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楽しみと不安が半々だったが、特に性的興奮を覚えたわけではなかった、とイダ・サベリス(Ida Sabelis)は当時を振り返る。その土曜日の朝、彼女は恋人と3時間かけて、アムステルダムからオランダ北部の湿地帯のフローニンゲンに向かった。その街の病院のMRI検査室で3人の科学者と話をしていたとき、彼女のなかにこんな想いが沸き起こった。 「この部屋にいる女性が自分だけだということに気づいたんです」と彼女はそのとき感じた激しい怒りを語った。「女性の身体の研究なのに、私しか女性がいないなんて!」 そもそもイダがこのプロジェクトへの参加を決めたのは、善意からというのもあるが、自身が女性の権利運動に青春を捧げた情熱的な人類学者だからだ。検査室内の歪なジェンダーバランスは彼女を苛立たせたが、同時に彼女のやる気を刺激した。イダは恋人の背中を叩き、「じゃあ、始めましょうか?」と声をかけた。 3人の科学者は直立
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〈Pierre Klein(ピエール・クライン)〉、〈Cuggi(クッチ)〉、〈Lewis Vooton(ルイス・ヴートン)〉…。ガラクタみたいなジュエリー、そして〈I♡大麻〉キャップなどを売るコピー・ブランドは、世界中の露店で主要な売れ筋アイテムだ。私は、数々の露店を見てきたが、そのなかでも、頻繁に遭遇するブランドがある。それが〈Georgio Peviani(ジョルジオ・ペヴィアーニ)〉だ。 明らかにイタリア人男性であろう名前をGoogle検索してみると、この名のもとに発売されたデニム・ジーンズが多数出てくる。しかし、ジョルジオ・ペヴィアーニなんて人物は表示されない。やはり、明らかにただのコピー・ブランドだ。どのブランドのコピーか? 答えはやはり〈ジョルジオ・アルマーニ〉だろう。 しかし、ペヴィアーニはそこから何の利益も得ていないはずだ。なぜなら、ぺヴィアーニのロゴは、アルマーニのそれ
リアル・日本で一番悪い奴ら。北海道警察銃器対策課と函館税関は「泳がせ捜査」と称し、覚醒剤130キロ、大麻2トンを「密輸」。主導したのは、100丁以上の拳銃を押収し、「銃対のエース」と讃えられた稲葉圭昭警部だった。覚醒剤使用で逮捕後、8年の刑期を終えてシャバに出た稲葉は、自らの罪と組織ぐるみで行なわれた違法捜査の数々を告白、事件の風化に抗っている。 * 稲葉圭昭は1953年10月、北海道沙流郡門別町(現日高町)に生まれる。営林署に勤めていた父親は転勤が多く、稲葉家はその後、瀬棚町(現せたな町)、室蘭市、厚沢部町など、道内を点々とする。稲葉は父親に3歳から柔道を仕込まれ、成長とともに腕を上げ、そのことが警察への道を切り拓いていく。 ── 柔道に打ち込んでいた少年時代の話からお聞きしたいのですが。 倶知安中学に2年生で転校して柔道部に入りました。倶知安は羊蹄山の麓にある小さな町です。2年の3学期
完全菜食主義(ヴィーガニズム)のルールは、一見かなり明確だ。完全菜食主義者であるヴィーガンは、動物由来の食品をいっさい口にしない。つまり、彼らは肉だけでなく、ゼラチンなどの畜産副産物も控える。しかし、ヴィーガンの目的は人それぞれだ。動物愛護を声高に訴える者もいれば、熱心な環境保護主義者、そして健康や宗教上の理由から野菜中心の食生活を選ぶ者もいる。さらに、目的以上に曖昧なのが、ヴィーガニズムを実践するさいのルールだ。蜂蜜を食べたり、古着の革製品を身につけるヴィーガンもいれば、それらを完全にタブー視するヴィーガンもいる。 そして今、シーフードをヴィーガン食と主張する〈シーガン(seagan)〉運動によって、状況はますます複雑になっている。シーガンはこう問いかける。新たな発見や解釈を通じて、生活のあらゆる面において社会的定義や分類が変化してきたのに、私たちはなぜ、二枚貝はヴィーガン食に当てはまら
