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ブックマーク / book.asahi.com (159)

  • 基地のある風景――小泉悠さん・評『世界の基地問題と沖縄』|じんぶん堂

    記事:明石書店 千葉県松戸市六実(むつみ) 書籍情報はこちら のっけから私事で恐縮であるが、評者は千葉県松戸市のはずれにある六実(むつみ)地区で生まれた。海上自衛隊下総航空基地と陸上自衛隊松戸駐屯地のちょうど真ん中に位置し、頭上にはいつもP-3C哨戒機やAH-1S対戦車ヘリコプターが飛んでいるという土地である。さらに南東部には陸上自衛隊習志野駐屯地があり、晴れた日には空挺団のパラシュートが輸送機からパラパラと蒔かれていく様子が小学校の窓からよく見えた。 こうした環境で育った筆者にとって、基地というのはごく普通に存在するもの――日常と非日常で言えば「日常側」の風景であって、そこに何か特別なものを感じたことはあまりない。おそらく多くの六実住人たちにとってもこれは同じであったのだろう。基地が何らかの政治的問題として扱われることはまずなかったし、その存在が意識されること自体があまりなかったように思

    基地のある風景――小泉悠さん・評『世界の基地問題と沖縄』|じんぶん堂
  • 「賃労働の系譜学」/「賃金破壊」 壊れた社会で働く者を守るには 朝日新聞書評から|好書好日

    ISBN: 9784791773947 発売⽇: 2021/11/26 サイズ: 19cm/323,10p 「賃労働の系譜学」[著]今野晴貴/「賃金破壊」[著]竹信三恵子 コロナ禍も、はや3年目。日々の労働はテレワークの増加などで不可逆的に変わりつつある。この事態にどう向き合うべきか。『賃労働の系譜学』は、働く者の立場で真正面から答える。かつて「ブラック企業」の問題を広く認知させた著者が、労働問題の対策から一歩進み、日主義の現状分析と変革への展望を語る。 生産と雇用を拡大させ、成果の分配で社会を統合する「フォーディズム」の体制には、コロナ禍以前から根的な変化が兆していた。デジタル化やAIの技術革新によって、労働が富の源泉にならず、経済規模は容易に拡大しない。富裕層による富の収奪が、経済活動の中心となる社会の到来。それが「デジタル封建制」たる所以(ゆえん)だ。 ならば日でデジタル化

    「賃労働の系譜学」/「賃金破壊」 壊れた社会で働く者を守るには 朝日新聞書評から|好書好日
  • 「ベトナム戦争と韓国、そして1968」書評 高度成長支えた暗部を直視する|好書好日

    「ベトナム戦争韓国、そして1968」 [著]コ・ギョンテ 長らくベトナム戦争の経験が直視されることのなかった韓国で、少しずつ歴史の見直しが進んでいる。 そもそもベトナム戦争は「アメリカとベトナムの戦争」ではない。元は南ベトナム(当時)の革命勢力と政府軍の内戦に米軍が介入した「宣戦布告なき戦争」で、さらに豪州など4カ国が国際監視軍の名目で部隊を派遣。米国の求めでアジアの同盟諸国も派兵した。 そこでひときわ存在感を放ったのが韓国である。軍政を敷いた当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権は戦闘部隊の派遣とひきかえに米国市場へのアクセス権を手にし、1960年代後半から70年代には毎年約5万人を派兵。その数は累計で32万5千人を超える。「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる韓国の急速な戦後成長はその賜物(たまもの)なのである。 しかしこの過去は韓国では無視される傾向にある。ひとつはそれが米国の「不名誉な

    「ベトナム戦争と韓国、そして1968」書評 高度成長支えた暗部を直視する|好書好日
  • 「統計データの落とし穴」書評 木を見て森を見ない誤用に注意|好書好日

    統計データの落とし穴 その数字は真実を語るのか? 著者:ピーター・シュライバー 出版社:ニュートンプレス ジャンル:数学 「統計データの落とし穴」 [著]ピーター・シュライバー 90年代のニューヨーク市警に、取り締まりや犯罪データの収集システムが確立した。ある分署長はそれを使い、警官や部署の活動を、数値評価し始めた。もちろん警官の行動は変わっていった。無意味な職務質問を増やしたり、重大犯罪を微罪として扱ったり、被害者が被害届を出すのを邪魔するようになったのだ。数値ノルマを達成するため、そのような行動は署の全体でなされた。数値評価を導入すると、人はそれに応じて行動を変える。結果として、その数値評価を通じて実現したかったことと、反対のことだって起こる。 数値評価は大切なように思える。なんせ数値は、数値で表せないものと比べて、はるかに見えやすいし、分かりやすいから。だから人は数値を見て、そこに答

