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掃除・片付け
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“とうとうここまで来たか”という感慨がありますか? と問うと、まっすぐ目を見ながら是枝監督は即座に否定した。 「それはまったくない。階段を上ってきた、みたいな感覚はまるでありませんから。でも、先日アカデミー賞前哨戦の長い戦いが終わってノミニーが集まるランチ会に参加したらレディー・ガガがいた。『バイス』のクリスチャン・ベイルに会えたり、洗面所に行ってふと隣を見たらウィレム・デフォーだったりで、今はもう、ただただミーハーに楽しんでる(笑)。英語がしゃべれればデフォーに『フロリダ・プロジェクト、観ましたよ』ぐらい言いたかったのに、英語となるとどうしても躊躇してしまって……。授賞式の会場で英語をしゃべっていないのは、僕と『ROMA/ローマ』の主演のヤリッツァ・アパリシオさんの二人だけでしたよ」 日本を代表する映画監督として多忙な日々の中、まだ春の気配の遠い都内某所にて 昨年のカンヌ国際映画祭で『万
坂本龍一という名前の隣に、音楽家、という3文字の肩書がついているのを見るにつけ、何かうまく表現できない、ちょっとした違和感を感じてきた。確かに音楽を作る人である。けれど坂本(以下敬称略)がスタジオで録音したり、ライブ演奏をしている以外の時間の活動が、肩書に入らないことにはなんとなく釈然としなかったからだ。けれど仕方がない。肩書とは、きっと最大公約数の人々がもつその人物への認識を表現するものなのだろうから。 2014年7月にがんを患ったことを発表し、1年間の闘病生活を経て仕事に復帰した坂本に、最後に話を聞いたのは、自分の音楽レーベル〈commmons〉の10周年を記念して開催したイベント〈健康音楽〉の前後だった。病気をしたことで、「自分に残された時間」について考えるようになったという坂本は、「40年の活動期間で作れていない『人生の宿題』になっているような、音楽がある。これぞ坂本だというような
漫画家としては、あの手塚治虫以来二人目となる、国立の美術館での個展を実現した荒木飛呂彦。その代名詞とも言える『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを30年以上描き続ける、荒木の創作哲学とは Read in English 荒木飛呂彦は、間違いなく、日本の漫画史に長く名を残す作家だ。代表作は、1987年に『週刊少年ジャンプ』で連載をスタートした『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。現在もなお続くストーリーのすべての始まりは、主人公のジョースター家の跡取り息子ジョナサンと、この家に養子としてやってきたディオの戦いだ。少年漫画の王道たる“バトルもの”に、“同じ家に住む身近な他人が、吸血鬼になり、自分の命を脅かす存在になる”というホラー&サスペンス要素を掛け合わせたこの物語は、第2部以降、主人公と舞台を子孫の世代へとシフトし、ドラマとしてスケールを拡張していく。コミックスは今までに122巻が刊行され、その累
BY TOMONARI COTANI, PHOTOGRAPH BY KENSHU SHINTSUBO, EDITED BY JUN ISHIDA 重要なのは多様性より多重性 ーー 千葉雅也 昨今のSNS界隈では、格差問題に紐づくさまざまな意識が前面化しているかのごとく、あらゆるイシューにかこつけて「足の引っ張り合い」が繰り広げられている。とりわけその傾向が強いメディアがツイッターだ。『ツイッター哲学 別のしかたで』という著書をもち、ツイッターの存在なくして今の自分のキャリアはなかった」とも語る哲学者・小説家の千葉雅也の目には、今日のツイッターの状況はどのように映っているのだろうか。 「とても単純な二元的な立場の対立、つまりどちらにつくかという選択を迫る空気が強いですよね。第三の道とか、二項対立ではない複雑さを言おうとすると、『ちゃんと状況にコミットしていなくて冷笑系』とか言われるわけです。
