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岩山を掘って作られた家がほとんどを占める領都クラウフェンダムにあって、領主の館だけは通常の建築物だ。 ルドルフによると、元々最上段の岩壁の一部が大きくえぐれていたため、最初期の頃に調査用の小屋をそこに建てたのが始まりなのだそうだ。 その後、徐々に岩山を削って面積を広げながら今に至っていると言う。 ちなみに倉庫や騎士の宿舎など、岩山を削って作られたものも併設されている。 「一休みしていただきたいところですが、このまま領主である父の元へ一緒に来ていただいてよろしいでしょうか?」 「はい、もちろん問題ありません。よろしくお願いします。 あ、この服装で大丈夫ですかね??」 旅程の最終日である今日は、地球の服を着て欲しいと頼まれていたため、パーカーとジーンズと言う出で立ちだ。 どう考えても、領主に会って良い服装ではないのではないか? 「はい。上下ともエーテルシアでは見たことも無い服装です。 迷い人と
森の入り口にある街に宿泊、英気を養った一行は、5日目の朝ついにクラウフェルト子爵領へと足を踏み入れた。 と言う事は同時に、森へと足を踏み入れることと同義である。 森の中にあるとは思えないほど、道は綺麗に整備されていた。 広さも、もしかしたら湿原の道よりも広いかもしれない。 「魔法具を運ぶことが多い道なので、かなり気を使って整備されていますね。 皮肉な事に、街ではなく街までの道に、商人が投資をする始末ですが……」 苦い顔でアンネマリーが説明をしてくれた。 なるほど、工業地帯へ繋がるバイパス道路のようなものだろうか。 「でも、とても気持ちが良い道だと思いますよ。 私が住んでいたところは木なんてほとんど無かったですし。 空気が綺麗で、心が安らぎます」 嘘偽りない勇の感想だった。 これまでの道程も手付かずの自然の中ではあったが、どこか荒涼とし生命力を感じなかった。 だがこの森は違う。生きる力に満ち
聞きたい事も言いたい事も山ほどある中、全てを飲み込んで、一行はまずは先に進むことを選択した。 せっかく速度を優先して戦闘になったと言うのに、ここで余計な時間を使うのは本末転倒だ。 幸いクレーターは街道から外れた場所だったので、街道そのものにダメージは無い。 ただ、ゴブリンの死体をそのままにしておくと、他の魔物が寄ってくる可能性がある。 ついでとばかりにクレーターへ投げ込むと、皆で周りの土や石をかけて埋め戻し、出発した。 馬車の中では、先ほどの戦闘における反省会が行われていた。 主に勇に対する質問と言う形で。 内容が内容だけに、馬を他の兵士に任せてフェリクスも参加している。 「そうすると、マツモト殿は何の魔法を使おうとしているのか分かる、というのですね?」 「正確には、何の属性の魔法を使おうとしているのか、なんだと思います。 先ほども、炎の魔法であることは分かったんですが、それが火球なのか何
新作の連載始めました! 今日中に5話までアップ予定です(4/5) ※1メルテ:約1m 1メルトル:約1km ★分かりづらいので、距離単位は地球と1:1に修正しました その後も風の魔法を見せてもらい、初歩的な魔法の話を聞いていると、俄かに外が騒がしくなり馬車が停まった。 偵察として先行していた騎士の乗った馬が、慌てて戻って来たようだ。 息を切らせてリーダーのフェリクスに報告をしている。 「この先3メルトルほど行った先、街道から少し逸れたところに、ゴブリンの群れがいるのを発見しました! 街道からの距離は150メルテほど。群れの数は、視認出来た範囲で8です。いかがしましょう?」 「150か…ギリギリの距離だな。立ち去りそうか?」 「しばらく観測していましたが、動く気配ありませんでした。おそらく魔物の死体に群がり食事中と思われます」 「ちっ、厄介だな。片付けるにしろ、往復の時間を考えると街に辿り着
