目の前の男は身じろぎひとつしなかった。それは、礼儀にかなっている。 「お前が深町さんを守りたいがために話しをしないならそれでいい。俺は来須に頼んで言伝してもらうこともできるし、もちろん自身で頭をさげる覚悟もある。だが正直、俺は茉莉のことだけで精一杯だ」 茉莉はなにも疑っていない。だが、俺の記憶のなかには幾つかの綻びはある。 とはいえそれを親父に突きつけて離婚前から付き合いがあったと白状させるのは下策だ。それに俺は、女性なら自分の孕んだ子供の父親が誰かわかるだなんて言い種をそのまま素直に受け取るほど素朴にはできていない。男出入りのあったひとだと知っている。だからこそ、DNA鑑定だなんてことを持ち出すわけにはいかないのだ。 「俺はそれを義理の母親にしか尋ねられない。父を無罪放免にしてすましたいわけじゃないが、茉莉に知らせないようにするにはそれしかない」 「……あんたが、いや、あんたと義理の母親