違法サイト〈漫画村〉が閉鎖した一連の事件は記憶に新しい。その裏で、容疑者を突き止めたひとりの若きハッカーがいた。かつては自らも違法行為をおこなっていたが、そんな彼が、ホワイトハッカーへと転身した経緯について聞いた。 ネット上の悪意と賞賛は、根っこが同じなのかもしれない。煽り、クソリプ、誹謗中傷、粘着、特定といった攻撃や、〈いいね〉を求める行為の多くは、他者から認められたいという〈承認欲求〉によるもの。顔の見えない他人からの書き込みに一喜一憂し、リアルな生活を脅かされる恐怖に翻弄されてまで、その欲を満たそうとするのは、SNS全盛時代の病理といえる。一方、ネットの悪と正義を明確に分けられるのかも疑問だ。素朴な正義感から火がつき炎上し、徹底的にターゲットを叩きのめす光景が日々、繰り広げられている。 「特定されるのが嫌なので、自分の住まいや見た目も定期的に変えています。匿名でいたいんです」と、語る
台湾の数学講師、張旭は、Pornhubに微積分の講義を公開し多くのファンを獲得している。PHOTO: COURTESY OF SHUN-WEI CHANG 過激なロールプレイや奇妙なCOVID-19ポルノを視聴することができるPornhubで、分厚いグレーのパーカーを着たメガネの男がまさかの人気を集めている。黒板に数式を書きまくり、この上なく真面目にその解説をする地味な講師。彼は、世界一のポルノ動画サイトの片隅で、独自の市場を切り開いている。性的な要素は1ミリもない。 それは教師モノのロールプレイの進化版でもないし、MOTHERBOARDの人気シリーズ〈Rule 34〉のオタク寄り企画でもない。数学を教えるための、至って真面目な講師の試みだ。 張旭(Changhsu)という芸名で活動する34歳のチャン・シュンウェイは、台湾人の数学講師。彼のPornhubアカウントは7000人以上の登録者を
「詐欺の子たちはみんなカラフルですね。例えば、窃盗やってる人間には窃盗やってる人間のカラーがあります。一般社会にはないカラーで、それはそれで取材対象の彩りとしては魅力的なんですが、詐欺をやってる人間は『こいつ詐欺やってんな』というひとつの色ではなく、カラフルなんです」 特殊詐欺の被害総額は、警察が把握しているだけで559億円(2014年)。そして今日も、持てる者たちから持たざる者たちが奪い取っていく。加害者への取材を通してこの重犯罪の実態に迫ったルポ『老人喰い ─高齢者を狙う詐欺の正体』を上梓した鈴木大介にインタビュー。振り込め詐欺をシノギとする若者たちの生態や心情から、アウトローを取材する記者稼業の本音にまで話が及んだ。 * 鈴木さんが裏稼業の子たちを取材しつづけるのはどうしてですか? 取材を始めたキッカケは、純粋に需要があったからです。いまに始まったことではなく、さまざまな社会の裏側の
1980年代末、アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国。都市部のゲットーでは、欧米からの影響で、ハウス・ミュージックがポピュラーな存在として定着していた。そこから発展して生まれたのが、「KWAITO(クワイト)」。テンポを落とし、ズールー語やスラングのチャント、そしてパーカッションからピアノなどを取り入れたアフロ・ハウスで、これを機に南アフリカのクラブ〜エレクトロニックミュージックは、独自の世界を生み出して行く。欧米のそれとは明らかに異なり、進化し続ける南アフリカ電子音楽シーン。各都市、各ジャンルを代表するアーティスト、プロデューサー、DJを訪れ、南アフリカ産エレクトロニックミュージックの今を三回に渡りレポートする。 第一回は、ダーバン、ヨハネスブルグ編。ディープなアンダーグラウンドハウス「GQOM」や、伝統的な民族音楽とミニマル・テクノをミックス&高速化させた「シャンガーン・エレクトロ(S
こども・アニメ専門チャンネル〈キッズステーション〉で、2000年に放送された短編CGアニメーション『ポピーザぱフォーマー』。ネットでは〈検索してはいけない言葉〉とされ、子ども向けアニメらしからぬ過激な描写ばかりが話題になる同作だが、監督は、『ポピーザぱフォーマー』で子どもたちに何を伝えたかったのだろうか? こども・アニメ専門チャンネル〈キッズステーション〉で、2000年に放送された短編CGアニメーション『ポピーザぱフォーマー』は、サーカスのカラフルでPOPな世界観、陽気なテーマソング、うさぎの被り物を被った人物と、顔にお面をつけたオオカミらしき2足歩行動物が登場する、なんとも親しみやすいアニメーション作品だ。まさか、子ども向けチャンネルで放送されるアニメーションで、胴体をバラバラに切断したり、顔面にナイフを突き刺したり、縄でトラックに繋がれて引きずりまわされるストーリーが展開されるとは、誰