「………噂?」 もう日付も超えた深夜、騎士達は語り合う。 王居では豪奢なパーティーが開かれる中、彼らには何もない。老朽も進みつつある演習場で御馳走の代わりに目の前に広げられているのは大量の包帯や消毒液、薬だけだった。 誰の顔からも疲労が見え、更には未だ癒えない傷を包帯を巻くだけで誤魔化している騎士もいた。怪我治療の特殊能力者の数が足りず、応急処置すら医者や七番隊の手も間に合わないのが現状だった。 任務を終えた騎士達はまともな出迎えもないまま、数も少ない小隊で騎士団演習場に戻っていた。救護棟で重傷者は特殊能力者の治療を受け、軽傷者は一箇所に集まりながら互いに配給された包帯や薬でまかなっていく。 「ああ、あくまで噂だがな。…夜な夜な、王居の方から男の断末魔が聞こえることがあるらしい。噂では女王は人を嬲るのが趣味らしい。その為に定期的に国の妙齢の男が拐われ、献上されると。」 「俺も聞いたことがあ
勇者パーティーにとって俺はただの殺戮者だった 2018/12/07 18:40(改) 饒舌で強気だった女幹部は随分と変わってしまった……。 2018/12/07 23:02(改) 俺は彼女から話を聞いた。その凄惨な事情を。 2018/12/08 00:23(改) 目覚めた彼女はどこか奇麗で……思わずドキッとした 2018/12/08 12:23(改) 俺は血の雨の中でアンタを守ろう 2018/12/08 20:35(改) 俺達はこれからを生きる、その為にはまずは風呂! ……らしい 2018/12/09 12:00(改) 俺達は湯船の中で、それぞれの時間を過ごした。 2018/12/10 12:00(改) 私が見つけたアナタの真実。 2018/12/11 12:00(改) 僕等は早速つまづいてしまった……。 2018/12/12 12:00(改) 俺にとって、それは夢のような夜の時間だった。
「う〜ん、今日も同接2……どうしてなのかなぁ……?」 女子高生ダンジョン配信者の「有栖川まお」は、幼く可愛い見た目を活かしてのんびりダンジョン内を散歩してまわる「お散歩配信」をしていたが、あまりにも刺激がなさすぎる内容から、いつも同接2と全く数字が伸びなかった。 そんなまおの癒やしは、ダンジョン内に生息する大好きなモンスター「推しモン」を愛でること。 スライムや羊モンスター、瞳がつぶらな蜘蛛モンスターなどを見てまわっては、ナデナデしたりモフモフしたりしていた。 ある日、まおはいつも通りダンジョン配信を終えて推しモンを愛でていたのだが、見たこともない激カワ(まお基準)モフモフ狼モンスターに遭遇する。 「うええええっ!? 何、何!? はじめてみる超可愛いモンスたんっ!? ちょ、ちょっとまおに触らせてくれませんか……!?」 まおは周囲に目もくれず愛ではじめ、一緒にダンジョンの奥へと消えていく。
丁寧に礼を尽くし、再会の約束をしてレイモンドは城館を辞していった。隊商の一部はまだエンカー地方に残るそうだが、彼らはその足でロマーナに戻るのだという。 マリーが淹れてくれた温かいコーン茶でほっと一息つくと、先ほどまでレイモンドが座っていた席に腰を下ろしたオーギュストも同じように一服した後、ぽつりと告げた。 「正直、あの取引は意外でした。エンカー地方で赤豆煮を独占することも出来たのでは?」 オーギュストの声は何気ないものだけれど、ほんの少し、不満げに響く。 「豆というのは、そのまま種なわけでしょう? 今回購入した赤豆をエンカー地方で育てて、甘く煮た後瓶に詰めればいい輸出品目になったんじゃないかって、俺なんかは思うんですが」 「そうね、そうすることも出来たと思うわ。でも、当面はこれ以上の事業を抱える余裕がないのよね」 事業を回すには、そのための人員が必要になる。いくら住人が増えつつあるとはいえ