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  • 「アメリカ社会の人種関係と記憶」/「ホワイト・フラジリティ」 制度化された差別 内側から抉る 朝日新聞書評から|好書好日

    ISBN: 9784779127564 発売⽇: 2021/05/19 サイズ: 22cm/350,49p 「アメリカ社会の人種関係と記憶」 [著]樋口映美/「ホワイト・フラジリティ」 [著]ロビン・ディアンジェロ 去る1月6日の米連邦議会襲撃事件の衝撃的な光景を前に、歴史家の脳裏には既視感がよぎった、というと奇異に過ぎるだろうか。 実は米国史上、白人集団による人種暴力の例は珍しくない。南部で頻発した黒人リンチはむろん、中部のオクラホマ州でも百年前、「黒人のウォール・ストリート」と呼ばれたタルサ市中の豊かな商業区が数千の白人暴徒に焼き打ちされ、街は消滅して人々は離散。事件は闇に葬られたが、先ごろバイデン大統領が現地で追悼し、やっと一般にも知られたのである。 そんな「忘れられた」歴史の一面に、より深い光を当てるのが『アメリカ社会の人種関係と記憶』である。 19世紀末の米国は地方政治を舞台に「

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  • 「グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争」書評 政略で国際法を用いた鉄血宰相|好書好日

    グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争 ビスマルク外交を海から捉えなおす (NHKブックス) 著者:飯田洋介 出版社:NHK出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争 ビスマルク外交を海から捉えなおす [著]飯田洋介 著者は前著『ビスマルク』(中公新書、2015年)で、デンマーク、オーストリア、フランスとの3度の戦争を主導しドイツ統一を成し遂げた「鉄血宰相」のイメージを解体した。ビスマルクは決して好戦的な政治家ではなく、刻々と変化する内外の情勢に対応し続けた結果、戦争を選択したにすぎない。 書では、ビスマルク外交をヨーロッパでの勢力均衡に限定せず、独仏戦争時における日・米国への働きかけも視野に入れ、海の視点から捉え直す。具体的には、グローバルに活動するドイツ商船をフランス海軍から守るためのビスマルクの苦闘を描く。 当時のフランスはイギリスに次ぐ海軍

    「グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争」書評 政略で国際法を用いた鉄血宰相|好書好日
  • 「アニメ大国建国記 1963-1973」「東映動画史論」 トリビアも実証も 文化の深みへ 朝日新聞書評から|好書好日

    アニメ大国建国紀1963−1973 テレビアニメを築いた先駆者たち 著者:中川右介 出版社:イースト・プレス ジャンル:ゲーム・アニメ・サブカルチャー アニメ大国建国記 1963-1973 テレビアニメを築いた先駆者たち [著]中川右介/東映動画史論 経営と創造の底流 [著]木村智哉 子どものころ「アトムシール」を集めるのに夢中になった世代もいまや高齢者に仲間入りしつつある。かくいう評者もそのひとりだが、『アニメ大国建国紀』はそんな読者をあたかもタイムマシンのように過去へ連れ戻してくれる。 なにしろページを繰るたび、どのテレビアニメにも覚えがある。「鉄腕アトム」「鉄人28号」「エイトマン」「スーパージェッター」「狼(おおかみ)少年ケン」「少年忍者 風のフジ丸」……いずれも主題歌を口ずさむことさえできそうだ。 しかしこれらの番組がどんな条件下で制作され、いかに競いながらなにを残したかについて

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  • 水野良「ロードス島戦記 誓約の宝冠」 100年後、新たな冒険の始まり|好書好日

    「ロードスという名の島がある」という有名な書き出しで始まる水野良の『ロードス島戦記』。1988年に第1巻が刊行され、昨年30周年を迎えた作は、前日譚(ぜんじつたん)『ロードス島伝説』、続編『新ロードス島戦記』(いずれも角川スニーカー文庫)と合わせ累計1千万部以上を売り上げた大ベストセラーであり、ライトノベルにおけるファンタジーのスタンダードとなった小説だ。 そんな歴史的作品の12年ぶりの新作が今月、刊行された。『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』である。長き戦乱の時代の後、ロードスにある六つの国の王は、他国への侵略を禁じる魔法の冠・誓約の宝冠をともに頂き、島には長い平和の時代が訪れた。しかし、それから100年後、ロードス最大の国家・フレイムの新たな王は宝冠の継承を拒否。ロードス統一を掲げ、他国への侵攻を開始する。再び始まった戦乱のなか、マーモ王国の第四王子ライルは、かつて幾度となくロードスの

