未完の多文化主義 アメリカにおける人種、国家、多様性 著者:南川文里 出版社:東京大学出版会 ジャンル:社会・文化 「未完の多文化主義」 [著]南川文里 この十数年、「多様性」という言葉ほど希望と失望のあわいで翻弄(ほんろう)された語もほかにないだろう。 2008年の米大統領選で最高潮に達した希望が16年選挙で暗転した、というだけではない。米国史上初の「黒人」大統領誕生の意味を、反対勢力が「もはや多様性は実現され、人種差別の宿痾(しゅくあ)は乗り越えられた」と不当に読み替えたとき、「多様性」のはらむ危うさは既に明らかだった。 本書はその危うさを精緻(せいち)に検証し、過去半世紀にわたる論争や運動の社会過程をたどって、トランプ時代へとおよぶ問題の核心を見極めた注目の論考である。 キング牧師時代の公民権法制定からしばらく、米国は世界で「最先端の多文化主義国家」だった。しかし形式上の「平等」が実