◆◆◆ 「それで?一時休戦と言う事で良いのかな。ドライゼン殿」 ジュウロウが軽薄そうな笑みをドライゼンへ向けて言った。ドライゼンは今その存在感を消失させては居ない。 それはつまり、少なくとも現時点ではドライゼンにジュウロウを、ひいてはエルを殺害する意思が無い事を指し示す。いや、正確には“今はない”だ。 ドライゼンはこのジュウロウという青年が並々ならぬ相手と分かっていたし、ましてやあの過激派の首魁に至っては自身の能力をもってしても斃す事が困難であると理解していた。 なぜならドライゼンの能力はそこに居ないと思わせるだけである。先に見た様な斥力の波動などを使われてしまっては為すすべなく吹き飛ばされるだけであった。 ドライゼンはヨハンの事も危険な存在だと思っていたが、それでもこの煮立った場を一旦冷却してくれた事自体は感謝していた。 ドライゼンはジュウロウの問いに答える事はなかったが、黙って短刀を引
「――なんなんだ、あのボマーは!?」 異世界へのゲートが開発され、各国は新資源を求めてそれぞれが特区を建設。それぞれが新界と名付けられた別の異世界を探索、開発している世界。 人間が直接異世界に行くと、未知のウイルスなどで影響が出る可能性があるため、各国は専用の遠隔操作ロボット『アクタノイド』を送り込んでいた。 臆病、コミュ障ゆえに就活に失敗していた兎吹千早は完全在宅業務の文字に惹かれてアクタノイドの操縦者アクターとなる。 その選択こそが、新界関係者を震え上がらせるボマー誕生の瞬間だった。 プロローグ 2022/09/01 08:00(改) 第一話 就活失敗者への蜘蛛の糸 2022/09/02 08:00 第二話 新界開発区 2022/09/03 08:00(改) 第三話 初めてのお仕事 2022/09/04 08:00(改) 第四話 危ない子 2022/09/05 08:00(改)
書籍版マギカテクニカ第1巻、5/23発売です! 現在、表紙及びキービジュアルを公開中です! 詳しくは活動報告、ツイッターをご確認ください! しばし街道を進み、幾度か襲ってきた悪魔を撃退したが、南の時のように人間を引き連れた悪魔と遭遇することは無かった。 そうして見えてきたのは、アイラムと同程度の規模を誇る巨大な都市。 あれこそが、この南西の領地の領都であるシェーダンだろう。 街の規模についてはアイラムとそれほど変わりはないが、ここから見た限りでは外壁が破損しているような様子もない。 だが、あの街にはアイラムとは明らかに異なる点があった。 「あれが貧民街、ですか?」 「そのようだな。また、見るからにごちゃごちゃとした様子だが」 外壁の外、そこに付け足すようにして建てられている、無数の木造の建物。 あれこそが、シェーダンの貧民街。あの街から排斥された者たちが住まう場所。 そんな人々が悪魔の支配
都市オレオル。 聖国ジャーダルク南部に位置する人口14万人ほどの都市である。 「お通りください」 フードで頭まで覆われた少女がイリガミット教の信徒の証であるアミュレットを見せると、門兵は特に疑うこともせずに通す。 少女はそびえ立つ城壁の門をくぐり抜け、眼前に拡がる町並みを眺めながらも、頭の中では景色などではなく別のことを考えていた。 (ここにチェーザ・タムハ・ボルジムアがいるのですね) 少女――――エヴァリーナ・フォッドはヒルフェ収容所の前所長であるチェーザ・タムハ・ボルジムアに話を聞くために、遠く離れた地まで単身で旅をしてきたのだ。 「ここも寒いのは変わらないのね」 そう呟きながら空を見上げ、次に大地へ目を向ける。雪こそ積もっていないが、ここも凍土と呼ばれるほど大地は冷たく、また硬い。このような場所では作物は十分に育たず、庶民の食料の多くが他国からの輸入に頼っているのが実情である。 14
