1 人生はなぞなぞのようなものだ、と誰かが言った。 例えば俺の場合、十二の頃に父親を殺すことになった。 父親は酒浸りで、酔うと俺や母親にも暴力を振るうろくでなしだったが、その時は違った。完全に別のものになっていた。 よく憶えてる。割れた月が馬鹿みたいに明るい夜だった。俺が家に帰ると、母親がリビングに横たわっていた。どうして、と思う間も無く理由がわかった。あたり一面血の海で、父親が、掻っ捌かれた母親の腹に首を突っ込んでいたからだ。食っているのだ、とすぐに分かった。 顔じゅう血まみれの父親と目が合った。俺は逃げたが、どうにもならなかった。床に抑え付けられて、母親の血がべったりついた歯で、父親が俺の喉笛を噛み切ろうとしているのがわかった。 俺は必死だった。近くにあった花瓶を手に取って、父親の頭を殴りつけた。 父親には恨みがあった。俺や母親を理不尽に殴りつけるこの男を殺したいと思ったことが無いとは