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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (377)

  • 「美」とは客観的に測定できるのか、見る者の目に宿る存在なのか『近代美学入門』

    よく「美とは観る者の目に宿る」と言われるし、均整の取れた肉体を美しいと感じる。どちらが「美」かを選ぶことは難しい。 強いて言うならば「B」だろうか。 絵画や音楽、文芸や舞踊などの芸術作品で、「これは美しい」と評価されるものは、独創的で唯一無二であることが重要な要素であるように思える。もちろんそこに、伝統的な「型」があるかもしれないが、それを踏まえたうえであえて破ったものが「美」とされているのではないだろうか。 『近代美学入門』(井奥陽子、ちくま新書)によると、AとB、どちらも正解になる。 「美しい」とは何か?この疑問について、「芸術」「美」「崇高」「ピクチャレスク」という概念からアプローチしたのが書だ。 これらの概念がいつ・どのように成立し、時代の中でどうやって変遷していったかをたどることで、わたしが抱えていた「常識」が常識ではないことに気づかせてくれる、優れた解説書であり啓蒙書でもある

    「美」とは客観的に測定できるのか、見る者の目に宿る存在なのか『近代美学入門』
  • 死ぬまでに読みたかったベイトソンが「いま」読める幸せ『精神の生態学へ』

    面会にやってきた母親を、息子はハグしようとする。母親は身をすくませるため、息子はハグを諦めて、少し離れる。すると母親は悲しげに言う「もうお母さんのことを愛してくれなくなったの?」 母親が帰った後、息子は暴れ出したので、保護室へ収容される。 グレゴリー・ベイトソンは、統合失調症の息子ではなく、母親の言動に注目する。息子のことを愛していると言う一方で、息子からの愛情を身振りで拒絶する。さらに、息子からの愛が無いとして非難する。 息子は混乱するだろう。ハグしようとする愛情表現を拒絶するばかりでなく、そもそもハグそのものが「無かったこと」として扱われる。にも関わらず、息子のことを愛していると述べる……そんな母親に近づけばよいのか、離れればよいのか、分からなくなる。 矛盾するメッセージに挟まれる ベイトソンは、この状況をダブルバインドと名づける。会話による言葉のメッセージと、身振りやしぐさ、声の調子

    死ぬまでに読みたかったベイトソンが「いま」読める幸せ『精神の生態学へ』
  • 認知言語学から小説の面白さに迫る『小説の描写と技巧』

    小説の面白さはどこから来るのか? 物語のオリジナリティやキャラクターの深み、謎と驚き、テーマの共感性や描写の豊かさ、文体やスタイルなど、様々だ。 小説の面白さについて、数多くの物語論が著されてきたが、『小説の描写と技巧』(山梨正明、2023)はユニークなアプローチで斬り込んでいる。というのも、これは認知言語学の視点から、小説描写の主観性と客観性に焦点を当てて解説しているからだ。 特に興味深い点は、小説の表現描写が、人間の認知のメカニズムを反映しているという仮説だ。私たちが現実を知覚するように、小説内でも事物が描写されている。 認知言語学から小説の描写を分析する 通常ならメタファー、メトニミーといった修辞的技巧で片づけられてしまう「言葉の綾(あや)」が、ヒトの、「世界の認知の仕方」に沿っているという発想が面白い。これ、やり方を逆にして、認知科学の知見からメタファーをリバースエンジニアリングす

    認知言語学から小説の面白さに迫る『小説の描写と技巧』
  • 知覚できないが実在するもの『天然知能』

    お掃除ロボット「ルンバ」は、段差のないフローリングを自在に動き回り、人の代わりにキレイにしてくれる。小さな紙切れから、大事にしていた指輪まで、吸い込めるものは全て吸い込もうとする。 では、ゴミとは何なのか? ルンバの発明者であり、MIT人工知能研究所の所長でもあるロドニー・ブルックスは、これ以上ない明確な回答をする。 「ルンバが吸い込んだものがゴミだ」 これは、人工知能質を見事にいい当てているという。ルンバにとって、自分では吸い込めない、大き目の紙コップや空缶は、ゴミとして認識されない。故にゴミではない。 もちろんルンバが改良され、カメラによって紙コップや空缶を認識し、正しく分別できる時代が来るかもしれない。だが、そのルンバが認識できない、粗大ゴミやネズミの死骸は、やはりゴミではない。さらに改良を重ねても同様で、自分が扱えないものはゴミとして認識できない……そういう思考様式だ。 一方

