2019年秋、画期的な本が出版された。『痴漢とはなにか――被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス)――これまで日本社会において痴漢がどう捉えられてきたのかを社会学の視点で研究した本だ。女性なら誰もが、満員電車や夜道での痴漢行為の被害を思い起こすだろう。著者の牧野雅子さんに、出版への思いを聞いた。 性暴力を矮小化してきた「痴漢」という言葉 ──牧野さんは19年11月、2冊目の単著となる『痴漢とはなにか』を出版されました。本の帯に、「これまでなかった痴漢研究の書」とありますね。 牧野 これまで痴漢というものは、議論の対象として取り上げられることがあまりありませんでした。特に、痴漢に対する社会意識がどうつくられ、どう変化してきたかという、社会学的な視点からの議論はほとんど行われてこなかったと思います。 それは「痴漢」という言葉が、紛れもない性暴力を非常に軽く、面白おかしく扱うようなものと