2021年、武部医師のチームと名古屋大学大学院および京都大学呼吸器外科の共同研究者たちは、マウスを対象とした研究成果についての論文を発表。そして今年、ブタを対象とした研究成果を米国の医学雑誌で発表予定だ。ブタのほうが生理的にも遺伝子構造的にも人間に近い。 研究チームのヒントとなったのは、腸を使って呼吸することができる淡水魚、ドジョウの独特な呼吸法だ。組織レベルでの酸素が不足した低酸素状態が続くと、呼吸を楽にするために、ドジョウの腸組織の構造が変化する。 哺乳類も低酸素環境において肛門から呼吸できるのかを確かめるため、武部医師はまずマウスを対象とした実験を行なった。昨年医学誌『Med』に掲載されたその研究成果は「驚くべきものだった」と医師は語る。 「私は常に結果を疑ってかかるようにしていますが、実験のたびに再現性のあるデータセットが得られたんです」と武部医師。医師はシンシナティ小児病院医療セ
お隣さんに嫌な思いをさせずに、音楽を大音量で楽しむシステムが開発されました。 セルジオ・コルドバ氏(Xergio Córdoba)はスペインのマスタリング・エンジニアで、音響心理学を利用した音響システムの特許を取得。このシステムを使えば、コンサートホールやクラブで音量を上げても、騒音レベル(dBA=A特性音圧レベル)は上がりません。Masn´live©と呼ばれるこのシステムは、基本的にはプロセッサであり、どのようなサウンドシステムでもこれを一度挿入してしまえば、騒音規制を犯さずに、音楽を理想のクオリティーで楽しむことができます。 要するに、いつも文句を言ってくる近所の住民や大家さんに気づかれずに、音量を上げられるのです。 Masn´live©は、パーティー・フリークの悩みを解決できるのか、コルドバ氏に訊いてみました。 この発明は、何をきっかけに思いついたのですか。 2、3年前、ナイトクラブ
お食事中の方には申し訳ないのだが、会陰(えいん)とは恥骨とアナルの間のエリアのことだ。そのエリアに1回あたり少なくとも3分間日光を浴びせること、すなわち会陰日光浴により、「一日中太陽の下を散歩する」、あるいは「充電する」「コーヒーを1杯飲む」のと同等のエネルギーが湧き上がると主張するひとたちがいる。ハッシュタグ#perinuemsunningは、10月25日現在、TikTokで290万回の再生回数を達成している。ウェルネス分野のトレンドとして小さくはない。 しかしその理由はなぜか。一体何が起きているのだろう。なぜこんなにも多くのひとが脚を開き、お尻の中に直接紫外線を注ぎ込んでいるのだろうか。インターネットの最新トレンドの〈穴〉の中に迫ってみたい。 「単純に、あそこに暖かい太陽の光をあてるとすごく気持ちがいいんです」と語るのはニューヨーク在住のTikTokユーザーで、定期的に会陰日光浴を行う
〈アスリートの深層〉を探る、VICE音声ドキュメンタリーが配信開始MC MAMUSHIをホストに迎え、前田 健太選手や渡辺 雄太選手、髙橋 藍選手など、世界で活躍している日本人アスリート16人のキャリアや人生の転機について掘り下げていく。2023年10月9日よりAthlete's Mindが、Audibleよりリリースされる。
今年も、ひとりの日本人投手がMLB(メジャー・リーグ・ベースボール)デビューした。ロサンゼルス・ドジャースの前田健太だ。決して前評判は高くなかったが、開幕から絶好調。5/7現在、6試合38回を投げて3勝1敗、防御率は1.66。完璧すぎるメジャーデビューに、アメリカ・メディアも手放しで大絶賛している。しかし、彼とは反対に、大きな期待をされながら結果を出せず、「反逆者」扱いされた日本人投手もいる。そう、伊良部秀輝(享年42歳)だ。 * 「I-rob-you!(アイ・ロブ・ユー、お前から奪い取ってやる!)」かつて、ヤンキース・ファンは、伊良部に向かってこう叫んでいた。 1997年、ニューヨーク・ヤンキースに入団した伊良部は、当時ロサンゼルス・ドジャーズに所属していた野茂英雄のような活躍を期待されていた。実際、彼はヤンキースのエースになると思われていたし、彼の発言も威勢が良かった。ヤンキースの名物
