本書は、2005年に刊行されたPushkala Prasad著『Crafting Qualitative Research: Working in the Postpositivist Traditions』の全訳です。原題にあるcraftという語は、その含意を日本語で短く表現することは難しいため、邦題には直接生かされていませんが、職人が手仕事で何かを創りあげることを表す動詞です。この原題には、数字に還元できない質的データを丹念に読み解き、洗練された研究として練り上げていくための道筋を示す、という著者の姿勢が込められていることがうかがえます。 人文社会科学系の多くの学問において、質的研究は重要な研究方法論です。その背景には、実験や調査といった定量的な方法論の基盤となる実証主義とは一線を画した認識論の枠組み、「ポスト実証主義」があります。それはすなわち、研究対象たる世界を、自分とは切り離され