10月2日よりスタートした、NHK朝の連続テレビ小説『わろてんか』。葵わかな演じるヒロイン・藤岡てんのモデルが、吉本興業の創業者である吉本せい。 「せいはお笑いでなくても、ほかの仕事でも何でもできる人だったと思います」 そう話すのは、『吉本興業の正体』(草思社)の著者である作家の増田晶文氏だ。 “笑いの女王”と呼ばれたせいだが、私生活は決して“笑い”だけではなかった。その波瀾万丈の生涯を知れば、きっとドラマを何倍も面白く見られるはず─。 (1)夫の放蕩ざんまいの末に 大日本帝国憲法が公布された1889年(明治22年)に、せいは兵庫県明石市で林家の三女として生まれる。綿や麻などを扱う太物商だった両親は、彼女が生まれてすぐに大阪の天神橋筋に引っ越し、米穀商を始めた。 10歳になったせいは、行儀見習いで米穀仲介業の名門商家に奉公に上がる。ここは倹約家で知られ、食事をあまり進ませないよう、奉公人に