水を飲んでも大丈夫?誰かにこう問われ、僕は一瞬迷い、大丈夫だよと答える。これぐらいなら大したことないよ。一瞬の躊躇を見抜いたのか、相手は怪訝そうな顔をする。 理由を一生懸命説明する。今伝えられているような放射線の量では滅多な事じゃガンにはならない。はっきり影響が出るような数字には全然足りない。不安そうな表情は消えない。彼らや彼女たちが聞きたいのは解説なんかじゃない。ただ安心したいだけだ。言葉は空しく虚空に消えていく。 本当に? うん、大丈夫だよ。 少しだけ良心の呵責を覚える。僕はたぶん嘘をついている。 日本では約1/3の人がガンで亡くなる。「あなたは福島原発の放射線が原因で、ガンにかかって死ぬかもしれない」この予言は後半は1/3の確率で当たり、前半は決して証明できない。たとえば10万人が1mSvの放射線を浴びるとガンで亡くなる人が5人増える。残りの約3万人は別の原因でガンになって亡くなる。
「コーヒーとミルクとが何対何の比率で混ざったカフェオレが、最も美味しいカフェオレか?」──この形式の問いに短絡的な答えを出してしまうもの、それが当然の常識であり、守るべき道徳であり、愚にもつかない神話である。 最も美味しいカフェオレ、それは何か宗教的でさえある。仮にカフェオレの美味しさがコーヒーとミルクの比率だけで表せるとしても、好みの違い、状況や時間的な差異などの要因によって、その「最良の」比率は当然変化する。単純にミルクが嫌いな人もいるし、逆の人もいる。十分前にコーヒーを三十杯も飲まされた人にカフェオレを勧めれば「ミルク多めにしてください」と涙目に懇願するかも知れない。コーヒーとミルクの理想的な比率は、決して初めから客観的に与えられたり、普遍的に妥当するものでないことは明らかだ。どんな基準(誰が、何に対して、どのくらい、など)で解釈するかによって判断や評価は変化するのであって、一つの基
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