弁護士 弁護士 小林 令 1 はじめに 今回のテーマは「錯誤」です。 国語辞典等では、錯誤とは、「あやまり、まちがい、事実と観念とが一致しないこと」などとされていますが、民法上の「錯誤」については、その意義について様々な議論がされており、その議論の内容が、今回の改正民法にも大きく反映されています。 抽象的な議論を述べてもイメージが掴みにくいので、まずは、「錯誤」の具体的な事例について考えてみましょう。 2 錯誤の事例1 ある製品の売買契約の際、売主A1は、製品を1万ポンド(£)で売るつもりでしたが、代金を1万ドル($)と誤って記載してしまい(「$」と「£」を書き間違えてしまい)、かかる記載を見た買主B1が、当該製品を1万ドルで購入するとA1に伝え、A1とB1と間で、当該製品を1万ドルで売買するとの契約書が作成されました。この場合、売主A1からすると、本当は当該製品を1万ポンドで売るつもりで