*本稿は、『国立民族学博物館研究報告』21巻4号に掲載された論文の短縮・改訂版です。 ポストモダン人類学の代価−ブリコルールの戦術と生活の場の人類学 序論 問題の所在 本論文の目的は、ポストモダン人類学(1)の研究動向をサーヴェイすることではなく、ポストモダン人類学におけるオリエンタリズム批判や文化の構築論が基づく、本質主義(essentialism)と構築主義(constructionism)の対立という枠組みが見えなくしていることを明らかにすることにある。ポストモダン人類学は、従来の人類学が問うことなしに前提としていた「文化」や「伝統」や「民族」や「ネイティヴ」といった諸概念を疑問視し、特定の他民族(他者)の文化の本質を客観的かつ全体的に表象できるとする民族誌的リアリズムを批判することから始まった。さまざまに分岐するポストモダン人類学には、本質主義への批判という共通点がある。 ポストモ