DJ Premierは自身のサンプリングのスタイルについて「予想を裏切るようなネタでトラックをつくりたいんだ」と語る。「他のヤツらは、大ネタをかましたがるけど、俺は、爪のアカみたいなサンプルからトラックを創る。わかるだろ?」 DJ Premierこそ「パイオニア」という称号が相応しいプロデューサーだ。彼は、『Illmatic』(Nas, 1994)、『Ready to Die』(The Notorious B.I.G, 1994)、『Reasonable Doubt』(Jay Z, 1996)など、ヒップホップの名盤にプロデューサーとして名を連ねている。テキサス州ヒューストン出身だが、NYのHIP HOPを語るうえで、彼の名は外せない。 ロイス・ダ・ファイブ・ナイン(Royce da 5’9”)とDJ Premierのユニット、 PRhymeの「Golden Era」では、ジョーイ・バッド
昔々、VICEでライターとして記事を書き始めるずっと前、私は別の仕事をしていた。そのなかでも、今日の私に大きな影響を与えた仕事は、〈トリップアドバイザーで偽レビューを書く〉という仕事だった。いち度も訪ねたことのないレストランの好意的なレビューを書き、報酬は10ポンド(約1500円)。やっているうちに、レビューしたレストランの評価を監視するのに夢中になった。レビューがきっかけで、評価が上がったりもしたのだ。 その経験から私は、トリップアドバイザーは〈偽の現実〉だ、食事が提供されたことはない、レビューは全て、私のような雇われライターが書いているのだ――そう信じるようになった。でも、実際はもちろん(たぶん)本物だ。そもそも、レストランの存在自体は絶対に偽れない。そうやって自分を納得させたハズだった。 しかしある日、自宅の物置スペースに座っていた私は、突然、天啓を得た。デマ情報ばかりが流れるこの世
メノナイトとは、キリスト教アナバプテストの教派で、信徒の数は、世界でおよそ150万人。非暴力・平和主義で、未だに電気、テレビ、ラジオといった電化製品、そして自動車などの近代技術を使わず、決まった髪型・服装で、質素な生活を送っている。飲酒、たばこ、音楽鑑賞も禁止、競争することも認められていないのでスポーツも厳禁だ。 ボリビアのメノナイトの99%はカナダからの移民。1920年代に子供の英語教育から離れるため、メキシコに移り、その後1960年代にメキシコの近代化が進んだことから、現在のボリビアに移住した。半数以上が保守的なメノナイトで(近代技術を自由に利用するメノナイトも存在する)、トウモロコシや大豆を育て、それらを家畜の餌にし、その家畜を市場で売って生計を立てている。公教育を拒否し、男子は7年間、女子は6年間の小学校教育のみ。女性や子どもたちは、ほとんど外出することはなく、コミュニティ内で孤絶
ダン・ヒルが経営するアバヴ・ボード・ディストリビューション(Above Board distribution)は、ロンドンを拠点に、いわゆる「P&D」と呼ばれるプレスと流通を請け負う会社だ。クライアントにはクロスタウン・レベルズ(Crosstown Rebels)、リキッズ(Rekids)、ホットフラッシュ・レコーディングス(Hotflush Recordings)などの錚々たる面子が名を連ね、アバヴ・ボードは、そういったクライアントのレコードをプレスし、小売店に出荷している。 アメリカ国内でのレコード盤売上は、CD販売開始後最高の売上を記録した。ちなみに、2014年の売上枚数1400万枚、2015年前半だけでも900万枚を売り上げた。この事実を知れば、レコード・ビジネスは昇り調子だ、と楽観したくもなる。しかし、業界全体のセールスが破竹の勢いで伸びているにも関わらず、ダンが扱っているインデ
千億円を超える市場規模にまで復活したレコード。これはもはやブーム云々ではない。確実に私たちの生活のなかでレコードは回り始めた。そんなレコード市場は、レーベル、ディストリビューター、ショップだけで成り立っているのではない。個人レコードディーラーが、現在の市場を活気づけているのだ。 生ける屍と化していた愛すべき音楽フォーマットが復活しつつある。もう心配はない。数十年もの低迷期を経て、2016年、英国のレコード売上は320万枚を超えた。過去25年間で最高の記録だ。米国はさらに好調で、市場規模は10億ドル(約1095億円)に迫ろうとしている。スーパーにはレコード・コーナーが設置され、プレス工場はフル稼働している。Discogsではレア盤が高値で売買されている。この事態を誰が予測できただろう? しかし、音楽産業全体にとって、320万という数字は、まだまだ僅かなものである。例えば1986年、この年だけ