八重樫君のお姉さんが突然やってきた。 それだけでも驚いたが、金を貸してほしいらしい。 まぁ、無茶すぎるよな。 弟の知り合いとはいえ、ほぼ見ず知らずのオッサンに大金を無心するなんて、常識では考えられないのだが、そのぐらい追い詰められているということなのだろう。 身内である弟が助けてやれ――という話もあるだろうが、八重樫君は家族を見捨てたようだ。 冷たい、たしかに冷たいとはいえ、俺もほぼ親とは縁切り状態だったので、彼のやったことをどうこういうつもりもない。 先生の気持ちも解るしな。 親だからとマウントを取って、人の人生を邪魔しまくるやつらに、与える慈悲はないということだろう。 彼も言っていたが――なにをいまさら、自業自得ってやつだ。 自分が死ぬときになって、傍に息子も娘もおらず、息子の嫁もいない、孫もいない――そんな人生を送ってしまったのは、自分の責任なのだ。 死ぬ間際に後悔するなら、生きてる
ハートの国のマリアの舞台は、王宮とその周辺がメインである。 エピソードの中には四つ星の魔物の討伐をしたり飢饉の救済をしたりするルートもあるけれど、降臨してしばらくは王都に滞在し、そこで攻略対象と出会いを果たすはずだ。 今は眠りについているユリウスを目覚めさせるために、聖女に会うべく、いずれ王都に向かう必要がある。 攻略対象であるアレクシスは、北部の手記にあったかつてのオルドランド公爵と同じ流れで王都に向かうはずだ。それに同行させてもらうのが、最も確実にマリアと接触する方法だろう。 けれど、マリアにエンカー地方まで来てもらうのは容易ではない。 原作のゲームでマリアがエンカー地方に赴くのは、アレクシスルートに入り、かつ飢饉の救済のためだった。 マリアがアレクシスルートに入ったとしても、現在飢饉の影が全く見当たらないエンカー地方にまで足を運ぶ理由がなくなってしまった。 破滅を逃れるためにマリアと
ログイン334日目 「ビビア、おはよう」 その日、ツインズと入れ違いに店へやって来たミコトを見て、私は目を瞠った。 「あ、これ? えへへ、そうなんだ。この前ビビアがプレゼントしてくれたお洋服、早速着てみたんだ。どうかな」 そう、私がミコトのためにデザインして作ったあの衣装を、ついに今日着てきてくれたんだ。 うひょー、最高! 滅茶苦茶似合ってる! 普段とはがらっと雰囲気を変えて、ダークでラグジュアリーなミコト少年。 でもそんな彼が、袖を握って少し照れ気味に自分の格好を披露してくれてるんだよ。このギャップや良し。 かと思えばミコトは、ふいに視線を下げてこんなことを言う。 「うん、ちゃんとビビアの気持ち、伝わってるよ。これからもそうやって、僕のこと見ててほしいな。僕だけのことを、ずーっと、……なんてね」 出た、病ミコト! 若しくは闇コト! ギャップがあるのも良いしギャップがないのも良いね~。 は
―――――― 高杉の葬儀を終えると上洛のため旅立つ。海のことが心配でたまらない私に対し、祖母から御役目を務めてきなさいと怒られてしまった。家を追い出されるも同然の格好である。 五月初旬に着いた私は京都の薩摩藩邸を訪ねた。そこでは西郷、大久保の顔見知りの他に家老の小松帯刀――そして国父・島津久光までもがいる。 「貴殿の話は二人からよくよく聞いておる」 挨拶をすると久光からそんな言葉をかけられる。二人というのは西郷と大久保のことだろうが、身の丈以上に語られているような気がしてならない。それを訂正する勇気は私にないのだが。 「此度は遅参いたしまして申し訳ございません。知人の最期と葬儀に参列するためでして、何卒ご理解を……」 「うむ。その件は聞いておる。火急の用件というわけでもないゆえ、問題ない」 高杉のことは事前に伝えていた。とはいえ、呼び出しに遅れたわけだから謝罪はしなければならない。 「情勢
