツ。髪は綺麗(きれい)に結われている。彼女の澄んだ目を見ながら思う。もしこの子がアフガンに生まれていたら――。 9・11をきっかけに始まったアメリカのアフガニスタンへの軍事作戦。20年続いたが、「心を寄せるべき」ニュースは、季節物の商品のようにくるくる変わるので、忘れた人も多いはず。でも、あの戦争の「成果」を背負う子どもたちが今でも大勢いることを、書は知らしめる。 舞台は、スウェーデンの難民児童の入居施設。保護者なしに国を逃れてやってくる児童が一時的に住む場所だ。主要登場人物は、アフガンから逃れてきた10代の少年アフメドら3名と、施設職員として彼らを世話する「わたし」。 ここにいる児童たちは、成人年

    「アフガンの息子たち」書評 難民児童の処遇巡る冷酷な判断|好書好日
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    facebooook 2024/03/30
    “もしあなたがニュースの「消費」に違和感を覚えているのなら、”
  • 「タスマニア」書評 世界の終わりと他者への想像力|好書好日

    「タスマニア」 [著]パオロ・ジョルダーノ 現実逃避は悪いものと思われがちだが、世界は案外、つらいことを忘れるためにとる行動の恩恵に支えられているのかもしれない。作はそんな逃避の効用がよくわかる、ある作家の個人的かつ切実な物語だ。 前作『コロナの時代の僕ら』が日でも話題になった作者による自伝的小説。2015年から現在まで、欧州各地で頻発したイスラム過激派によるテロや#MeToo運動の隆盛といった社会情勢の変化を肌身で感じる彼自身の日々の生活が、色濃く投影されている。気候変動や核の脅威、人類滅亡のタイムリミットが刻々と迫る世界で、作家の「僕」は不妊をめぐりとすれ違い、「子どもができず、未来をもぎ取られた」絶望に苦しんでいる。自己の問題から目を背けるかのように、彼は仕事と称して各地を転々とし、ある登場人物によれば「七十年前に日で起きた、今じゃ誰も関心がない」原爆についてのを書きあぐね

    「タスマニア」書評 世界の終わりと他者への想像力|好書好日
  • 『私たちはいつから「孤独」になったのか』書評 社会との相互作用で解く感情史|好書好日

    ISBN: 9784622096559 発売⽇: 2023/11/20 サイズ: 20cm/284,36p 『私たちはいつから「孤独」になったのか』 [著]フェイ・バウンド・アルバーティ 孤独とは、人が抱く感情のなかでもとりわけ複雑で不思議なものだ。英語ではソリチュード(愉〈たの〉しめる孤独)とロンリネス(不幸でつらい孤独)とを使い分けるが、孤立や疎外のようなネガティブな面も、自分と向き合い内省を促すポジティブな面もある。単一不変の感情ではなく、ライフステージや経済的・社会的状況によって流動的に変化するし、その実態は不安や悲しみや怒りや安らぎなどさまざまな感情が混じり合う感情「群」に近い。 そんな「感情状態」としての孤独の歴史を辿(たど)る書は、欧米では産業革命後に生まれ、近代の疫病とされる孤独が、個人主義や新自由主義の台頭する社会と人間との相互交渉を通じて循環的にかたちづくられてきたこ

    『私たちはいつから「孤独」になったのか』書評 社会との相互作用で解く感情史|好書好日
  • 「色の秘めたる歴史 75色の物語」書評 鮮やかな色 批判したゲーテ|好書好日

