「これは、ご神体ではない」 マツダ広島本社工場の工機部門内にある、「ツーリング製作部(Tool & Die Production Dept.)には、“ご神体”が祀られている。クレイモデラーが「魂動デザイン」をかたちづくった110センチほどのデザインオブジェだ。ご神体にはお神酒が供えられ、生産部門の職人たちは、まるで“神様”のごとくオブジェを崇める。 現場の職人たちは判断に迷うと、ご神体を仰ぎにやってくる。その前にたたずみ、じっと観察する。醸し出す表情や抑揚に、デザイナーのこだわりを感じとるためだ。その重要性について、金型部門の橋本昭は次のように語る。 「ご神体には、マツダデザインのイズムがすべて入っとる。デザインさんの思いを再現するには、ご神体の実態をよう知らにゃいかん」 ご神体の役割は、クルマに「命」を吹き込むことだ。 「最初にご神体を目にしたときには、なんと難しいかたちなのかと思った。