大和田俊之さんの10年ぶりとなる待望の単著『アメリカ音楽の新しい地図』を、人間行動学・視聴覚文化の研究者で『うたのしくみ』の著者でもある細馬宏通さんにお読みいただきました。ポピュラー音楽の造詣も深い細馬さんに「新しい地図」はどう映ったか。(「ちくま」2021年12月号より転載) 2016年11月の大統領選におけるテイラー・スウィフトの発言で始まる本書は、2010年代から2020年までのアメリカ音楽と政治の問題を活写した一冊だ。それはちょうど、オバマ政権からトランプ政権へと移行し、一方でBLM運動をはじめとする市民運動が盛んになり、アメリカの文化が大きく変化しつつあった時期にあたる。 日本では音楽に政治を持ち込むべきかどうか自体が論じられることがあるけれど、アメリカでは名のあるミュージシャンが政治にコミットしないことの方が珍しい。アメリカ音楽の多くは歌い手の出身コミュニティと関わっており、歌