PHOTOGRAPHS BY YASUTOMO EBISU, STYLED BY NAOKO SHIINA, EDITED BY JUN ISHIDA ディオール初の女性アーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリによるバージャケット。 「黒はよほどいいものを着ないと地味になってしまうのですが、さすがディオール、ラインも美しい」と中室さん。 ジャケット ¥430,000、Tシャツ ¥97,000、パンツ ¥170,000、イヤリング ¥48,000 クリスチャン ディオール (ディオール) フリーダイヤル: 0120-02-1947 HAIR BY KOTARO AT SENSE OF HUMOUR, MAKEUP BY FUSAKO AT OTA OFFICE 教育に経済学の手法を持ち込み、世の中で“定石”とされる教育方法に対して、データ
生活費を稼ぐための仕事は創造的探究とは対極にある――と思われがちだが、さにあらず。芸術家たちはいつの時代も「仕事」をもっていた。はたして創作以外の仕事は創作にいい影響を与えるのだろうか? PHOTOGRAPH BY MARI MAEDA AND YUJI OBOSHI かつて、アーティストが二足のわらじを履いていた時代があった。といっても「ベルディの新作オペラを買うよう議会図書館に提案する」といったいかにもそれらしい仕事ではなく、芸術とはおよそかけ離れた職業をかけもちしていたのだ。選挙演説のネタにされるような、ごく「普通の職業」との両立である。 たとえばT・S・エリオットは、日中は勤務先のロイズ銀行で外国籍の口座を管理するかたわら、夜の時間を使って『荒地』(1922年刊行)を書きあげた。詩人のウォレス・スティーブンズは保険会社に勤務して、不動産の権利に関する法務を任されていた。彼は約3キロ
BY MICHINO OGURA, PHOTOGRAPHS BY TAKEMI YABUKI(W), HAIR & MAKEUP BY JUNKO KANEDA 香取のアトリエには所狭しと自分の作品が並べられている。伸びやかな筆致と目に鮮やかな色彩感覚に驚かされる。写真中央のイーゼルに飾ってあるのが、彼の永遠のモチーフである“黒うさぎ”。10年前に描かれたこの作品が大切に飾られていた アトリエの床にはキャンバス、ダンボール、ウッドパネルなどがびっしりと立てかけられ、壁一面には香取慎吾が描いた作品が飾られている。鮮やかな色彩のペインティングで埋め尽くされた空間はその部屋自体がコラージュ作品のようでもあり、圧倒される。「絵を描くときの作業机や場所などは決めていません。下描きもしない。そこにキャンバスがあるから、描き始めるんです」と香取は話しながら、小さな作業机に真っ白なキャンバスを立てかけ、普
同じ考えをもったビジネスパートナー、マルタン・マルジェラとジェニー・メイレンス。メイレンスの誕生日のサプライズパーティで抱き合うふたり(1995年) PHOTOGRAPH BY ANDERS EDSTROM ブランド=ステータスシンボルという概念が覆された瞬間があったとすれば、それは「メゾン マルタン マルジェラ」という何も書かれていない白いタグがついたブランドが誕生したときだろう。タグのアイデアは1988年のある晩、イタリアのマントヴァにある小さなバーで生まれた。当時は自分のステータスをアピールする「パワードレス」がもてはやされていた。その服にどんな価値があるのか、そもそも「ブランドもの」なのか、わかる人にしかわからなかった。赤いマニキュアを塗った指でテーブルをタップするのはいったいなんの合図を送っているのか、誰もがわかるわけ
Discovering Local Treasures in Japan--Sado Island, Niigata
日本美術ライターの橋本麻里が長年憧れの地であった南米へ。南北4,000kmにわたってナスカ、モチェなど多種多様な文化が盛衰を繰り返した古代アンデス文明。その謎に包まれた遺跡を旅した 橋本麻里 日本美術をおもな領域とするライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。新聞、雑誌等への寄稿のほか、NHKの美術番組を中心に、日本美術の楽しく、わかりやすい解説に定評がある。著書に『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『京都で日本美術をみる [京都国立博物館] 』(集英社クリエイティブ)ほか 時折だが、日本美術を生業にしている者には畑違いの、しかしひどく魅力的なお誘いが舞い込むことがある。久しぶりのそれは、夏の初めに、ペルーからボリビアにかけて点在する古代遺跡を取材がてら観に行かないか、というものだった。この秋、東京の国立科学博物館で開催される『古代アンデス文明展』に先立つプレスツアーの一環
