PR誌「ちくま」6月号より、田野大輔氏による書評を公開します。『増補 普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊』(谷喬夫訳)は、学芸文庫では異例の刊行前重版が決まり、さらにその後も重版が相次ぐ話題書。ごく平凡な市民たちはいかにしてユダヤ人大量殺戮の実行者となったのか。「誰もが虐殺者になりうる」という言葉が重く響きます。ぜひ、ご一読ください。 第101警察予備大隊の「普通の人びと」がいかにユダヤ人の大量殺戮に荷担したかを描き出した本書は、壮絶な読書体験を与えてくれる名著である。 ホロコースト研究の第一人者である著者は、戦後の裁判での大隊のメンバーたちの証言を利用しつつ、凄惨な現場の実態を浮かび上がらせる。ユダヤ人を駆り集めて処刑場に連れて行き、一人一人の首筋を撃って殺害する隊員たち。何時間も銃殺がくり返され、いたるところに死体が転がる現場。だがその残虐さだけが読者を戦慄させるのではな