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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (6)

  • いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年半、わたしの会社からは何人かがいなくなった。転職や定年退職はカウントしていない。職場を変えるのではなく、ただ辞めた人の数である。 このところ疫病の感染状況はまったくよろしくないのだが、それでも出社は増えた。あまりに長期間なので、弊社の経営陣は「ある程度のリモートワークを残し、リスクは承知で出社してもらって、それでやっていくしかない」と考えたようである。緊急対応というには、二年半はあまりに長い。 そうすると増えるのが立ち話である。新人や新しいクライアントについての情報交換、リモートワーク生活のこと、リモート対応で導入されたソフトウェアの感想、そして、いなくなった人の話。 いなくなった人のひとりはわたしの新人時代の指導役だった。 二十年前のことだから、今から考えるとハラスメントが横行していた。社員個人を「女は」と

    いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2022/08/31
    まだ作者の中で熟されていない主題だったのかね。自分で考えついた結論に作者自身が納得いっていない感じがある。
  • 母の死に目に会えないだろう - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。だから僕はそれ以来母に会っていない。 僕が母と呼ぶのは養母のことである。実母は僕を産んですぐに亡くなった。もちろん記憶にはない。 血のつながりというものがどれほど強いのか僕にはわからない。僕は父とは血のつながりがあって母とはない、そいういう家庭で育ったわけだけれど、父母のどちらかだけを物の親だと思ったことはない。 父は僕と子ども同士のように遊ぶばかりの(今にして思えば)子育ての実務の役に立つことのない人だったし、父の威厳みたいなものもぜんぜんなかった。母は母でずいぶんと(当時にしては)進歩的な考え方の、なかなかのインテリで、高校の教員をしていて、当時のティピカルな母親像みたいなことをやってくれる人ではなかった。おかずはだいたいスーパーかデパ地下のやつで、僕はそれを親たちと一緒にべて大きくなったのである。 そんなだから

    母の死に目に会えないだろう - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2022/02/16
    いわゆる「進んでいるお姉さま」としてマガジンハウスとかに出てた人たちも平等に年老いて死んでいくんだな。そういえばYouTubeにあった昔のFMラジオを聴いたらHanakoのCMを大原麗子がやってて思わず手が止まった。
  • わたしの弟はワクチンを打たない - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。最初の通達から一年あまり、何度目かの通達のさなか、疫病のワクチンが提供されはじめた。それで全員が打つかといえば、そうではない。わたしの弟は打たないという。そして、わたしはそれを責めることができない。 弟は東京で一人暮らしをして、アルバイトで生計を立てている。今日働かなければ来月の家賃があやうい。運も悪かったし、弟の思慮が足りないところもあったと思うのだけれど、とりあえず自分で生活はできているのだし、人に大きな迷惑をかけているわけでもなし、責められるようなことではない。 わたしはそう思っているのだが、両親は「恥だ」と思っている。自分たちの助言をふいにして大学進学をせず、夢みたいなことを言っておかしな企業に就職してすぐに辞めてその日暮らしをしている、そんな浅はかな息子は心配するのも癪だと、そういうふうに思っている。 そうはい

    わたしの弟はワクチンを打たない - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2021/08/25
    1回目の副反応で二日間身動きが取れない状態になったからスケジュールに余裕が無ければどんどんワクチンから遠ざかるのも不思議ではないとは思う。ただ、いつになったら余裕ていうものができるんだろうか?
  • 愛に殉じたそのあとに - 傘をひらいて、空を

    里佳子さんがふたつ年上の夫と結婚して三年になる。子どもができたので退職するという。おめでたい話だ。けれど里佳子さんに限っては少なからぬ数の社員が個人的にざわついており、不審がった後輩が私のところに理由を尋ねに来るほどなのだった。彼は訊いた。なんで家庭に入るとまずいみたいな感じなんですか。あの人旦那さんラブだし別によくないですか。そうとも里佳子さんは旦那さんラブだよと私はこたえた。だから私たちはどうしたらいいかわからない。 最初に里佳子さんとその夫の問題に気づいたのは、自分の結婚式の二次会に彼らを招待した社員だった。里佳子さんたちはまだ新婚だった。ふたりのそばを通ったときに聞こえたせりふに彼女はひやりとした。これだから頭の悪い女はいやなんだ。 あとは里佳子さん人から、少しずつ聞き出した。里佳子さんは愚痴を言わない。ただ彼女が当たり前だと思っている話が、当たり前でない内容をふくんでいる。里佳

    愛に殉じたそのあとに - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2012/03/20
    多分彼の「それ」も答えではないだろうな。
  • 私を非難しないで - 傘をひらいて、空を

    うん別れた、たぶん。彼女はそう言い、たぶん、と私は訊きかえす。彼女はうなずく。私は考えながら質問する。 私のささやかな経験によれば、別れっていうのはそういう曖昧なものではなくって、いわゆる別れ話をして荷物をまとめて、持っていたら合い鍵を置いて、一緒に撮った写真を眺めて涙する、みたいな、そういう明瞭なものではないの。 それどっちかっていうと離婚じゃない、と彼女は訊く。私は少しはずかしくなって、結婚の経験はないよとこたえる。彼女はなぜだか数秒のあいだ笑って、あなたと私では彼氏の定義がちがうんじゃないかなと言う。私、彼の家に行ったことない。写真も持ってない。彼は私を撮ってたけど。別れ話っていうのもよくわからない。どっちかが別れる気になったらそれでおしまいなのに、何を話すの。 私は衝撃を受けて少しのあいだ口を利けないでいた。ひとつずつ質問しよう、と思う。まずおうちについて。どちらかの家によく行くの

    私を非難しないで - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2010/09/08
    「心のきしむ音」(山下達郎)か。多分別れの辛さよりも自分の薄情さに彼女は傷ついているのかもしれない。
  • 読書感想文とタカエちゃんのこと - 傘をひらいて、空を

    ひとりでを読んで終わったら次のを読んで、それが楽しくてずっとそうしてきたんだけれど、どうしてかこのところひとりで黙って読んでいるとさみしい。さみしいというのはつまり他者を求めているということで、だからいろんなところがうっすらとさみしいのは健康でいいことだと思う。特定の狭い部分だけが熱烈にさみしいのはあまり良い状態ではない。それが満たされる快感は異常に強く、ほとんどそのために生きているんじゃないかと思えるくらいだけれども。 それで感想文を書くことにした。私は読書感想文を書くのがわりに好きで、中学生のときには人のぶんまで受注して小銭をもらっていた。お得意さまはタカエちゃんで、タカエちゃんは背が高くて大人びた女の子だった。タカエちゃんは勉強が嫌いで、なかでも字を読むのは鳥肌が立つほど嫌いなのだった。タカエちゃんは数学だけは教室でなんとなく聞いていればそこそこの点数がとれて、お裁縫が上手だった

    読書感想文とタカエちゃんのこと - 傘をひらいて、空を
    hiruhikoando
    hiruhikoando 2010/06/24
    願わくはタカエちゃんにも幸せを、と思うのはおいらの傲慢なのかな。
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