私自身も、2009年秋に中国の南京大学と武漢大學を訪問して、刑法学者と懇談していますので、最近の中国の刑法学界の模様については、断片的な情報を得ていましたが、最近来日された北京大学の陳興良教授の講演記録(「刑法雑誌」50巻2号、2011年)を読んで、改めて中国の刑法学の分野での「転換」と「再生」の全体像をかなり詳しく知ることができました。 その内容は、中国の歴史の変遷を踏まえた極めて大胆な問題提起を含んでいますが、その最大の特色は以下の2点にあると思われます。 第1は、中国の革命以前の「中華民国」の時代には、ドイツや日本の理論との交流があったが、革命によって断絶し、それ以後は「ソ連の刑法学」の圧倒的影響下に長らく置かれていたため、刑法学の自由な発展が妨げられていたといわれる点です。 第2は、ソ連の影響を受けた革命後の中国の刑法学の特徴が、「階級性の強調」と「解釈学の欠如」にあり、今や社会主