「まあ隣町だし。いつでも飛んで来られるよ」つって軽い気持ちで飛び出した実家に顔を出さなくなって数ヶ月。実家に残してきた母が気にならないといえば嘘になる。けれども、電話で「私のことよりあなたがしっかり働いて稼ぐだけ稼ぎなさい」と叱りつけるように言う母の強さが僕を実家から遠ざけているのも事実だ。 母は強かった。本当に強かった。その強さは弱さと裏腹だと気づいたのは僕がいい大人になってからのことだ。父が他界したあと、専業主婦を辞め葬儀屋で夜遅くまで働いて僕と弟を大学まで行かせてくれた母には感謝の気持ちしかない。母は僕が学生の頃から事あるごとに独立した大人になるよう言った。人に負けてはならないとも言った。負けたら終わり。実際そうだった。あの頃の僕ら家族は弱さを見せた途端に崩れてしまうほど脆弱だった。言葉は神で、弱音は現実化してしまう。だから僕らは逞しく。明るく生きるしかなかった。それが虚勢やハリボテ