某アニメの気を溜めるように全身にオーラを纏うイメージをして気合を入れた。 すると僕の体は蒸気のようなオーラに包まれ、体が軽くなった気がした。 そして、その勢いのまま僕は水撒きを開始した。 「おー!!!なんだこれー!!めちゃめちゃ体が軽い!というか動きが格段に速くなってる!プラシーボ効果最高―!!」 調子に乗った僕はそのまま水撒きを5分ほどしていると突然、転んでしまった。 「痛ったーい!あれ?足がガクガクして立てないよ。」 転んだあと、僕の足は痙攣し、立てなくなってしまった。 そして立てなくなってから数分後、父さんが遠くから駆けつけてくるのが見えた。 「クーフ!どうした?何があった?」 そして僕は諸々の事情を説明した。 「お、おまえ、魔法が使えるのか?い、いや使えるようになってしまったのか。」 「え、魔法?」 「恐らくだが、クーフが使ったのは身体強化魔法だ。通常は教えられないと魔法は使うこと
クロネリア・ローセンブラート男爵令嬢の最初の結婚は十三歳の時だった。 琥珀《こはく》色の豊かな巻き毛と、鳶色《とびいろ》の落ち着いた瞳色を持つクロネリアは、華やかな美人というわけではないが、幼少時から少し大人びて慎ましやかな印象を感じさせる魅力的な少女だった。 当時クロネリアには文を交わすだけだけれど、想い合う相手がいた。 二歳年上の男爵子息、ハンスだ。 同じ男爵家同士、家柄の釣り合いも良く、玉の輿《こし》というわけではないけれどまずまずの相手だと両家の公認でもあった。 『中庭にアネモネの白い花が咲き乱れています。ハンス様にも見せてあげたいわ』 『僕の家には真っ赤なアネモネが咲いています。結婚したら庭にたくさんのアネモネを植えよう。楽しみだね、愛しいクロネリア』 社交界を騒がすほどの華やかな結婚ではないけれど、ハンスと二人で慎ましやかに幸せに暮らしていこうと夢を膨《ふく》らませていた。 し
さすがにシャルだけで心配であったのだろうか、陛下は内政を担当している貴族がシャルの下、養護院の管理を行うことになった。 やはり前面にシャルを出すのはやはり正解だった。 帝国内でもシャルが皇女として養護院を管轄することになったのが広まり、上々の評判となっている。 精力的に養護院を巡回し、子供たちとも触れ合っているそうだ。 上から目線ではなく、同レベルで接することができるシャルにとって子供たちからの評判もよく、好意的に受け止められている。 精神年齢的に近いものがあったのかもしれないが、そこらへんは口出ししない。 補助金についても現地の養護院管理者から事情を聴き、補助金の見直しを行われている。 マッグラー子爵家が取り潰しになり、財産などは帝国が一度全て没収し、養護院に振り分けられることなったことで、臨時交付金として支給されることになった。 かなり裏で貯めこんでいたようでそれなりの金額と聞いたが、
なにごともなく暦が進み、相原さんと矢沢さんのスタジオ建設も順調である。 ――そんな師走に入ったある日、1人の女性が訪ねてきた。 玄関に立っただけで、まるで別の空間に巻き込まれたかのように錯覚してしまう――そんな女性。 そう、八重樫君のお姉さんだ。 彼女とは、なん回か話をしたが、どうやら俺は嫌われている感じがした。 弟を変な商売に巻き込む変なオジサンに見えたのだろう。 そうです! 私が変なオジサンです。 それはさておき、彼女にウチの住所は教えてないだろうし、なに用で訪問したのであろうか。 まったくの謎だが、せっかく来てくれたのに追い返すわけにもいかない。 それに、俺としても彼女と話をしたいしな。 相手に嫌われていようが、こんな美しい花を愛でたりするなんて滅多にできないのだから、見るだけでもみたい。 願わくは、写真を撮りたいのだが、許してもらえないだろうなぁ。 来るのを知っていれば、金庫にしま
「出発する。乗り込んでくれ」 しばらくして、数人の乗客が集まったようで、御者が俺とロレーヌにそう、声をかけた。 荷台に乗って、乗客の顔ぶれをさりげなく確認してみる。 俺とロレーヌを入れて、全部で六人だ。 多いのか少ないのか……。 若い娘と中年男の組み合わせと、老人夫婦がいるだけである。 冒険者はあの中年男がそうでないかぎりは俺とロレーヌだけ、ということだな。 向かう場所が場所であるから、御者が多少の戦闘能力を持っているし、街道のような人間の手によって開かれた場所には魔物は現れにくいが、それでも皆無ではない。 また、道中の危険は魔物だけでなく、盗賊もいるから、いざというときは俺たちが頑張るしかないだろう。 流石に老人や若い娘に戦えという訳にもいかないからな。 ロレーヌも若い娘と言えばそうなんだが、その前に凄腕の魔術師である。 戦わせて問題ない。 御者が、御者台に座り、鞭を持つ。 ぴしり、と大