    「色の秘めたる歴史 75色の物語」 [著]カシア・セントクレア 評者の意向で、ビジュアルと言葉を組み合わせた書評です。

    「色の秘めたる歴史 75色の物語」書評 鮮やかな色 批判したゲーテ|好書好日
  • いま『災害廃棄物』についてを知る 〜迅速かつ適正な処理のために|じんぶん堂

    記事:朝倉書店 災害廃棄物を処理するには、「分けて出す」ことが原則である。まず分けるべきは、生活ごみと災害廃棄物である。そして事故防止の観点からは危険物を分別すること、公衆衛生リスクの観点からは腐りやすいもの(濡れた畳等)を分けることが望ましい。一度混ざったごみは選別が困難になり、処理にかかる時間も費用も大きくなる。手間や労力が必要になってくるが、分別することこそが迅速かつ適正な処理への鍵となる。 書籍情報はこちら 災害廃棄物の出し方と集め方 災害時に出るごみの種類 普段から各家庭・事業所から出てくるごみは、災害時にも出る。また、避難所が開設されれば、避難者の生活に伴う避難所ごみが出される。これらのごみは、通常の生活時にも発生するものであることから、災害廃棄物にはあてはまらない。災害によって生じるものとしては、仮設トイレや避難所から排出されるし尿がある。また、片付けに伴う片付けごみと、被害

    いま『災害廃棄物』についてを知る 〜迅速かつ適正な処理のために|じんぶん堂
  • 「アイヌもやもや」書評 「和民族」こそが差別止められる|好書好日

    アイヌもやもや 見えない化されている「わたしたち」と、そこにふれてはいけない気がしてしまう「わたしたち」の。 著者:北原 モコットゥナシ 出版社:303 BOOKS ジャンル:社会・時事 「アイヌもやもや」 [著]北原 モコットゥナㇱ [漫画]田房永子 アイヌは北海道だけにいると思う人には、書をぜひ手に取ってほしい。目の前にいるのに、見えていないだけかもしれない。 実際、著者は関東で生まれ育ったアイヌだ。アイヌのことを考えたいけどわからない、もやもやする思いを抱く読者にむけ、田房永子の漫画を軸に解説する。 漫画の主人公の一人は、東京に住む、アイヌルーツを持つ高校生。アイヌは「もういない」「見たことも会ったこともない」というネット上の言葉に傷つく一方、男子校でクラス全員が「日男児」であることを自明視する雰囲気に、自らのルーツを口に出せずにいる。 このシーンについて、著者は次のように述べる

    「アイヌもやもや」書評 「和民族」こそが差別止められる|好書好日
  • 「人種差別主義者たちの思考法」 利己主義政策が生む無知と憎悪 朝日新聞書評から|好書好日

    人種差別主義者たちの思考法 黒人差別の正当化とアメリカの400年 著者:イブラム・X.ケンディ 出版社:光文社 ジャンル:社会・時事 「人種差別主義者たちの思考法」 [著]イブラム・X・ケンディ 人種問題をテーマとする良書が相次いで翻訳されている。黒人への人種差別思想の歴史を論じる書は、2016年全米図書賞ノンフィクション部門を受賞した。分厚いだが、一般読者に向けて書かれベストセラーになった。イブラム・X・ケンディは、この受賞により、新進気鋭の学者としてメディアで注目を浴びるようになった。 米国で黒人は人口の約13%を占めるが、黒人が所有する資産の割合は3%以下だ。その一方で、収監者全体の40%を黒人が占める。なぜ人種間格差はなくならないのか。 著者が他のでも主張するように、米国では三つの見解が絡み合って展開してきた。第一に、黒人は生物学的に劣るとする「人種分離主義」。これは明らかに

    「人種差別主義者たちの思考法」 利己主義政策が生む無知と憎悪 朝日新聞書評から|好書好日
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    facebooook 2024/02/11
    “政策→思想→無知の関係が米国の歴史を動かしてきた、差別が米国の制度や構造に組み込まれているという見方。白人への逆差別だと批判の矢面にも立たされてきた。”
  • 「ガザとは何か」書評 惨劇の真因を歴史的文脈で解く|好書好日

