「鬼は外、福は内」と一心不乱に念じながら豆を撒けば運気も上がるのではないか、そう考えた僕が節分の夜に帰宅するや否や、休みの日に買ってちゃぶ台の上に置いておいた「豆」を手に取ってみると、「豆」であるはずのものがなぜか「タマゴボーロ」。間違えた。スーパーまで歩いていくときに飲んだカップ酒。あれが原因。すべてカップ酒のせい。切れかかり、チカチカと点滅する蛍光灯を仰ぎ、「天は我を見放した」と古い北大路欣也の物真似をしたあとで、まあやらないよりはやったほうがいいだろうと、タマゴボーロを豆と見立て、僕は「鬼は外、福は内」と隣人に聞こえないように囁きながら、タマゴボーロを撒いた。二・三粒撒いたところで、タマゴボーロを食べ始めると、懐かしい味が口いっぱいに拡がって、懐かしいなあ、懐かしいなあ、と言いながら食べるのをやめられなくなり、気がつくと右手に残るは空の袋。 中途半端な節分ナイトを送ったのが仇となった