誰かがした小さな咳が延々と木霊するような、伽藍とした空間に全員が唖然とした。 「参ったなこりゃ」 中空の壁際から映える階段はひたすらに、ただひたすらに天に向かって伸びており龕灯を向けても終端が見えはしない。 試しにミカが発光術式を起動し、より強力な光で照らしてみたものの、やはり終着点は不明のままだ。 「おかしいな。この灯光術式は集束すれば一〇町(約一km)は先が見えるんだけども……」 「やっぱり空間が歪んでるな」 首を傾げる友人の言葉に溜息を止められなかった。 この術式は目眩ましの戦闘用にも使えるよう、超大光量に調整されているようで、帝国の度量衡でいえば一km先まで照らせる強さということだ。 しかし、それで先が見えないのは異常だ。外観から巨大さは分かっていたが、流石に胴回りだけでスカイツリーより巨大であろうとも、朧気に天井さえ見えないほど第二層が長い訳もなし。 「しかも帰り道ねぇぞ」 ジー
池の畔で、空気を勢いよく切る音が響いた。 ゴルフウェアに身を包んだヒトラー、いや、角栄はドライバーの素振りを繰り返していた。ここが軽井沢なら、さすが角さん、見事なスイング・・・と一山のギャラリーがお世辞を飛ばしそうなものだが、そばに控えるナチ党高官と警護隊員は珍しいものを見たような顔を浮かべている。 それもそのはず。ドイツにおけるゴルフ人口は日本の5%未満。この時代、貴族趣味という位置づけで、どちらかといえばかつてのヒトラー氏が毛嫌いしそうなスポーツだった。 独英和平成立後、角栄がベルヒテスガーデンにゴルフ場を整備してくれ、とシュペーアに頼み込むと、若き建築家は一瞬首を傾げた後、「総統にも息抜きは必要でしょうからね」とにっこり笑った。 むろん、奇異の目を向けられかねないことは、角栄も分かっている。だが、英仏を打倒し、ドイツがナポレオン帝国並みの勢力圏を築いた今、総統官邸に持ち込まれる案件の
──ユウキ視点── 夜の墓参りは、無事に終わった。 屋敷からアイリスを連れ出すのは難しくなかった。 マーサとジゼルが手伝ってくれたからだ。 旅の間、アイリスの侍女はマーサが、護衛(ごえい)はグレイル商会から派遣されたジゼルが担当している。 マーサは「ちょっと気分が優(すぐ)れない (設定)」のアイリスの看病をすることになり、ジゼルは「気分が優れないから人と会いたくない (設定)」アイリスの部屋の前に立ち、面会謝絶(めんかいしゃぜつ)にしてくれた。 その状態で、俺たちは夜中になり、屋敷が寝静まるのを待った。 それから俺はアイリスを連れて空を飛び、ミーアの墓へ向かったんだ。 墓地についてからは、アイリスの好きなようにさせた。 俺は、ミーアの墓に案内しただけだ。 そうしてアイリスが落ち着くまで、彼女の背中をなで続けた。 アリスが死んだのは、俺が死んでから1年後。 そのときにはもう、ミーアは生まれ
ブギータスと、ブギータスの肉体に受肉した『解放の悪神』ラヴォヴィファードが倒された事で、まだ十分な数が残存していたブザゼオス軍とゲラゾーグは、脆くも敗退した。 ブギータスの【疑似導き:獣道】スキルの効果が消え、ブザゼオス以下のノーブルオークやオーク達が受けていた能力値への補正が消えた。特にゲラゾーグは神そのものが倒された事で【加護】や【御使い降臨】のスキルが使用不可能に成り、ランクやスキルレベルはそのままだが著しく弱体化した。 勿論【疑似導き:獣道】の副作用である本能と欲望の肥大化と、それに伴った思考力や理性の減退も解消されたのだが、彼等にとっては解消されなかった方が幸せだっただろう。 「ブヒィィィィ!?」 『ラヴォヴィファードよっ! 何故我らを見捨てもうたか!?』 「もうダメだぁ、終わりだ、俺達は終わりだぁぁぁ!」 各国の連合軍を前に劣勢で在りながら持ち堪えていたのは、【疑似導き:獣道】