    「ガザとは何か」 [著]岡真理 現在、国際司法裁判所では、ガザでのイスラエルの軍事行動がパレスチナ人の破壊を意図したジェノサイド(集団殺害)にあたるかどうかが審議されている。書はジェノサイドとしか呼びようのない惨劇の衝撃から生まれた。もっともその起点は、今回の軍事行動が始まった昨年10月7日ではない。76年前パレスチナ人を排除して建国されたイスラエルは、占領や軍事封鎖、暴力的な入植を通じ、パレスチナ人を抑圧し続けてきた。世界も加担者だ。ガザで大規模な軍事作戦があった時のみ関心を寄せ、確実に進行してきた「漸進的ジェノサイド」を止めることはなかったのだから。 メディアも「憎しみの連鎖」「暴力の連鎖」といった、占領者と被占領者の圧倒的な非対称性や歴史的文脈を無視した報道によって抑圧に加担してきた。最たる例が、2018年、パレスチナ人が帰還の権利とガザ封鎖の解除、米大使館のエルサレム移転への反対

    「ガザとは何か」書評 惨劇の真因を歴史的文脈で解く|好書好日
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    facebooook 2024/02/11
    「漸進的ジェノサイド」
  • 生成AI・地球沸騰・続く戦争…破局を前に、人間にできること 2023年の論壇回顧|好書好日

    ペーパークリップの生産を最優先する超人工知能(AI)が、全地球をクリップの製造施設に作り替えてしまう。スウェーデン出身の哲学者ニック・ボストロムがSFのような思考実験を通してAIのリスクを論じたのは2003年だった。20年後の今年、生成AIブームが起きた。 ChatGPT(チャットGPT)に代表される文章や画像を生み出す技術を、論壇誌も取り上げた。AI研究の松尾豊は開発側の視点で果敢に発信。暮らしや仕事を一変させる技術であり、日の政府や企業も自前のAI開発に乗り出すべきだと訴えた(文芸春秋6月号)。 認知科学者で「言語の質」の共著者、今井むつみは「子どもの言語習得」の観点から、人間とAIの生み出す言葉の違いを論じ、注目を集めた。 仕事を奪われないか。学習データの知的財産権をどう整理するか。国内では新技術が引き起こす摩擦が関心の的だった印象だ。 AIのホームであるはずの欧米からは、AIが

    生成AI・地球沸騰・続く戦争…破局を前に、人間にできること 2023年の論壇回顧|好書好日
  • 来季も一緒に球場へ。家族の心をひとつにした「ネガティブ・ケイパビリティ」 中江有里の「開け!本の扉」 #9|好書好日

    (Photo by Ari Hatsuzawa) 12月は野球のオフシーズン。試合のない夜は静かにすぎていく。 一方、阪神タイガースは、ほぼ毎日ネットニュースで見かける。主力選手たちの年俸は爆上がりし、岡田彰布監督の「ARE」は流行語大賞に輝いた。38年ぶりの日一効果は絶大だ。 を読んでいても、フランスの哲学者サルトルの名前を「サトテル」に空目してしまう。野球ロス状態の私にとって、どんなに小さくても阪神情報は砂漠で見つけた湖……いや、そんなに大きくはない。水たまりくらいかな。 恵みの雨のような阪神情報をせっせと仕入れては、カラカラの心を潤している。 そんなことをしている間に、来季は迫ってくる。 頂点を極め、追われる立場になるのは、王者の宿命だ。 個人的には夏に病気をしたので、阪神タイガースをこれからもちゃんと見続けられるのか? という若干の不安もある。命あっての応援だ。 (Photo

    来季も一緒に球場へ。家族の心をひとつにした「ネガティブ・ケイパビリティ」 中江有里の「開け!本の扉」 #9|好書好日
  • 「思い出すこと」書評 覚束ない言語で自分を解き放つ|好書好日

