ジャック・ラカンの思想のほとんどは、「語られたもの」の記録である「セミネール」を媒介にしてでなければ知ることができない。ラカンは1981年に亡くなっていて、すでに死後17年が経過しているが、そのセミネールの記録のすべてが読めるわけではない。未刊であった『セミネールXIX』の刊行は2008 年の5月ごろとされていたが、何らかの理由で延期された。未刊行のセミネールについては、いわゆる「海賊判」の存在が知られているが、普通の読者が簡単に読める状況ではない。私は最近ある尊敬する友人に勧められてジョアン・コプチェクの『<女>なんていないと想像してごらん』(鈴木英明、中山徹、村山敏勝訳:河出書房新社、2004年)を買ってきて読んだ。私がコプチェクの論文を初めて読んだのは、Janet Bergstrom編の論文集Endless night,cinema and psychoanalysis,parall