    知覚できないが実在するもの『天然知能』
  • ファンタジーの最高峰『氷と炎の歌』からテイラー・スウィフトの泣けるラブソング「Death By A Thousand Cuts」まで、4年ぶりにオフ会したら、みんなのお薦めが積み上がった

    ファンタジーの最高峰『氷と炎の歌』からテイラー・スウィフトの泣けるラブソング「Death By A Thousand Cuts」まで、4年ぶりにオフ会したら、みんなのお薦めが積み上がった 推しの作品を持ち寄って、まったり熱く語り合うオフ会、それがスゴオフ。 に限らず、映画音楽ゲームや動画、なんでもあり。なぜ好きか、どう好きか、その作品が自分をどんな風に変えたのか、気のすむまで語り尽くす。 SF、愛、ホラー、お金など、その時その時のテーマがあって、そのテーマに沿ったお薦めならなんでもOKになる(テーマ一覧)。今回は4年ぶりの開催ということで、「久しぶりにお薦めしたい作品」、要するにノンテーマで集まった。 推しへの熱量にアテられて、思わずこっちも身を乗り出す。知らない作品を身近に感じ、思わず手に取って見たくなる。自分のアンテナがいかに狭いかを思い知る。読みたい、観たい映画、聴きた

    ファンタジーの最高峰『氷と炎の歌』からテイラー・スウィフトの泣けるラブソング「Death By A Thousand Cuts」まで、4年ぶりにオフ会したら、みんなのお薦めが積み上がった
  • 未来を既読にする一冊『SF超入門』

    治療法がない疫病の感染者に、人は、どれだけ残酷になれるか。脅威を恐怖として煽るマスコミのせいで、防疫と差別を取り違える輩が登場し、およそ人とは思えないような残酷なことを平気で実行する。 「健康」が義務化され、不健康であることが罪となる社会では、自分の体を自分で自由にすることすらできない。健康が強制される管理社会において、最終的に支配する対象は「心」になる。 現代日の話ではなく、サイエンス・フィクションの話をしている。 物語であるにも関わらず、恐ろしいほど「いま」「ここ」を示している。コロナ差別や、背番号で健康管理をする時代のずっと前に、作品は世に問われ、エンタメの形で消費されてきた。 だから、物語が現実の形で登場するとき、「ああ、これは読んだことがある」と気づくことができる。目の前で進行する出来事に対し、「これは履修済み」として受け止めた上で、その物語を比較対象にしながら、是非を検討でき

    未来を既読にする一冊『SF超入門』
  • 言語学とは理系のものか?文系のものか?『言語はこうして生まれる』

    7000をも超える体系があり、音声や文字の組み合わせは多岐に渡り、かつ同じものであっても時代や場所により変化する。言語というものは、数えきれないほどの多様性を持っているといえる。 一方、そうした変化は些末なものであり、音と文字によって表す語と、語どうしを規則的に並べることによって成立していることに変わりはない。規則性の差異は表層的なものであり、言語としてはただ一つといえる。 言語は多様か一様か、言語学を巡る、文系 vs. 理系の仁義なきバトルが繰り広げられるのが書だ。 この記事ではバトルの概要とともに、どちらの立場においても欠けている視点を紹介する。 言語とはジェスチャーゲームのようなもの 書によると、現代の話し言葉は複雑で、無秩序で、規律に反しているように見える。 完璧な理想形があり、それが崩れているというよりも、最初から複雑でカオスなのだ。そんな無秩序でコミュニケートできるのだろう

    言語学とは理系のものか?文系のものか?『言語はこうして生まれる』
  • この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    「いつか読もう」はいつまでも読まない。 「あとで読む」は後で読まない。 積読をこじらせ、「積読も読書のうち」と開き直るのも虚しい。人生は有限であり、が読める時間は、残りの人生よりもっと少ない。「いつか」「そのうち」と言ってるうちに人生が暮れる。 だから「いま」読む。 10分でいい、1ページだっていい。できないなら、「そういう出会いだった」というだけだ。「いま」読まないなら、「いつか」「そのうち」もない。 に限らず情報が多すぎるとか、まとまった時間が取れないとか、疲れて集中できないとごまかすのは止めろ。新刊を「新しい」というだけの理由で読むな。積読は悪ではないが、自分への嘘であることを自覚せよ。「いま」読むためにどうしたらいいか考えろ。「」にこだわらず読まずに済む方法(レジュメ、論文、Audible)を探せ。難解&長大なら分割してルーティン化しろ。こちとら遊びで読書してるんだから、仕事