斎藤幸平の著書『人新世の「資本論」』は、彼の想像をはるかに超えて、50万部以上を売りあげた 斎藤幸平が「脱成長コミュニズム」について書いてみようと決めたとき、担当編集者が懐疑的だったのも無理はない。日本ではコミュニズムは不人気だ。誰もが、経済成長を絶対的に良きものだと信じている。 だから、人口減少と経済停滞という日本の現状を危機としてではなく、マルクス主義的な再創造の機会として見るべきだと主張する本に、売り上げを期待するのは無謀だと思われていた。 しかし、売れた。2020年に刊行された斎藤の著書『人新世の「資本論」』は、彼の想像をはるかに超えて、50万部以上を売りあげた。斎藤は東京大学で哲学を教える准教授だが、日本のメディアに頻繁に登場して、自分の考えを訴える。『人新世の「資本論」』はすでに数ヶ国語に翻訳され、来年1月には英語版が出版される予定だ。 日本では、増加する老人の介護問題であれ、
「意外かもしれませんが、日本のマンガはイギリスと無縁ではありません」。大英博物館で開幕した『The Citi exhibition Manga』展のキュレーター、ニコル・クーリッジ・ルマニエールはそう話す。この展覧会は、日本初の職業マンガ家である北澤楽天、岡本一平から、手塚治虫、鳥山明、萩尾望都、尾田栄一郎といった現代の作家までを取り上げ、日本マンガの成り立ちと独自の表現方法、つまり“マンガの読み方”を伝えるもの。単行本や原画に加え、コスプレやコミックマーケットなどの資料、マンガに着想を得た現代アート、井上雄彦の描き下ろし絵画やスタジオジブリを取材したドキュメント映像と見どころも豊富だ。 ニコル・クーリッジ・ルマニエール 大英博物館アジア部IFACハンダ日本美術キュレーター。セインズベリー日本藝術研究所研究担当所長も務める。写真は去る3月31日に閉店した東京・神保町のコミック高岡にて。彼女
BY NIKIL SAVAL, PHOTOGRAPHS BY ANTHONY COTSIFAS, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO ほかの写真をみる ル・コルビュジエが設計した、東アジアで唯一の建築作品。いたって控えめな外観の〈国立西洋美術館〉(1959年竣工・東京) その建物は決して壮大な建築として声高に存在を主張しているわけではない。東京の最北端、江戸の面影を残す上野に、比較的小さなコンクリートの箱が細い柱に支えられて建っている。公園の中でひときわ目立つ灰色の大きな広場は、入場者を厳粛な気持ちにさせる。建物に近づくにつれ、正面に広がるフラットな空間から一転、小石をぎっしりと埋め込んだコンクリートパネルの外壁へと視線が導かれる。中心からはずれた位置に突き出るように設置された階段には、“芸術の殿堂”へと昇っていくという象徴的な意味が込められている。この建物
中秋の名月の翌9月14日、満月の夜に群馬県渋川市にある「ハラ ミュージアム アーク」に建築関係者ら約200名が集った。今年88歳を迎えた建築家、磯崎 新の米寿を祝うためだ。ハラ ミュージアム アークは東京にある原美術館の別館で、設計は磯崎が手がけた。広大な敷地にはオラファー・エリアソンやアンディ・ウォーホルの作品が点在し、美術館の一角をなす「觀海庵」では『縁起』と題した磯崎の展覧会も前日から始まった。 大型バス3台に分かれて会の参加者が到着する。その中には建築家の妹島和世や青木 淳、石上純也らの顔も見える。日が暮れる前にホンマタカシによる集合写真の撮影が行われ、会が始まる。お祝いのスピーチの先陣を切るのは、磯崎 新アトリエの元所員、渡辺真理(まこと)だ。「磯崎さんの周囲には、常に新しく謎だらけの興味深いプロジェクトが渦巻いていて、見とれているといつの間にか自分も巻き込まれ、大変な困難に直面
本はかつて本だった。本といえば、それは紙の束を片側でバインドした、そのハードウェアの形式であり、同時にその形式のなかに格納された情報体を指していた。中身とそれを格納する器は不可分のものだった。ところが、デジタルデバイスの登場によって、不可分だったはずのものを分離することが可能となった。中身は「コンテンツ」という名のものに置き替わり、紙の束は「フィジカルの本」と呼ばれる、選択可能な「オプション」となった。今「本」と言ったとき、それがいったい何を指しているのかは、実に曖昧だ。コンテンツとしての本の話なのか、ハードウェアとしての本の話なのか。そもそも「本」とはいったい何を指していたのか。そうした混乱のなか、いまだに延々と繰り返されてきたのが「紙の本のよさ」をどう擁護しうるのか、という議論だ。 「手ざわりが大事」「デザイン性が大事」「デバイスに依存しないので保存性がより高い」「透過光より反射光で読
