伊東乾『さよなら、サイレント・ネイビー』を読んだ後、改めてナチズムに関する研究書が読みたくなって、図書館に行ったところ、デートレフ・ポイカート『ナチス・ドイツ――ある近代の社会史』(1991年、原著1982年)*1という本があって、副題に「ナチ支配下の「ふつうの人びと」の日常」と付けられている。これまで私はナチズムやファシズムに関する入門書的な本や論文をいくつか拾い読みしたことはあるが、断片的な知識以外よくわからないことが多い。この本もまだ途中までしか読んでいないが、ところどころの「断片」が妙にリアルに共鳴して感じられる瞬間があって、惹き込まれてしまう。 国民がナチ政治に積極的に合意し、支持するかどうかはつぎのことにかかっていた。つまり、この体制が、本物であれ、みせかけであれ、ともかくたえずあたらしい成果をつうじて、保証、上昇、意味ある生活の展望といった、基本的な日常的要求の実現能力を演出