とてもいい本だ。ひきこもり歴20年という著者が書いたこの本の基本的な視点は、本書の言葉でいえば「ひきこもり資産」の活用だろう。経済学では人的資本という考えがあるが、これは労働を投資によって生産性を高めることができる資本という見方である。それに対してこの「ひきこもり資産」は、人的資本の見解とは対立している。どんなに「ひきこもり資産」に投資(=ひきこもり)しても生産性を高めることには結び付かない(まあ、絶対ではない。なぜなら著者自身この著作という「成果」を得ているわけだから)。 「ひきこもり資産」が蓄積していけば、ひきこもりの経験知を整理し、それを人に伝えることができるかもしれない。あるいはそのような整理・伝達行為が、他の人たちのひきこもり資産の低位安定を引き上げたり、またはひきこもり行為だけではなく、別な非ひきこもり行為との間でのいずれの立場をとるかという選択をする機会をひろげるかもしれない