    … 「思い出すこと」 [著]ジュンパ・ラヒリ 著者のジュンパ・ラヒリはインド系アメリカ人。両親はベンガル語を話すが、自身は英語小説を書く。デビュー短編集で二〇〇〇年にピュリツァー賞に輝いた、栄光の人物だ。 移民の娘というバックボーンを持つラヒリが描く物語は、大陸をまたぎ壮大な広がりと深みを持つ。それだけで充分に文学的な泉となりうるが、彼女はその主題のみを書き続ける作家ではなかった。四十歳を過ぎてから、自分の意志でローマへ移住。イタリア語で作品を書きはじめた。 そのとき入居した家具付きアパートの、書き物机の引き出しの中から、ラヒリは数冊のノートを発見。表紙に〈ネリーナ〉という名前があり、中には未発表の詩が眠っていた。これをイタリア詩の研究者に託し、主題別にまとめられ、この詩集は編まれたという。 ネリーナもまたローマの異邦人だ。詩には、遠くに住む家族との、痛みを伴う思い出がぽろりぽろりとこぼ

    「思い出すこと」書評 覚束ない言語で自分を解き放つ|好書好日
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    facebooook 2023/12/02
    ラヒリ “「祖国はわたしには重い」という一文。覚束ない言語でだからこそ、吐き出せる本音”
  • 「ガンディーの真実」書評 古びぬ問い 今こそ喫緊の課題|好書好日

    ガンディーの真実 非暴力思想とは何か (ちくま新書) 著者:間 永次郎 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット … 「ガンディーの真実」 [著]間永次郎 非暴力・不服従運動でインドを独立に導いたガンディー。私たちはその思想の全容を理解しているだろうか。ガンディーはこう明言している。「臆病か暴力のどちらかしか選択肢がないならば、私は疑いなく暴力を選ぶよう助言する」。この言葉だけでも、彼の言う非暴力が単なる物理的暴力の否定でないことがわかる。 書は、ガンディーの非暴力が、や衣服、性や宗教など、生活全般に及ぶ「サッティヤーグラハ(真実にしがみつく)」の実践であったことを明らかにする。ガンディーはイギリスによる支配がインドの政治社会だけでなく、味覚や美的感覚にも及んでいると看破していた。ゆえに、生産過程で誰も傷つけず、誰でもアクセスでき、人を健康にする「非暴力的」なや衣服の探求

    「ガンディーの真実」書評 古びぬ問い 今こそ喫緊の課題|好書好日
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    facebooook 2023/12/02
    「臆病か暴力のどちらかしか選択肢がないならば、私は疑いなく暴力を選ぶよう助言する」1947年8月15日印パ分離独立。1200万人以上が難民、前後して宗教対立に伴う迫害や暴行、略奪で100万人以上が死亡と推計
  • 花の香りで憎しみ溶けたら 青来有一|好書好日

    イラスト・竹田明日香 毎年10月中旬の短い期間、街を歩いていて甘い香りにはっとすることがあります。母が暮らす福祉施設に行く途中、今年もその香りに気づいて、あたりを見回しました。古びた木造の家が軒を連ねる人通りの少ない路地でした。プランターや鉢植えが置かれた一軒の家の門扉のそばで、白っぽい幹に黄色の小さな花の集まりをつけた樹木を見つけました。 キンモクセイ。数日前は気がつきもしなかったので、まるで突然、現れたような気もします。クルマだったら窓を開けていてもまず気づかないはずで、秋の街を歩く愉(たの)しみのひとつです。マスクをしたままだったことに気がついたのは、その後でした。鼻も口もおおっているのに香りがわかったのはなにか呼びかけられたようで、ちょっと神秘的な感じもします。 スーパーマーケットで母の差し入れを買ったばかりで、手には、芋まんじゅうやプリン、保冷材で包んだ小さなアイスクリームが入っ

    花の香りで憎しみ溶けたら 青来有一|好書好日
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    facebooook 2023/11/26
    “世の中はコロナウイルスも気にしなくなってきましたが、今年はインフルエンザの流行も心配され、福祉施設など逆に神経質になり、母が入居している施設では、面談は一度に10分に制限されるようになりました。“