キアヌ・リーブスといえば、これまでの当たり役のイメージが記憶に焼きついているだろう。『ハートブルー』(1991年)では、ストイックなFBI覆面捜査官。『マトリックス』(1999年〜)シリーズでは、お告げに導かれて暗黒の未来社会と戦うストイックな救世主。『地球が静止する日』(2008年)では、未知の惑星からやってきたストイックな使者を演じた。そんな彼が「アート系出版社のストイックな創業者」であると聞いても、あまりピンとこないだろうが、これもまた最近、彼の代名詞になっている。昨年の夏以来、キアヌがビジュアルアーティストのアレクサンドラ・グラントとともにロサンゼルスで立ち上げた小さな出版社「X Artists’ Books」は、精力的に作品を世に送り続けている。どのタイトルも、決して大手出版社が手を出さない、マニアックなものだ。 キアヌ
摂氏45度近い気温の中での試合。フェデラーは時折「カモン!」と雄叫びを上げる以外、言葉を発さず、感情を顔に出さない。「いかに効率よく勝つかを常に考えている」と語る彼の試合運びはアングルの深いショットの連続で、圧倒的に速い CLIVE BRUNSKILL / GETTYIMAGES SPORT カリフォルニア州、砂漠地帯のインディアンウェルズ。灼熱の太陽の下、ロジャー・フェデラーがコートに姿を現した。「ロジャー、俺と結婚して!」。野太い声の男性ファンが叫ぶと約2万人の観客がどっと笑った。対戦相手と最初の一球を打ち合う前から、フェデラーは会場をすでに自分の「庭」に変えていた。 四大大会に次ぐ規模のテニストーナメントである、マスターズ1000のインディアンウェルズ大会。毎年3月に開催されるこの大会のオーナーは、世界でも10本の指に入る億万長者で、IT企業オラクルの創設者のラリー・エリソンだ。彼は
気鋭の芸術家がある場所に招かれて制作に専念する制度を、アーティスト・イン・レジデンスという。その代表格といえば、ニューハンプシャー州の森の中にあるマクダウェル・コロニーや、メイン州のスカウヒーガン・スクールだろう。ローマのアメリカン・アカデミーに滞在する「ローマ賞奨学金制度」や、チナティ財団が運営するプログラムもある。チナティ財団は、評論家としても活躍した美術家のドナルド・ジャッドがテキサス州マーファに創設したものだ。アーティスト・イン・レジデンスになると、たいていは日常の喧騒や営みから解放されて制作に没頭することができる。滞在先が風光明媚な場所であることも多い。 ところがかつて、アーティスト・イン・レジデンスの意味合いが今とはまったく違う時代があった。まず、プログラムに参加してもふだんの生活から切り離されることはない。参加者に期待される役割は、ほかの芸術家たちにインスピレーションを与えた
宿泊券、ファッション、ビューティ、グルメなど選りすぐりの豪華プレゼントやイベントへのご招待など、T JAPANの最新情報をお届けします。 ART 荒木経惟、終わらない旅 To Live Photography 2017年は荒木経惟の年だ。一年を通して多くの写真展が開催される。1963年のデビュー以来、半世紀を超えた荒木の写真の旅はどこに向かうのか 桜が満開になった4月初旬、インタビューが行われることになった原宿のギャラリーに、荒木経惟は約束の30分前に現れた。自宅からタクシーでふらりと一人。「片眼になってからは眼が疲れるから、タクシーに乗ってるときは休憩って決めたんだけど、ダメだね。今、ここに来るまでもクルマド(荒木は自動車の窓から撮影することを〝クルマド〞と呼んでいる)。写真展が一つできるぐらい撮っちゃった」と笑う。 ここ数年、体調のすぐれな
遡ること2018年11月、東京で開かれたディオールの2019年 メンズ プレフォール コレクションのショー。そのランウェイの中心に置かれていたのが全長11メートルを超える「セクシーロボット」の彫刻だった。制作したのは、アーティストの空山基。モデルたちがまとったウエアにも、空山が描いた「セクシーロボット」や「ロボット恐竜」、また空山がアレンジしたシーズン限定のディオールのロゴがモチーフとして使われた。 「その少し前、2018年の夏に開いた私の個展に(ディオールのメンズ・アーティスティック・ディレクターの)キム・ジョーンズがやって来てね。それがコラボレーションのきっかけ」と、空山は当時を振り返る。「キムは海外で出版されている私の作品集を持っていて、昔からのファンだったみたい。翌日に一緒に食事をしたら、その場で『コラボレーションしませんか?』って。その時が初対面。その後もいままでにないくらいスピ
