→紀伊國屋書店で購入 一基にひとつの「火の見櫓物語」のスタートに 敦ちゃんちと俊ちゃんちの間に火の見櫓はあった。昭和40年代、山形県の内陸部の小さな集落を通る道と用水路が交わる地点で、近くには消防団のポンプ車庫がある。半鐘の音を聞くのは春と秋の火災予防週間で、朝夕定時に、カーン、カンカンカーンというリズムが繰り返された。子どもにとって火の見櫓は、その役割よりそれが立つ場所が重要で、「遊んではいけません」の鎖をくぐって湿っぽいコンクリートの土台に座り込んだり、鉄骨にのぼったり用水路を飛び越えたりして遊んだものだ。 櫓に見晴し台はなく、左手で梯子につかまったまま右手で半鐘を鳴らすタイプのものだった。火の見櫓なんてどこでもだいたいそんなものだろうと思っていたら、とんでもない。本書に収録されているのはおもに静岡県内のものだが、細部にわたってあまりにも多彩で驚いてしまう。まとめたのは「火の見櫓からま