「接種したいと言える立場ではないと思っていた」。十月末、住まいがない人向けに新型コロナワクチンの集団接種会が開かれた豊島区の保健所。会場を訪れた野宿中の男性は安堵(あんど)の表情を見せて話した。男性の言葉は家を失った人たちが置かれた状況を表していた。 集合場所の公園に来たのは、路上やネットカフェなどで暮らす七十二人。接種券は住民票のある住所に届けられるが、異なる場所で暮らしていたり、住民登録が消除されたりして受け取れずにいた人たちだ。 国は住民票がなくても窓口に来た人には接種券を配るよう自治体に通知。が、困窮者らの医療支援を国内外でしている認定NPO法人「世界の医療団」(港区)が、無料の食品配布会場で行ったアンケートでは、希望者の三割が「券を受け取れない」と答え、情報が行き届いていない実態が浮かんだ。 接種が無料といった基本的な情報も知らない人がいる中、医療団と区は協議を重ね、易しい日本語