    水野良「ロードス島戦記 誓約の宝冠」 100年後、新たな冒険の始まり|好書好日
  • 相沢沙呼さんが少年の頃から夢中だったTRPG「ソードワールドRPG」 ネット越しに感情移入した予測のつかない冒険譚|好書好日

    あの頃、いちばん大好きだったものはなんだろう。 最後のお題はノンジャンルということで、なにを取り上げるか少しだけ悩んでいた。 大好きだった、という言葉は過去形だ。だから、どうしても、今は様々な理由で失ってしまったものたちのことを想起した。十代の頃に大好きだったもの。青春と共にあって、過ぎ去ってしまった時間のことを思い返した。そうなると、僕の場合、取り上げるべき題材はこれに決まっていた。 ソードワールドRPG——。仲間たちと共に綴った、たくさんの冒険譚のことを、書きたいと思う。 「ソードワールドRPG」は、TRPGと呼ばれているアナログ・ゲーム作品の一つだ。 TRPG――、テーブルトークRPGについて、知らない人に正確な情報を伝えるのは、ちょっと難しい。 その名前の通り、テーブルを囲んで、みんなで会話をしながら遊ぶ、ボードゲームに近い遊びだ。 ゲームマスターという進行役が用意した物語に沿って

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  • 「TRICK トリック」書評 歴史の土台崩す意図的な無理解|好書好日

    TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち [著]加藤直樹 書のサブタイトルに「なかったことにしたい人たち」とある。この存在が可視化されたのが、「あいちトリエンナーレ」の企画展『表現の不自由展・その後』の中止、という帰結ではなかったか。加害した過去を受け止めて平和を問う機会を、公権力が奪う。「平和の少女像」などの展示を「自国ヘイト作品」と位置付ける芸能人まで現れた。表現の自由、女性の権利、それらを獲得するための長い歴史に、どこまでも無理解を貫く。でも彼らは、無理解を維持することで「なかったことにしたい」のだ。 2017年、小池百合子都知事が朝鮮人虐殺犠牲者追悼式典への追悼文送付を取りやめた。「個別の対応」をせず、全ての震災犠牲者に哀悼の意を表した、という。その判断が下される少し前、自民党都議が、追悼碑に刻まれた朝鮮人の虐殺犠牲者数について、「政治的主張」と述べた。そ

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  • 「買春する帝国」書評 自由奪う事実上の奴隷制を解明|好書好日

    買春する帝国 日軍「慰安婦」問題の基底 (シリーズ日の中の世界史) 著者:吉見義明 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗 買春する帝国 日軍「慰安婦」問題の基底 [著]吉見義明 慰安婦のことを知らない若い人が増えている。中学の歴史教科書から慰安婦の記述がほぼ消えたためだ。歴史修正主義的な言説があふれる今、年長者の認識も怪しい。あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」の件も歴史認識の問題と当然関係しよう。 書はそんな心許(こころもと)ない状態のこの国で、私たちが知っておくべき日の性買売の実態を、最新の研究成果もふまえて広く深く解き明かした労作である。対象は幕末から売春防止法の施行(1958年)まで。議論するならこのくらいは押さえておこうよ、という最低限のラインである。 国際社会へのデビューに際し、1872年、明治政府は人身取引を禁止する芸娼妓(しょうぎ)解放令を出す。

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  • 「純血種という病」書評 うやむやのまま更新される信仰|好書好日

    純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史 [著]マイケル・ブランドー 一〇年にわたり犬の散歩代行の仕事をしてきた著者は、「犬は人間をありのまま愛してくれるが、一部の人間は犬の中に自分の見たいものだけを見る」姿勢をあちこちで目にしてきた。 雑種を毛嫌いし、純血種を信奉する人たち。彼らの強欲のための交配が繰り返され、犬たちの健康がないがしろにされてきた。固執するのは「外見と血統」ばかり。あらゆるパーツが改変されていく。たとえばブルドッグは、「人間の気まぐれで顔を真っ平らにした」ことによって、「口が浅くなり、身体の冷却がうまくいかず、また心臓まひも起きやすくなる」のだという。 もはや、「科学というよりはアートに近い」ブリーディングは、犬の気持ち、つまり脳については何一つ考慮しない。生命に優劣をつける悪しき優生学の思想が色濃く残るばかりか、商売としても暴走するばかり。純血種を権威として

