約束の時間ぴったりに、彼女は長い脚を交互に後ろに跳ね上げながら、「待たせたかしら?」と笑顔を浮かべ弾むように会見室へと駆け込んできた。 現在の世界ランキングは564位。昨年末に27歳になった長身のカナダ人は、7年前に20歳にして世界38位にまで達し、“女子テニス界の未来”と目された若手の一人だった。 だが5年前、レベッカ・マリノは突如「引退」を表明する。その若さもさることながら、関係者たちを驚かせたのが、彼女がテニス界を去る理由だった。 SNSなどに書き込まれる罵詈雑言に耐えられない――。 ネットニュースなどを通じて報じられたこの一文は、当然ながら、前途洋々に見えた才能豊かな期待のホープが、テニスに背を向けた真の理由を描ききってはいない。 精神的に不安定で、うつ状態だったらしい……そのような風説が流れてきたのは、彼女がツアーから姿を消して、しばらく経った頃だった。 「確かに22歳で引退とい