序盤戦、中盤、そして終盤戦と推移するうち「時間の感覚が変わっていく」と森内九段は語る。不意に長考を始める棋士は、その姿を見つめる者たちとは違う流れの時間を生きている。 楽しい時間を短く、苦しい時間を長く感じることは、人間にとって自然なことだ。また、その人の年齢によっても時間の流れるスピード感覚は随分違うだろう。物理的な時間の長さと体感時間は、必ずしも一致しない。 世の中には数えきれないほどの職種があるが、私たち棋士はかなり特殊な時間感覚を身に付けた集団といえるだろう。スピード化が重視される今この時代において、持ち時間が各6時間という対局が日常的に行われており、開始から終局までに12時間以上かかることも珍しいことではない。日本からヨーロッパまで移動できる時間をかけて一局の将棋を指すのだ。 対局の序盤戦は、過去の記憶を思い返したり、気持ちを高めることに時間をかけることが多い。現代将棋において序