山田詠美の直木賞受賞は1980年代終わりで、1977年生まれの私の世代にとってはひとまわり年長のお姉さんといった役どころの作家である。私は思春期のころ、この作家を色っぽい年嵩の従姉のように思っていた。当時彼女は外国人との恋愛小説をよく書いていて、だから私たちは彼女をエイミーと呼んでいた。たまに実家に帰ってきて旧弊な親族にやいやい言われてへらへら笑っておじいちゃんの秘蔵のお酒を飲んでいる、いつも派手な格好でおそろしく聡明で実はかなり子どもが好きな、人気者のエイミー。 彼女が大阪の児童虐待事件をモデルにした小説を新聞で連載していると聞いて、私は驚いた。彼女はとうの昔から国語の教科書に載っている文豪であって、キャリアのためにリスクを取る必要はおそらくなくって、そうして恋愛ものと同じくらい家族ものの小説を得意としてきて、彼女が描く家族は(突発的な事故やアルコール依存症の問題が差し挟まれるにせよ)愛