作家・村松友視氏が『私、プロレスの味方です』で作家デビューしたのは1980年のことだ。ここでアントニオ猪木と出会った村松氏は、猪木と独特の交友を重ね、現在に至る。プロレス内プロレスを「過激なプロレス」へ脱皮させたアントニオ猪木とは何者か? 新日本プロレスの旗揚げから今年で50年、猪木はいま闘病中である。40余年にわたって猪木を観察してきた村松氏がこの稀代の格闘家の「もう一つの貌」を描く本格連載をスタートする。 蔵前国技館での光景 指定された刻限よりかなり早く、蔵前国技館の控室に到着した私は、がらんとして人気もなく、静まり返ってだだっ広い部屋にポツンと立ち尽くしていた。 いくつかの椅子とテーブルがあったが、それらはただ放ったらかしにされているらしく、若手レスラーによって選手の控室としての体裁をほどこされているでもなくそこはかとなく無機質な空気が張りつめていた。 遠くの方で人声がするものの、そ