    「純血種という病」書評 うやむやのまま更新される信仰|好書好日
    emiladamas
    emiladamas 2019/07/30
    こういう話を見ると、競走馬もいずれは存在自体が批判の対象になる日も来たりするのかなと
  • 『「砂漠の狐」ロンメル』書評 名将の優れた戦術センスと弊害|好書好日

    「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書) 著者:大木毅 出版社:KADOKAWA ジャンル:新書・選書・ブックレット ドイツ国防軍で最も有名な将軍・ロンメル。最後はヒトラー暗殺の陰謀に加担したとされ、非業の死を遂げる。彼はヒトラーの忠実なる“軍人”なのか、誠実なる“反逆者”なのか。最新学… 「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 [著]大木毅 北アフリカ戦線で圧倒的に優勢な連合国軍を幾度も撃破し、砂漠の狐と恐れられた男。ヒトラー暗殺計画への関与を疑われて自殺を強要された悲劇の名将。エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメルは、第2次世界大戦に参加した軍人の中で最も著名な人物の一人だ。ヒトラーという「巨悪」に仕えた将軍でありながら、対戦相手である英首相ウィンストン・チャーチルは「大胆で有能な敵手」と評した。戦後はドイツ語圏のみならず英語圏でも、名将ロンメルを称賛

    『「砂漠の狐」ロンメル』書評 名将の優れた戦術センスと弊害|好書好日
  • てんこもりの要素、まとめきる 大塚已愛「ネガレアリテの悪魔」「鬼憑き十兵衛」|好書好日

    19世紀末ロンドン。貴族の娘・エディスはなじみの画廊に誇らしげに飾られていた「ルーベンスの未発表作品」が贋作(がんさく)であると気づく。だが、それが原因で彼女は絵画から出現した怪物に襲われてしまう。彼女の危機を救ったのは日刀を持った青年紳士・サミュエルだった……。 第4回角川文庫キャラクター小説大賞を受賞した大塚已愛(いちか)『ネガレアリテの悪魔 贋者(にせもの)たちの輪舞曲(ロンド)』は、一言でいえば「てんこもり」の作品。その要素を羅列するだけでも紙幅が足らないほどだ。色彩の反転した「反現実(ネガレアリテ)」の世界で、日刀と祝詞(のりと)を武器に怪物と渡り合う謎多き美青年、という時点ですでに盛りだくさんなのに、さらにその戦いはローレンスやターナーといった画家の贋作を巡る美術についての物語でもある。ヴィクトリア朝末期のイギリスを舞台に史実上の人物が次々登場する歴史ロマンでもあり、次第に

    てんこもりの要素、まとめきる 大塚已愛「ネガレアリテの悪魔」「鬼憑き十兵衛」|好書好日
  • 書評・最新書評 : トマト缶の黒い真実 [著]ジャン=バティスト・マレ - 寺尾紗穂(音楽家・エッセイスト) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■衝撃的なグローバル経済の実態 タイトルを見て「買ってはいけない」系の話かと思ったらまったく違った。書が描くのはトマト缶業界で台頭してきた中国企業である。「イタリア産」の缶詰も、加工地がイタリアであり、中身は中国から運ばれているものが多い。産地偽装でよく聞く話ではある。 中国の場合、トマトの主要な産地・新疆は、反革命犯や政治犯を「改造」するために労働をさせる「労働改造」の一大拠点でもあった。著者は2013年にこの制度が廃止された後も多くの収容者がトマトの収穫作業を強いられているという証言を新疆で引き出している。私たちはどこかで、反体制の知識人を含む人々がもいだトマトべているかもしれないのだ。 書はグローバル経済の実態を示す一冊でもある。フランスのトマト加工企業が中国企業に買収された時点での、地元産トマトを使うという約束は反古(ほご)にされ、中国から濃縮トマトが運ばれる。地域の生産者

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  • 「11の国のアメリカ史」書評 混沌のレース、行方やいかに|好書好日