    この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(後編)

    世界史を学びなおす最適な入門書から、歴史をメタに語る一冊まで、徹底的に熱く語り合った2時間をまとめた。 前編はこちら youtube動画はこちら 世界をバズらせる スケザネ:「書かれたものが世界を変える」という観点だと、これにつながりそう。『「世界文学」はつくられる:1827-2020』(秋草俊一郎、東京大学出版会)というで、「世界文学」という概念がどのように作られ、変わっていったかがテーマです。以前の対談でも話題になってたやつです。 そこに、ゴーリキーの世界文学叢書が出てきます。ソビエト連邦という国家が誕生し、当代一流の世界文学を集めて出版しようという話になった。実はここに、政治的な動機がありました。 ロシア文学だけでなく、世界各国の言語から優れた作品を選び取り、なおかつ全集として出せるというのは、それだけロシア文化的に先進的だという政治的なメッセージになるのです。国や言語を越境して

    面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(後編)
  • 面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(前編)

    お薦めの世界史のについて、3人で2時間語り合った。 世界史を学びなおす最適な入門書や、ニュースの見方が変わってしまうような一冊、さらには、歴史を語る意味や方法といったメタ歴史まで、脚家タケハルさん、文学系Youtuberスケザネさん、そして私ことDainが、熱く語り合った。 全文はyoutubeで公開しているが、2時間超となんせ長い。なのでここでは、そこから厳選して紹介する。 因果関係を補完する『詳説 世界史研究』 スケザネ:大学生、あるいは社会人の方々にも、世界史を学ぶには、まず真っ先に「高校世界史」をオススメしたいです。世界の歴史を幅広く知るという観点から、高校世界史はベストだと思います。 代表的な高校世界史の教科書は、山川出版社の『詳説 世界史B』。世界史の概観が400ページぐらいにまとめられてて良いなんですが、これだけだと記述が簡素で、理解するには少ししんどい。 実際、自分が

    面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(前編)
  • この本がスゴい!2021

    「後で読む」は、あとで読まない。 「後で読む」は、あとで読まない。 「試験が終わったら」「今度の連休に」「年末年始は」と言い訳して、結局読まなかった。「定年になったら読書三昧」も嘘になるだろう。そもそも、コロナ禍で増えた一人の時間、読書に充てたか?(反語) だから「いま」読む。 たとえ一頁でも一行でも、目の前の一冊に向き合う。いま元気でも、一週間後には、読めなくなるかもしれないから。 今年は、死を意識した一年でもあった。「やりたいこと」を先延ばしにしてるうちに、感染して望みが断たれる可能性が爆上がりした。 時の経つのは早い。人生が長いほど、一年は短くなる。体感時間は加速する一方、人生の可処分時間は、短くなる。 だから「いま」読む。 積読を自嘲したりマウント取るのもヤメだ。いま読まない理由を並べ立てて開き直る不毛も捨てよう。そして、ずっと取っておいた、とっておきのを、いま読む。 そんなつも

    この本がスゴい!2021
  • この本がスゴい!2020

    今年の一年早くない? トシ取るほど時の流れを早く感じるのは知ってるけど、今年は特に、あっというま感がすごい。恒例のこの記事、もう書くの!? と思ってる。 毎年、「人生は短く、読むは多い」と能書き垂れるが、今年は、「人生は加速的に短く、読むは指数的に多い」と変えておこう。 そして、昨年と比べると、世界はずいぶん変わってしまった。 基的に外に出ない、人と会わないが普通になり、マスク装備が日常になった。オフ会や読書会でお薦めしあった日々は過去になり、代わりにZoomやチャットでの交流が増えた。 ポジティブに考えると、そのおかげで、読み幅がさらに広がった。わたし一人のアンテナでは、絶対に探せない、でも素晴らしい小説やノンフィクションに出会うことができた。お薦めしていただいた方、つぶやいた方には、感謝しかない。 さらに、今年はを出した。 ブログのタイトルと同じく、[わたしが知らないスゴは、

