「つゆだく言うても程があるやろ、作り直せやババァ!」 そんな暴言で吉野家の店員さんを怒鳴りつけたのは、50代くらいのビジネスパーソンだろうか。 乱暴な言葉遣いと裏腹に、濃紺のスーツに白Yシャツ姿の紳士だ。 ビジネス街なのでおそらく近辺の、大きな会社の社員なのだろう。 「大変申しわけございませんでした、すぐにお作りし直します」 震える声で応えながら牛丼の器を下げるのは、70歳前後にみえる細身の女性である。 顔面蒼白になり、やや緩慢な動作でお盆を運ぶ姿に母親が重なって、胸に痛みを感じる。 平日の夕方、食事には中途半端な時間なので、客はそのオッサンと私しかいない。 さすがにこれ以上何か言おうものならケンカを買ってやろうかと思ったが、幸いオッサンは作り直された“ちょうどいいつゆだく”に満足し、すごい勢いで食べると乱暴にお金を叩きつけ、店を出ていってしまった。 「大変でしたね。どうかあんなヤカラのこ