BY LIGAYA MISHAN, ARTWORK BY CARMEN WINANT, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA 言葉には、亡霊のようなものがつきまとう。どんなに語源からかけ離れた意味をもつようになっても、古い意味を宿し続ける。それはまるで、完全削除を逃れた暗号の破片や、地上に出る瞬間を待ちながら土の中で潜伏し続けるセミの幼虫みたいだ。 過去数年のあいだに、“カレン”は風紀委員を自ら買って出て世間を闊歩するタイプの、干渉好きで高圧的な態度をとる白人女性を意味するようになった。彼女たちは自分の社会的地位は安泰であると思っているため、権限をもつ人物や機関を呼び出すこともいとわない。責任者との直談判を要求したり、警察に通報したりする。だが、あまりにも些細なことを問題視するし、まったくの作り話をしては、それを犯罪だと言い張ることも少なくない。 では、なぜ“カレン”とい
ドロシア・ラングは、彼女の人生の後半を、英国人哲学者フランシス・ベーコンの格言を視界の端にちらちらと意識しながら送ってきた。その格言とはこうだ。「間違いや錯覚、置き換えや偽装なしに物事をありのままに捉え、その意味を深く考えること、そのこと自体が、発明で得られる成果以上に高尚なことなのだ」。彼女は1933年にこの言葉が印刷された紙を暗室の扉にピンで留めた。その紙は1965年に彼女が70歳で死去するまでそこに貼られたままだった。彼女が亡くなったのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で彼女の最初の回顧展が開催される3カ月前。さらにその死は、写真という媒体の歴史上、最も象徴的な一枚を彼女が撮影した日から数えて、30年後だった。 ラングが1936年に撮影した写真《Migrant Mother(出稼ぎ労働者の母)》は、フローレンス・オーウェンズ・トンプソンという人物のポートレートだ。この被写体の素性
建築の骨格となる「構造デザイン」に焦点をあてた展覧会『感覚する構造 - 力の流れをデザインする建築構造の世界 -』の見どころを紹介。構造デザインの魅力や建物の奥深さを余すところなく知ることができる貴重な機会だ 建築家の伊東豊雄と構造家の佐々木睦朗との協働による「瞑想の森 市営斎場」の構造模型 建築関連の展覧会と言えば、デザインや思想、機能性、サステナビリティなどに焦点を当てたものが多い中、建築の骨格となる構造デザインに着目した稀有な展覧会『感覚する構造 - 力の流れをデザインする建築構造の世界 -』が、天王洲のワットミュージアムで開催中だ。 特に地震の多い日本では、7世紀末に建てられた法隆寺五重塔の耐震設計が今でも話題になるほど、古くから構造デザインが重要視されてきた。特に今年は1923年の関東大震災から100年という節目の年でもあり、この展覧会が構造デザインについて学ぶよい機会になるはず
韓国、坡州(パジュ)にある混み合った麺料理店で、パク・チャヌクは2台のカメラとデジタル音楽プレーヤーをカバンから取り出してテーブルにのせた。「これは私の腕の延長なんだ」と彼は言う。 この秋、54歳になるパクは、おそらく韓国で最も有名な映画監督だ。2002年から2005年にかけて製作した復讐三部作――『復讐者に憐れみを』(’02年)、『オールド・ボーイ』(’03年)、『親切なクムジャさん』(’05年)によって、国内外でその名を知られている。この3作品は、韓国映画が世界の舞台へと進出するのにひと役買い、同時に、人々の心に潜む暴力性をつぶさに暴き出す、怖いもの知らずの監督としてパクの名を知れ渡らせた。クエンティン・タランティーノは彼をお気に入りの監督として挙げ、スパイク・リーはパクの名を国際的に知らしめたヒット作『オールド・ボーイ』に心酔するあまり、2013年にそのリメイク作品を製作している。