    この本がスゴい!2020
    keloinwell
    keloinwell 2020/12/01
    休みの間に少しずつ読んでいこう
  • 『わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる』という本を書いた

    心を揺さぶり、頭にガツンとらわせ、世界の解像度を上げるは、確かにある。 読前と読後で自分を一変させる、すごい(スゴ)だ。から得られた知は、行動を変え、習慣を変え、人生を変える。これホント、なぜならわたしの身に起きたことだから。そんな「人生を変える運命の一冊」は、実は何冊もある。 このブログは、そうしたを中心に紹介してきた。これに加え、どのように探し、どう読み、何を得て、どんな行動につなげたかをにした。タイトルはブログと同じ、『わたしが知らないスゴは、 きっとあなたが読んでいる』だ。 ここには、あなたにとっての「運命の一冊」を見つける方法を書いた。あなただけのスゴと出会うパーフェクトガイドだ。3行でまとめると、こんな感じ。 を探すのではなく、人を探す方法 お財布に優しく(ここ重要)、スゴに出会い、見合い、結婚する方法 (良書なのは分かってるのに、なかなか読めない)運命の

    『わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる』という本を書いた
  • この本がスゴい!2019

    人生は短く、読むは多い。 毎年この時期、自分のリストを振り返るのだが、読みたいが尽きることはない。読むほどに、知るほどに、知識と理解と表現の不足を痛感する。 それでも読むし、ここに書く。読むことで豊かになり、書くことで確かになるというのは当で、読んでいるときに何を知りどう考えていたかは、書くことでハッキリする。 つまり、自分で分かるために書いているのだ。フランシス・ベーコンは、話すことで機敏になるとも言ったが、わたしの場合、話すことで世界が変わった。[スゴオフ]や読書会、[冬木さんとのSF対談]や、読書猿さんとの知をめぐる対談[1][2][3]で、世界の見え方が変わった。 読書会や対談は今後もしていくが、そこで紹介されたや、2019年に出会ったの中から、わたしにとってのベストを選んだ。これが、あなたにとってのスゴとなれば嬉しい。そして、このリストを目にしたあなたが、「それがス

    この本がスゴい!2019
  • 惑星と電子をつなぐもの『科学とモデル』

    惑星も電子も中学で習うが、そこで学んだ常識を疑うのは難しい。惑星は太陽のまわりを回り、電子は原子のまわりを回る、と考えていた。 ところが、みんな大好き量子論からすると不確定性が生じ、電子とは、惑星のように軌道を描いているよりも、雲のように確率的に分布する存在となる。 アインシュタインは「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのこと」と述べたが、ラザフォードのモデルに太陽系を見てしまう「偏見」は、弦理論を学んだところで捨てるのは難しい。 Wikipedia 「ガイガー=マースデンの実験」By 投稿者自身による作品 (CreateJODER Xd Xd), CC 表示-継承 3.0, Link モデル=世界の一部? これは、モデルを通じて世界を見るあまり、「モデル=世界」が成立してしまっているからだ。教科書で学んだ原子核モデルはフィクションかもしれないが、太陽や月や星の動きを見た経験

    惑星と電子をつなぐもの『科学とモデル』
  • まとめ「中高生の進路選びに役立つ話」

    学校の先生は、大学と偏差値の話しかしない。 そのくせ、個性だ適職だと言ってくる。 だいたい、未来がどうなるかも分からないのに、 いま決められるわけがない! どの時代の若者も、進路について悩んできた。 そんな悩める中高生のために、進路と生き方について、[スゴオフ]で、人生の先輩と話す会を企画した。様々なキャリアの人をお招きし、やって良かったこと、こうすれば良かったと後悔していること、あの頃に戻れるなら、どんな選択をするか等、いろいろ話してもらったので、ここにまとめる。 人を探せ・英語をやれ 最初はわたし。 やって良かったことは、「人」で進路を選んだこと。高校時代にハマった人に師事したく大学を選んだのだが、正解だった。この姿勢はいまにも通じる。興味のある方向の先にいる「人」を探し、私淑・親炙する(この方法は読書猿『アイデア大全』の「ルビッチならどうする?」に詳しい)。 しかし、「人」が分から

