<甘やかされた大衆とそれに媚びる政府のなれあいが垣間見える...。「優しい大衆」が生み出す危険について。『アステイオン』99号より「「大衆の反逆」、「無害な大衆」」を転載> オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』は、筆者が強い影響を受けた本の一つである。 甚大な損害を被り人々が立ち上がれないほど打ちのめされた第一次世界大戦後のヨーロッパでは、『チップス先生さようなら』や『昨日の世界』(ツヴァイクの自伝)などが描写したように、社会が根底から変わってしまった。その結果生じた重大な危機が、本書の主題である。 この大きな社会的変化を、オルテガは一連の象徴的な光景の描写で示す。 「都市は人で」、「家々は借家人で」、「ホテルは泊まり客で、汽車は乗客で」満ちている。「有名な医者の待合室」や夏の「海浜」も同じだ。 いつの時代にも人は大勢いたが、以前はこうした場所に足を踏み入れず、分散してひっそり生きていた