貴族家の子は十五になると素養を授かり、それによって将来が決まる。 武を貴ぶコンラート家の嫡子であるウッディ・コンラートが授かったのは、『植樹』という非戦闘系の素養だった。 「『植樹』の素養が使えるんなら、砂漠で一生育たない樹を植えてろよ!」 父から『大魔導』を受け継ぎ、自分の代わりに嫡子となったアシッドの思いつきで、ウッディは砂漠に追放されてしまうことに。 けれど彼が持つ『植樹』の素養で植えられる樹は……伝説の世界樹だった!? 自分を見捨てずについてきてくれたメイドや、実家と絶縁してまで追いかけてきてくれた婚約者、世界樹の実を食べたくてやってきた神獣も増え、日々はどんどん賑やかに。 困っている人を助けたり、世界樹で村を聖域にしたりしているうちに、気付けばウッディは砂漠で絶大な影響力を持つように!? ウッディは砂漠を緑化しながら、悠々自適なスローライフを満喫していく! 【カドカワブックス様よ
あやかしはびこる帝都にて、ひとりの没落華族令嬢がいた。 異国出身の母を持つ金髪碧眼の美しい娘まりあは、屋敷にあやかしを匿う公爵、山上装二郎に目を付けられてしまう。 逃げ足の速いまりあを装二郎は気に入り、花嫁に迎えた。 ある契約と引き換えに結婚したものの、山上家は普通の家ではなかった。 広い屋敷にタヌキやキツネのあやかしがいて、人の姿はないのに、部屋はピカピカ。 親戚どころか、親兄弟一人訪ねてこなくて。 あやかし屋敷は不思議なことばかり。 夫となった装二郎は昼間から眠そう。 こうなったら、まりあ自身がしっかりするしかない。 虐げられていた、タヌキやキツネ、ついでに昼行灯な夫は私が守ります! 契約花嫁の、愛と正義の奮闘物語。 書籍化決定しました!
……大して変わらない、ですか? 以前ならば……。そう、女神が降臨する前ならば同意したと思います。ケントリプスもラザンタルクも幼い頃から親しくしているけれど、結婚相手としては考えたことがありませんでした。そもそも結婚自体を自分のこととして考えられませんでしたし、ヴィルフリート様のことばかりが頭にありましたから。 ……でも、今は少し違っていて……。 ケントリプスの言葉に違和感を覚え、何とか言葉にしようと考えていたわたくしの耳にラザンタルクの声が飛び込んできました。 「何を言っているのだ? 其方と私が変わらないわけがないだろう。何もせずに身を引こうとする其方と同じにするな!」 ハッと我に返ると、ラザンタルクがケントリプスの肩をやや乱暴につかんで立ち上がらせたのが見えました。 「ハンネローレ様が他領へ行くことを望めば助力するなどと、寝ぼけたことを言っていた其方より私の方がよほどハンネローレ様に相応
エスコートが変わりました、サラナ・キンジェです、ご機嫌よう。 あの後。 私の元に戻られた王弟殿下は、お祖父様にエスコートされている私を見て、硬直した。 「ワシは妻に先立たれ、エスコートする相手もおらんからのぉ。サラナも、こんな爺さんより王弟殿下の方が嬉しいだろうが、お忙しい王弟殿下の手を、いつまでも煩わせるのも申し訳ない。可愛い孫のエスコートを、譲って下され」 飄々とそう言って私を連れて歩くお祖父様。 「いや、私はっ、忙しくなどとっ」 「先程サラナは可愛らしいお嬢さん方に囲まれておってなぁ。王弟殿下のエスコートなど分不相応だと叱られてしまったのだ。確かに、我が孫娘は男爵家の娘。尊き王弟殿下のエスコートを受けられる身分では無いわ。身内の集まりの様な小規模なパーティーだからと気軽な気持ちであったが、認識が甘かった。ご容赦くだされ」 ジロリと王弟殿下を一瞥して背を向けるお祖父様。その顔は厄介事に
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