IS関連の最新ニュースを読み、椅子に座ったまま怯える以上の何かをしているアナタは、私よりも一歩先にいる。そんな私たちよりも数歩先にいるのは、27歳のポップスター、ヘリー・ラヴ(Helly Luv)だ。飛躍を遂げた、2ndシングル「Revolution」とそのMVで、ラヴはテロ組織に戦闘を仕掛けた。クルディスタンのなかでも、IS占領地からほど近いロケーションで撮影されたMVに、完全武装のヘリー・ラヴが実物の戦車、本物のIS被害者とともに登場する。 「クルド版シャキーラ」とも称されるラヴは、イランで生まれ、フィンランドに育ち、現在はLAを拠点に活動している。彼女の家族は、長きにわたりクルド人戦闘部隊に所属しており、母親と祖父は、イラク領クルディスタン自治政府の軍事組織ペシュメルガ(Peshmerga)の著名メンバーであった。ラヴが発する鬨の声はYouTubeで400万回以上の再生数を獲得すると
ロンドンで暮らしているとエリアを問わず、様々な場所でバンクシーが描いたグラフィティを見つけることができる。彼のグラフィティを探し求めて歩き回るなんてことをしなくても、何かの拍子でふらっといつもと違う道を歩いたときに、どこかで見たことがあるイラストに出くわして、後で調べてみると彼の描いたものだったなんてことが月に何度か起こるのだ。それくらいロンドンの街にバンクシー(の作品)は浸透している。またそうやって街中で見つけられる作品の中には、強化ガラスでカバーが取り付けられているものもあるというのが現状だ。街として彼の作品を維持していくという意志が感じられ、ストリートアートにある程度寛容なロンドン(特にイースト・ロンドン)でも、バンクシーは別格の待遇を受けていると言えるだろう。というわけで今回は、イギリス国内において、なぜ彼がそのように扱われるようになったのかということを様々な角度から探っていく。
「男女のカップル写真だけはムリ。一度だけやってみたけど、すごく倒錯してたわ。私が雇われたのは、自分たちがヤってるところを誰かに見せたいからじゃないか、って気がしたの」 ビジネスとしての性産業の合法性を政府が認めていようといまいと、カナダでは風俗業界で働く女性が何千人もいる。モントリオールの性風俗産業における最重要人物がDannyGirl(ダニーガール)だ。彼女は10年来、モントリオールの何千人もの娼婦(以下、エスコートガール)たちの写真を撮影してきた。彼女が撮った写真は、エージェントのウェブサイトや独立系風俗サイトに掲載され、エスコートガールと一晩過ごしたい、と願う顧客たちの股間を刺激し、高額を懐から引き出す。 ダニーガールは、一寸だけファッション・カメラマンとして働きつつも、約20年ヌード写真を撮影してきた。10年ほど前には、被写体をエスコートガールだけに絞った。「ハードディスクに入って
Instagramで〈#depressed(うつ)〉と検索してみれば、1200万以上の投稿が出てくる。白黒の写真や、泣いているマンガのキャラクターの画像、そして、タバコを吸っているキュートな女の子たちの写真(時折、タトゥー入りの〈sadboi〉たちの写真も見られる)に、「助けて」「消えちゃいたい」などというメッセージが重ねられた画像も散見される。 このように、〈オシャレ〉風に精神疾患を描写することを、精神疾患の専門家アディティ・ヴァーマ(Aditi Verma)は「美しい苦悩」と呼んでいる。精神疾患がミーム化され、不安症やうつが、単にダークなフィルターやシンプルなテキストで演出できてしまう、一時的な〈気分〉に成り下がってしまっている。 このトレンドは10年以上前にTumblrで登場し、Instagramなどのプラットフォームで拡散した。このタイプの投稿だけを集めた数千、数万のフォロワーを抱