別荘ではこの大テーブルで執筆。背後の油絵は母方の叔父、森通の作品で、サハラ砂漠の夜明けを描いたもの。 執筆中はオランダのシガリロZinoを、くつろぎのときはキューバ産葉巻をたしなむ その別荘には、かつて海から来るしか方法がなかった。今は建物が面した入り江にマリーナがあり、背後の崖から下る道もあるが、なるほどあるじがエッセイに書くとおり、まさに「海の基地」といった風情だ。 別荘の主、北方謙三は、この基地と自宅、定宿のホテルと3カ所で執筆する。それぞれの場所で過ごすのはおおむね月に10日ほどだという。ただ基地に来れば、クルーザーで海に出る、目の前の海で釣ったタコも料理する。孫が友達に「じいちゃんは貧乏だから自分で魚を釣るんだ」と言った、と目を細めるところを見ると、基地は家族が集まる場でもあるのだろう。 廊下に並ぶ、釣り竿とリール、ルアーのコレクション。ほとんどがカジキマグロなど大型魚用。北方の
2019年6月、日本美術に関するあるニュースが報じられた。出光美術館が約190点のプライスコレクションを購入した――この知らせは美術関係者のみならず、広く一般の人々にも関心をもって受け止められた。 プライスコレクションとは、アメリカのエツコ&ジョー・プライス夫妻が所有する江戸絵画を中心とした美術コレクションだ。プライス夫妻は世界一の伊藤若冲のコレクターとして知られ、日本における若冲ブームを巻き起こした人物でもある。2006年に東京国立博物館で開催された『プライスコレクション「若冲と江戸絵画」』は、その年の一日における観客動員数世界一を記録した。また、東日本大震災の後には、被災地の助けになればという思いから、宮城、岩手、福島の美術館で巡回展『若冲が来てくれましたープライスコレクション江戸時代の美と生命ー』(2013年)を催した。今回、出光美術館が購入した作品の中には、この展覧会でも中心的な役
BY RACHEL CORBETT, PHOTOGRAPHES BY DEAN KAUFMAN, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS) ジュディス・バーンスタイン。ニューヨークにある自身のスタジオにて 2017年夏、ジュディス・バーンスタインは、ロサンゼルスのボイルハイツにあるヴィーナス・ギャラリーの180フィートにも及ぶ外壁に、毛深い男性器のように見えるネジの絵を描いた。2017年10月には、ニューヨークのクイーンズにあるMoMA PS1で、下着姿の男女が生魚をたがいの身体に擦りつける、キャロリー・シュニーマンのビデオ作品が上映された。そしてロンドンのフリーズ・アートフェアでは、レナーテ・ベールトマンの、ピンク色をした双頭の男性器を花のように咲かせたサボテンの彫刻が展示されていた。 性的な表現を含んだ、いわゆる“X指定”のアートは、もちろん今に始
映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』のキービジュアル © “OKUJIRA-SAMA” PROJECT TEAM 現代アートのコレクションに没頭するNYの老夫婦の人生を描いたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』シリーズで知られる映画監督・佐々木芽生。彼女の最新作『おクジラさま ふたつの正義の物語』が9月9日(土)に公開になる。前作の、個人的でハートフルな内容と打って変わって、テーマは国際的、政治的問題でもある「捕鯨」だ。 これまでにも捕鯨問題を扱ったドキュメンタリー映画はあった。あえて例を挙げれば、日本のクジラ漁を糾弾したアカデミー賞受賞作『ザ・コーヴ』。佐々木監督はこの映画を「ドキュメンタリーにもストーリーテリングは重要。その意味で良くできた映画」と話すが、NYの映画館で初めて観たとき、心の奥が深くえぐられるような感覚を覚えたという。自身も非難の対象になった日本人だからではない。
「撮影に使ったカンペをもらってスケッチしたり、セットの小道具のPCで描いたり。場所も画材も選ばない。描きたいときが描きどき。いつでも描けるのが僕なりのスタイル」という香取。<後編>では、アーティストとしての“作品との向き合い方”を語る。 『TANK 100』のために制作した作品、アートとの向き合い方について語る ©T JAPAN 香取は絵を描く感覚をまるで“ゲームのよう”と表現する。まずは白いキャンバスを用意し、トランクの中に大量にストックしてある絵の具の中から、色を確認せずにひとつをつかみ出す。そして、自然と思いついた線やモチーフを描き進めて、「なんで、この色がここでくる?」「いやいや、この色のとなりに、この色はないでしょ」「色がこうくるなら、ここは塗らないでおこう」と自問自答しながらルールづくりをするのだと打ち明けてくれた。このルールは無限大の組み合わせがあり、毎回違った着地点になる。
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