    ISBN: 9784000220972 発売⽇: 2017/10/25 サイズ: 20cm/271,19p 北米の歩みを、11のネイション間の分断と相克の歴史として描くユニークな歴史書。上は、植民地時代から独立革命後までを扱い、現在の合衆国の深刻な亀裂を考える上で、示唆に富んだ… 11の国のアメリカ史―分断と相克の400年(上・下) [著]コリン・ウッダード アメリカ開拓レース、ゲートオープン! バラついたスタートになりました。まず先頭を奪ったのはスペイン産「エル・ノルテ」、しかし母国の衰運に引きずられて早々に失速です。ついでフランス産「ニューフランス」、イギリス紳士「タイドウォーター」。 なんとピューリタン発「ヤンキーダム」が伸びてきました。新社会建設の理想に燃え、多数の学校を設立して教育力を武器に、みるみる加速しています。負けじとドイツ農民「ミッドランド」は家族経営で手堅く、イギリス辺

    「11の国のアメリカ史」書評 混沌のレース、行方やいかに|好書好日
  • コラム別に読む : 『アメリカン・ウォー』(上・下) オマル・エル=アッカドさん - インタビュー・記事/山田洋介、撮影/金井元貴 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

  • 書評・最新書評 : 子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から [著]ブレイディみかこ - 齋藤純一(早稲田大学教授・政治学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■「一番低い場所」から社会問う 書が描くイギリスの底辺社会の実相は、この春に日でも上映された、ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』のいくつかのシーンと重なった。そのひとつは、ロンドンから北部の安い住宅に追い立てられたシングルマザーが、空腹に耐えかねてフードバンクの料をその場で口に詰め込む姿である。 ブライトンで保育士として働く著者によれば、かつての勤め先だった託児所も、2010年以降、保守党政権が推進した新自由主義政策のもとでフードバンクに変わった。「最下層の子どもたちに未来を与える」ための託児所は、「かれらをいま生きさせるための料庫」となった。 大幅に削減されたのは、「下層の人々を引き上げるための制度や施設への投資」であり、その結果、社会の底辺には「閉塞(へいそく)や孤独やノー・フューチャーな感じ」が充満するようになる。財政が縮むと人の心も縮み、水平的な差別や憎悪も現

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  • 書評・最新書評 : ヒトラーの裁判官フライスラー [著]ヘルムート・オルトナー - 市田隆(本社編集委員) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■政権に忠実な官吏の無責任体質 ナチス・ドイツの独裁下で国家反逆行為などを裁く人民法廷の長官を務めたローラント・フライスラー。ナチスに抵抗した学生グループ「白バラ」やヒトラー暗殺未遂事件の被告らに死刑判決を下した裁判官だ。 ドイツ人ジャーナリストの著者は、フライスラーの評伝として、ナチスの恐怖政治と完全に一体化した法律家の狂信的な行動を描くだけにとどまらない。多くの裁判官が、人道的な刑法を廃絶して国家の権利を第一とするナチスの法支配に「嬉々(きき)として」従った経緯を克明にたどり、敗戦後に何の反省もない彼らの態度を徹底的に批判する。 1934年創設の人民法廷による死刑判決は5243件。書では、第2次大戦中の43、44年にフライスラーが関わった判決文10件を代表例として紹介している。一般市民が職場の同僚らに何げなくもらした体制への不平不満が「死に値する大罪」と見なされた。判決文は不条理劇の

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  • 書評・最新書評 : われらの子ども―米国における機会格差の拡大 [著]ロバート・D・パットナム - 齋藤純一(早稲田大学教授・政治学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■公正に才能生かすため探求迫る 「二つのアメリカ」への分断。書が克明に描き出すのは、アメリカン・ドリームが過去のものとなりつつある現状である。 「二つの」社会階級は、親が大卒か高卒かで分けられる。書の魅力は、それぞれの社会階級に属する若者たちへのインタビューをもとに、一人称で語られる「二つの」物語を対比していることにある。 たとえば、湖に臨む瀟洒(しょうしゃ)な家に育ち、ロースクールを目指すチェルシーと、服役中の父をもち薬物に依存するデヴィッド。2人とも著者の故郷、オハイオ州ポートクリントンに育ったが、互いの溝は絶望的に深い。 書は、これらが特殊例にとどまらず全米に一般化できることを、計量分析によって実証する。周到な研究が明らかにするのは、昂進(こうしん)する格差が、誰と結婚してどこに住むか、子どもをどのように育て、教育するか、誰から助言を得られるかといった見通しにおいて、若者が分け

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