当編集部に新しいスタッフが入った。フランス留学経験があり、英語もペラペラ。身長は170センチを越え、激スラッとしたクールでお洒落なビューティー女子である。そんな彼女からお願いがあった。 「入ったばかりで申し訳ないのですが、来週の金曜日、早退させていただいてよろしいでしょうか?」 「はい、いいですよ。どこかにお出かけですか?」 「コンサートに行きます」 フランス・ギャルakaイザベル・ジュヌヴィエーヴ・マリ・アンヌ・ギャルが楽しみにしているコンサート。さぞかしお洒落なショーに違いない。ジェーン・バーキンとかシャルロット・ゲンズブールとかクレモンティーヌとかAIRとかフェニックスとか、そんなのに違いない。ビルボートとかブルーノートとかでやるんだろう。なんちゃらムースのムニエルをカチャカチャさせてね。フォーク、ナイフって、外側から使うんでしたっけ? サイゼリアのエスカルゴ、結構、美味いですよね。
6月末、平年を大幅に上回る猛暑が米西部を襲い、観測史上最高気温を記録。高温を原因とする森林火災も多発し、暑さによる死者も100名を超えている。この暑さはしばらく続くとみられている。 まるでこの世の終わりのような暑さの中、人間を突然死に至らしめる可能性がある、暑さと湿度の研究が進められている。実際、気候変動の影響により異常気象が増加し、高温多湿を原因とする死者がすでに珍しくなくなっているが、その現状をおそらくもっとも的確に表しているのが、昨年、オンライン学術雑誌〈Science Advances〉に掲載された「人体の限界を超える極度の高温多湿状態の現れ方(The emergence of heat and humidity too severe for human tolerance)」という論文だ。 これまでの気候モデルでは、高温多湿を原因とする死者は21世紀中頃以降に発生するとされてきた
24歳の教師で1児の母、ハイディ ・ベネクンシュタイン (Heidi Benneckenstein)は、約1年前まで、〈ハイドラン・レデッカ (Heidrun Redeker)〉というネオナチ団体に所属していた。ミュンヘン近郊の極右家庭に生まれたベネクンシュタインは、統制、従属、狂信的な愛国心を重んじる、〈第三帝国 〉のフェルキッシュ(völkische)という価値観のもとで育てられた。 ベネクンシュタインは〈ハイマトロウエン・ドイチェン・ユーゲント (Heimattreuen Deutschen Jugend、HDJ)〉という青少年クラブに加入し、7歳のとき、HDJ主催のサマーキャンプに初めて参加した。次世代ナチスのエリートを育成する団体だ(2009年、ドイツ内務省はこのクラブを閉鎖した)。そこで彼女は、ホロコーストを否定し、ヒトラーの誕生日を祝っていた。 現在、教師を務める傍ら、執筆活
2013年、ファン・ワイツン(Fung Wai-tsun)は、家族とともに、祖父の遺骨を香港から中国本土に運び出した。家族は、税関の係員が骨壷の中身をドラッグと疑わないか、戦々恐々としていた。 香港住民の例に漏れず、ファンは、愛する故人の墓を香港内で見つけられず、遠く離れた場所に納骨しなくてはならなかった。 人口約740万人が暮らす中国特別行政区の香港では、現在、納骨所の需要過多が深刻な問題だ。香港内の共同公営墓地の契約料は最低で約4万円、一般人でも払える金額だが、納骨まで何年も待たなければならない。 ファンと同じく、大多数の中国人は、先祖に失礼のないよう、遺骨は然るべき場所にすぐに納めるべきだ、と信じている。 しかし、民間経営の墓地に納骨しようとすると、最低でも6000ドル(約68万円)、高ければ13万ドル(約1400万円)もの契約料を要求される。これは、ファン家のような平均的家族にとっ
たいてい、コーヒーの染みのようで、どうやっても消せない。あるいは、ディスクの表面をピンで引っ掻いたような傷であったり、全体が変色していたりもする。いずれにせよ、このような〈ディスク・ロット(ディスクの腐敗)〉を発見したときには、名盤も、おもしろい映画も、二度と鑑賞できない。 光学メディアをダメにしてしまうこの腐食は、デジタル公文書のアーキビスト* にとっても、今となっては珍しい〈レーザーディスク〉のようなフォーマットで映画を観たいみなさまにとっても、かなり深刻な問題である。 この現象について探ってみよう。 「ディスクをナイフで切りつけるのはオススメしません。ディスクを灰皿がわりにタバコをもみ消しても、ディスクは壊れてしまいます。でも、ジャムをこぼすくらいなら大丈夫です」 これは、1988年、レコード・レーベル〈ニンバス(Nimbus)〉が調査したCDのパフォーマンス研究に対し、EMIの広報
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