    まとめ「中高生の進路選びに役立つ話」
  • 映画『ニューヨーク公共図書館』を観たら、未来の図書館が見える

    フレデリック・ワイズマン監督『ニューヨーク公共図書館』を観てきた。ニューヨーク公共図書館(NYPL)そのものを主役とし、そこに集う人々を丹念に描いており、ものすごく贅沢な3時間が、あっという間だった。 図書館を超えた図書館の姿を眺めているうちに、「図書館とは何か?」についての具体的な回答と、その回答から導かれる未来の図書館が見えてきた。 図書館とは何か 「図書館とは何か?」について持っているイメージは、この映画によって覆るかもしれない。静謐な空間で賢そうな人がに没頭するといった静的な姿がある一方、大盛況の就職セミナーや講演会、パソコン教室、低所得者への支援といった動的な面が際立つ構成となっている。 そうした営みを見ているうちに、図書館とは、ただを集めて貸し出すだけの場所ではない、ということに気づく。 NYPLに集う人は、様々な「知りたい」ことを抱えてくる。面接でどうふるまえば合格できる

    映画『ニューヨーク公共図書館』を観たら、未来の図書館が見える
  • 「語りえぬもの」とは何か?『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考 』

    「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」 ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』は、この一文で終わっている。 ウィトゲンシュタインは、この一文を証明するために『論考』を書いた。 すなわち、この一文が分かることは、『論考』が分かることに等しい。 何度も挑戦し、挫折し、さまざまな回り道をしてきたが、古田徹也氏が著した『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』で、ようやくたどり着いた。やっと「分かった」と言えるようになった。 しかし、当に「分かった」のか? 独りよがりに陥っていないか? それを確かめるために、自分の言葉で説明しなおす。「語りえぬもの」とは何か? なぜ沈黙しなければならないのか? 「語りえぬもの」について、わたしの理解を確かめたい。 「語る」とは何か まず、「語る」について語ろう。ここで言っている「語る」とは、何か意味のあることを言葉で表現することだ。たとえば、 あの日見た花

    「語りえぬもの」とは何か?『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考 』
    keloinwell
    keloinwell 2019/05/21
    論理哲学論考は家にあって、ことあるごとに読み返すんだけど、分かった、という感覚には到達できない。
  • 「レンガ」がローマを作り、「鉄」がアメリカを作った『世界建築史15講』

    アーチ建築技術の基礎をなすレンガは、土を素材とする。 土は、地上のどこにでもある。 だから、植民都市のいかなる場所でもローマを実装できた。 ローマが大帝国となった理由を、政治や軍事に求める人は多いが、「ローマとはレンガの帝国である」という着眼に、頭ガツンとやられた。 植民都市に送り込まれたエンジニアが、そこの土を素材とし、レンガを作り、レンガを積み上げ神殿を建て、都市をつくった。道路が舗装され、水道が引かれ、インフラが整備された。紀元後には、石灰由来のセメントと切石を骨材としたコンクリートが発明され、文字通りローマ帝国の礎となった。 歴史を振り返るとき、一般に、国家や王朝の盛衰や、社会や文化の変遷を思い浮かべる。 しかし、そうしたフレームを捨て、「建築」という視点で見直すとどうなるか? これを成し遂げたのが書になる。「建築の歴史は人類の歴史である」という立場のもと、15の講義+15の補講

    「レンガ」がローマを作り、「鉄」がアメリカを作った『世界建築史15講』
  • 知の泥棒の歴史『図書館巡礼』

    図書館巡礼』は、書物と図書館について四方山話を集めた一冊だ。「」を追い求める営みが真摯で、ひたむきであればあるほど、常軌を逸した書痴っぷりが伝わってきて、非常に楽しい。 知の泥棒の歴史図書館巡礼』の著者は気づいていなさそうだが、書は、知の泥棒の歴史に見える。 口伝、写、書物、ROM、媒体は異なれども、人は知を集めようとしてきた。知は必ずしも正当な方法で集められるとは限らない。ひそかに盗み出されたり、言葉巧みに持ち出されそのまま帰ってこなかったり、ときに権力者によって強制的に収奪されることもある。 さらに、知の集積所である図書館には、知識だけでなく、知を司る人や、それを複製する人、売り買いする人たちが集まる。中には不心得者がいて、写を失敬し、売りさばいたり自分のモノにする人もいる。 こうした知の泥棒たちは、自分の行為をやましいと思っていない。むしろ、その書物の当の価値を知って

    知の泥棒の歴史『図書館巡礼』