中世以前、猿は信仰され、また馬の守り神として飼われ、芸も仕込まれた。だが、信仰の零落とともに猿飼は賤視されるようになる。猿まわしを業とした人々はなぜ差別されたのか。地名と… 猿まわし 被差別の民俗学 [著]筒井功 人と猿の関係を解く書物は今までにもあった。猿とは何かを民俗学的に解説する書物も存在する。むろん、芸能民としての猿まわしや猿引きについても、民俗芸能のテーマとして、あるいは差別の問題として書かれてきた。 本書がそれらと何が異なるかというと、一つは猿まわしが担ってきた「隠密」、つまりスパイとしての役割をはっきり書いたことである。そしてもうひとつは、猿まわしが牛馬の祈祷(きとう)に特化したシャーマンであったことを、明らかにしたことである。 江戸時代の浅草には、弾左衛門(だんざえもん)屋敷を中心とする特別な町があった。ここには死牛馬の皮を扱う職人を中心に、木綿を売る店、質屋、湯屋、髪結い